特集:大学消滅 2018年7月24日号 

再編第二幕の幕開け 

人口減で数百校が危機に

 

中根正義(毎日新聞社大学センター長)

 

 ここ10年ほど120万人で安定していた18歳人口が今年から再び減り始める。近年、関係者の間で話題になっていた「2018年問題」である。大学入学年齢である18歳人口が減少期に向かうことと軌を一にし、国立大学の再編・統合を巡る動きが活発化している。国立大学が独立行政法人化された04年前後にも大学の統合が相次いだが、今回の動きは再編劇の第二幕ともいえるものだ。

 

 まずは18歳人口の推移を見てほしい(図1)。現在、受験生を抱える親世代が高校・大学生だった1990年ごろ、18歳人口は約200万人あった。それが1992年の205万人をピークに減り続け、09年には約4割減の121万人になった。今年から再び減少に転じ、34年には100万人を切り、40年には90万人を切ると予想されている。この半世紀で、半分以下になるのだ。

 一方、大学数は増え続けた。92年の523校が、現在は780校と約1・5倍に。大学進学率も26・4%から52・6%となり、入学者も約54万人から約63万人に増加した。だが、短大と専門学校進学者も含めると、現在、18歳の子どもの約8割が高等教育機関に進学しており、高等教育の量的拡大は限界を迎えつつある。

 

私立大の4割定員割れ

 

 飽和状態ともいえる中、実は私立大の約4割が定員割れの状況を起こしている。日本私立学校振興・共済事業団によると、入学定員が800人未満の小規模私立大の経営が厳しくなっている。800人未満の私立大は16年度で416校。私立大全体の72%に達し、計7552人分の定員割れを起こしていた。逆に定員800人以上の大学(161校)では計2万8236人分の定員超過となっている。 

このような状況から、このままでは定員800人未満の地方私立大を中心に、およそ300大学の経営が成り立たなくなるのではないかという指摘もあるほどだ。そのため、国も昨年から、中央教育審議会などで国公私立の枠を越えた大学の再編・統合の検討を始めた。

 

 現在、文部科学省が中央教育審議会などに提示しているのは(1)国立大の1法人複数大学制の導入、(2)私立大の学部単位での譲渡を円滑に進めるための法整備、(3)国公私立の設置主体の枠を越えた統合──などだ。このうち、すでに動き出しているのが国立大の1法人複数大学制の導入である。

 

 現在、国立大学法は1法人が1大学を運営すると規定している。これを改正し、複数の法人を一つに統合し、その傘下に大学を置くようにして重複学部の合理化や、大学間の教育や研究の連携を促進する。「アンブレラ(傘)方式」と呼ばれるものだ。

 

名古屋大が統合構想

 

 国の方針を先取りする形で動き出したのが名古屋大だ。名古屋大は国際競争力を高めようと、3月に東京大や京都大、東北大と並ぶ「指定国立大学法人」になった。指定にあたり、「東海国立大学機構」(仮称)を創設し、複数の大学を運営する統合構想を打ち出した。傘下の大学の総務、財務などの管理部門を統合し、合理化で生まれた予算や人員を教育・研究機能に重点配分する。文部科学省は指定理由の一つに、この統合構想を挙げた。 

 

 

 名古屋大は早速、東海地方の複数の国立大学に統合を検討する協議会への参加を呼びかけた。真っ先に岐阜大が名乗りを上げ、4月から具体的な協議を始めた。ほかの国立大学は「メリットを認めにくい」などと静観の構えだが、「協議が進み、新法人の姿が見えた段階で参加を考えてもらえたら」と名古屋大の松尾清一学長は話した。まずは2大学での統合に向け、今年度中の最終合意を目指す。

 

経営統合に合意した3大学の学長
経営統合に合意した3大学の学長

 

 さらに5月末、帯広畜産大と北見工業大、小樽商科大の3校は22年4月を目標に統合することを発表した。予算・資金を管理する国立大学法人「北海道連合大学機構」(仮称)を設け、この下に現行の3大学を配置するアンブレラ方式。各大学の名称は残し、統合後の法人本部は帯広市に置く。道内には3校以外に北海道大など国立大学が4校あり、他大学も加えての統合にも前向きだ。

 このほか、静岡大と浜松医科大も、21年4月の統合を目指し、6月末に連携協議会を発足させた。両大学の構想は、工学部などがある静岡大浜松キャンパスと浜松医科大を統合し、人文社会科学部や教育学部、理学部、農学部がある静岡大静岡キャンパスを中心にした大学との1法人2大学の再編だ。両大学は、医学と工学を連携させた共同大学院を開設するなど関係を深めていた。

 

 公立大学では、大阪市立大と大阪府立大が22年の統合を目指し、検討している。

 

独法化で交付金削減

 

 ところで、大学の再編・統合の動きは今に始まったことではない。第一幕ともいえるのが、01年6月に文科省がまとめた「大学(国立大学)の構造改革の方針」だ。「国立大学の再編統合を大胆に進める」とし、競争原理の導入や、大学経営に民間の手法を導入することなどが盛り込まれた。遠山敦子文科相(当時)が示したことから「遠山プラン」とも呼ばれている。

 

 04年に国立大学が独立行政法人化されたことに伴い、国立大学を中心に統合が相次いだ。

 

 当初は各県にある総合国立大学と医科大学によるものが中心で、その後、公立大学や私立大学が続いた(図2)。

 独立行政法人化後、国立大学の運営自由度は増した。各大学とも補助金や寄付金など自主財源の確保に努めてきたが、国からの運営費交付金が削減された影響は大きく、経営の効率化と教育・研究の高度化を両立しないと生き残ることが難しくなってきている。

 

 今後の再編・統合劇は、このアンブレラ方式によるものとなりそうで、県境をまたいだ広域的なものも動き出しそうだ。そして、少子化で定員が余剰になりつつある教員養成系学部を持つ大学が再編の核になるとも見られている。

 

 また、社会の高度化によって、文系、理系の枠を越えた文理融合による研究も盛んになっており、異分野の学部を持つ単科大同士の統合協議も活発化することが予想される。

 

 私立大学については、いち早く人口減少が進む地方都市の大学を中心に、経営が厳しいところが増えている。6月に入り経済同友会や経団連が私立大の経営改革や再編を求める提言をまとめた。

 

地方では存続も必要

 

 だが、地方の私立大は地方創生の観点から、地域人材の養成を担う高等教育機関として存続させる必要性もある。そこで、組織をスリム化しつつ、地元の国公立大学と経営統合することについての検討が始まっている。さらに、地方国立大学と公立大学の統合もありそうだ。

 

 これらの点を踏まえ、中央教育審議会では、大学の再編・統合をスムーズに行えるようにするため、国公私立の枠を超えた「大学等連携推進法人(仮称)」の創設などを検討している。

 

 18歳人口の減少期を再び迎え、本格的な大学の再編・統合劇が幕を開けそうだ。単なる数合わせでは一時的に延命させたことにしかならない。経営の効率化と教育・研究の高度化、人材育成をどう図っていくのか──。そうした視点からの改革が求められている。

 

 残された時間は少なく、今、手を打たなければ、その先には、市場からの退場、淘汰(とうた)という厳しい現実が待ち受けている。

 

週刊エコノミスト2018年7月24日号

発売日:7月17日

定価:670円