第73回 福島後の未来:日本の真の電力自由化には送電線への自由なアクセス=山家公雄

太陽光や風力で発電した再生可能エネルギー(再エネ)が大手電力会社の基幹送電網に接続できない。この問題の解決が米国のように送電網を完全開放するための一歩ともなりうる。

 

山家公雄(エネルギー戦略研究所取締役研究所長)

 日本の再エネは太陽光を中心に導入が進んだ。東北地方に導入される再エネの主役は風力だ。2011年3月11日に発生した東日本大震災を受けて、私は風力を中心として、地熱・森林など豊富な再エネの活用や分散型発電システムの先行整備による東北地方の復興を提唱してきた。 


  その後、日本では12年に再エネ電気の固定価格買い取り制度(FIT)が導入され、16年には電力小売り全面自由化が実施された。さらに20年に大手電力会社の発送電部門が法的に分離される。

 

  ◇送電線利用率は2割

 

  しかし、発電設備の立地の影響を事前に調査する環境影響評価手続きを経て、ようやく風力発電の開発が軌道に乗るとみられた16年5月末に、再エネ発電設備は送電網に突然接続ができなくなった。
 「送電線の空き容量ゼロ」問題の勃発である。東北電力のホームページに掲載された送電線空き容量マップは、青森、秋田、岩手の3県はほぼすべてゼロとなった。


  容量ゼロはその後、北海道など各地に伝播(でんぱ)していく。


  一方、再エネの普及・促進策を研究する京都大学再エネ経済学講座グループは、17年10月に青森、秋田、岩手、山形県と北海道を対象として、公表データを基に主要送電線利用率の試算結果を発表した。この利用率とは、1年間に送電線に流せる電気の最大量に対し実際に流れた量の年間平均割合だ。試算結果は、利用率1~2割と著しく低かった。さらに同講座グループは18年1月に対象を全国に拡大し試算したところ、こちらも利用率は2割だった。


  これは「空きがないvs空きはある」というわかりやすい構図で多くのメディアに大きく取り上げられた。守旧派は「年間平均の利用率ではなく、年間で最も多く電気が流れた時に送電線の容量がどれくらい埋まっているかで見るべきだ」と強調。


  しかし、年間の瞬間最大値でも利用率は6割であり、これは空いていると見るのが自然である。しかも送電線には予備回線があり、緊急時用に待機している。やはり、空いているのである。


  この送電線の空き容量問題とは何であろうか。それは、すでに送電線に接続する契約を結んでいる既存の電源と、これから結ぼうとする新規電源との間で、著しく公平性に欠けている状態を示す。


  既存の電源は、稼働状況にかかわらず、常に定格(最大)出力を送電線に流してもよいと約束されている。接続契約を結んでしまえば、例えその電源が運転開始前でも最大出力分の送電線容量を与えられる。


  一方、新規電源は、「空き容量ゼロである」と大手電力会社にいったん判断されたら接続できない。あるいは多額の送電線増強工事負担金が課される。既存電源の多くは自由化前の発送電一体の電力会社の内部組織で、実質負担を伴わずに送電線に接続できた。まず電源立地があり、その後に送電線が計画された。


  電力自由化とは、発電事業と小売り事業に競争原理が導入されることだ。インフラである送電線について、先発、後発にかかわらず誰もが公平に利用できることが大前提となる。ところが、送電線は発送電一体の大手電力会社が所有しており、身内の発電組織が有利になるような配慮が働いてしまう。


  そこで送電部門の完全中立化が、自由化が機能するための最大のカギになる。やり方としては2通りある。欧州連合(EU)は発送電分離を実施し、送電部門を別会社にした。米国は、送電線の管理・運用を独立した機関に移管する方式を採用した。

◇米国はオープンアクセス

 

 この二つのうち、日本が参考になると考える米国方式について解説する。私は今年5月にワシントンDCを訪問し、連邦エネルギー規制機関(FERC)の関係者や、米国中東部13州の独立送電線運用機関であるPJM(Pennsylvania-New Jersey-Maryland Interconnectionの略)の責任者に話を聞く機会があった。米国は、1990年代後半に電力自由化が開始され、連邦政府が最初に、そして最大限注力したのが送電線利用の公平化だ。これは「オープンアクセス」と称された。


  オープンアクセスは、発送電一貫の垂直統合型の大手電力会社の発電部門が独占していた送電線利用権を、第三者にも平等に開放すること。電力取引の中核は卸市場だが、FERCは効率的な卸市場を形成するためには、発電事業の自由化が不可欠であり、それにはオープンアクセスが肝になると考えた。


  FERCは、卸取引や州をまたがる送電線運用に関して法制化できる権限を持ち、これを行使した。効率性向上や消費者メリットなどの効果を広く理解してもらうとともに、送電線の容量に関する情報を収集し、その効率的な利用方法を検討した。

 大手電力会社は強力な抵抗勢力であり、彼らとの調整が鍵を握った。FERCはストランデッド・コストの存在を認め、その対処を約束した。ストランデッド・コストとは、発電設備などの大手電力会社の所有資産に関し、自由化でルールが変わることに伴い、設備投資分の回収が困難となって発生する費用のことだ。


  ルール変更は事業者の経営責任ではなく政府の責任にする、という理屈だ。ほとんどの州がFERCの方針に倣ってストランデッド・コストに対して理解を示した。このオープンアクセスとストランデッド・コストの抱き合わせ導入は、大手電力会社の説得に大きな効果を発揮した。


  当時のFERC委員長エリザベス・モラー氏は「結果的には、大手電力会社側からFERCに対して具体的な費用請求は出てこなかった。大手電力会社も効率化の必要性や自身の事業エリアを超えて販売などの事業活動をできるメリットを理解するようになった」と語る。


  こうした準備や調整を経て、FERCは96年に送電線のオープンアクセスに関する歴史的な発令「オーダー888」と「889」を出した。


  888は送電の運用部分を切り離して機能分離すること、独立送電線運用機関の創設を奨励すること──をうたっている。目的は、すべての発電事業者について接続、費用負担、情報共有に関する差別を取り払うことである。米国の独立送電線運用機関は次第に拡張し、現在は需要の4分の3を占めるに至っている(図)。889は送電情報の共通システム構築とすべての関係者が情報へ公平にアクセスできることを担保するもの。まさに、今現在日本で問題になっているところだ。


  日本の自由化は今まで、オープンアクセスを先送りしてきた。20年に送電部門を法的に分離する。しかし、完全に中立になるのか、電源は既存・新規にかかわらずオープンアクセスが保証されるのかは不明だ。


  そうしたなかで送電線空き容量ゼロ問題が発生した。前向きにとらえれば、自由化の基礎となるオープンアクセスの問題がようやく議論の俎上(そじょう)に載ったということだ。欧米に遅れること20年超である。
  形の上では、16年4月より全面自由化が始まっているが、魂は入っていなかった。真の自由化とは何かを突き付けたのが、この送電線空き容量問題である。


  日本はオープンアクセスに待ったなしで取り組まなければならない。再エネ普及、送電線接続問題というよりも、世界共通のシステムとなった「自由化」の基礎構築の話だ。

 ◇やまか・きみお


 1956年山形県生まれ。東京大学経済学部卒業。1980年に日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。2009年より現職。14年4月より京都大学大学院経済学研究科の特任教授。