「生命保険を通じて健康寿命を延ばす」 稲垣精二 第一生命ホールディングス社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 人口減少が進み、市場縮小が続く国内市場でどう戦いますか。

 

稲垣 商品を通じて健康寿命を延ばすことを目指しています。健康寿命が延びれば生命保険の給付が減りますし、契約者も健やかな人生を送れます。

 

 取り組みの一つとして、2018年3月発売の保険商品「ジャスト」で、契約時に健康診断書を提出すると保険料が割り引かれる「健診割(けんしんわり)」を導入しました。健康診断を受けて保険に加入している人とそうでない人とでは、保険の支払い給付率が異なります。

その差を料率に反映することで、健康診断を受診する人を増やすことを狙っています。年齢などにより異なりますが、最大2割引きになります。販売は好調で、6月時点で20万契約を突破しました。

 

─ 27年度までに国内保有契約を現在の2割増の1800万件に引き上げる野心的な目標を掲げています。

 

稲垣 第一生命は社員によるコンサルティング営業、ネオファースト生命は銀行窓口や保険代理店を通じてシンプルな商品を販売、第一フロンティア生命は銀行や証券会社の窓口で貯蓄性商品を販売、という3社体制で日本の市場をほぼカバーしています。第一生命単体の契約件数は約1300万件で横ばいですが、他の2社は新しい会社なので、毎年大きく伸びると期待しています。

 

── 貯蓄性商品は販売が難しくなっています。

 

稲垣 金融資産を保有する高齢者は、高い利殖に回したい運用ニーズと、子や孫への相続ニーズの双方があり、貯蓄性商品の需要は依然として高いです。しかし、低金利のため第一生命の円建て貯蓄性商品は提供できていません。代わりに第一フロンティア生命の外貨建て貯蓄性商品がよく売れています。契約者にリスクをよく理解してもらったうえで、契約者と保険会社でリスクをシェアする商品が増えていくと思います。

 

── 現在の金利環境でどのように運用していきますか。

 

稲垣 長期の事業性資金を提供できるという生命保険の運用の強みを生かして、数年前からESG(環境・社会・企業統治)投資を始めています。橋や空港など、インフラ事業へのファイナンスです。国内にも投資しますが、やはり海外が多いです。昨年はトルコの病院の建設運営資金に投資しました。ただ、そういった投資案件は少ないのが実情です。

 

── 楽天生命保険と業務提携しました。どんな効果を上げていますか。

 

稲垣 楽天の出店企業の経営者に、楽天生命がネオファースト生命の商品を販売しています。販売チャンネルの多様化戦略のひとつです。日本調剤と提携して健康意識の高い層にネオファースト生命の商品を販売したりもしていますが、多様な戦略をグループ内に抱える強みでは我々が先頭を走っていると思っています。

 

アジアを最優先で開拓

 

── 海外展開にも積極的です。

 

稲垣 米プロテクティブは保険事業を買収するビジネスが伸びていて、成熟した市場でも利益成長できています。豪タルもさまざまな団体や個人に保険を販売するマルチチャンネル戦略で順調に成長しています。

 

── 海外は基本的にM&A(合併・買収)で参入していますが、シナジーはありますか。

 

稲垣 生命保険は製造業のように製造拠点を集約するなどの効果はありません。しかし、年に数回、グループ各社のCEO(最高経営責任者)が集まって議論する場が非常に刺激になっています。日本の市場だけで考えるよりも、格段に広い戦略のオプションを持てるようになりました。

 

 例えば、豪タルはカンタス航空とマイレージの会員向け商品を作っていたり、米プロテクティブは会員制ディスカウントストア、コストコの会員向けにサイト上で保険販売をしてチャンネルコストを抑えていたりします。日本では規制のために実現できないこともありますが、戦略の多様性や変化を先取りできます。

 

── アジアはどうですか。

 

稲垣 成長率が高い市場なので、最優先で進めています。中間所得層が増える地域は保険の普及率が直線的ではなく、急カーブでぐっと上がります。進出済みのベトナムに加えて、カンボジアで開業に向けて準備中です。ミャンマーは生命保険業が外資に開放されたらすぐに手を上げようと考えています。

 

── ITと保険を組み合わせたインステックは。

 

稲垣 インステックを研究するラボを米シリコンバレーと渋谷に創設しました。メンバーは当社の社員だけでなく、グループ会社の社員や中途採用の人材、それに社外の人材も含めた混成チームです。新事業開発に取り組んでおり、3カ月単位でアイデアを吟味しています。彼らには既存の考え方を覆すようなディスラプター(破壊者)になってもらうことを期待しています。

 

── インステックにより保険はどう変わるのでしょう。

 

稲垣 健康状態だけでなく、その人の行動までを観察して保険に反映できるようになる可能性があります。例えば、持病がある人は保険料が高くなりますが、実際には健康に気を使うので支払いの発生率が低い側面もあります。こうした事象を社内外のビッグデータを使って検証することで、昨年は1万2000契約について、持病があっても健康な人と同じ保険料で引き受けることができました。将来的にはスマホのアプリを利用するなど、お客との接点を増やして引き受け範囲を広げ、シェア拡大につなげたいと考えています。

 

(構成=花谷美枝・編集部)

 

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか?

 

A 資産運用の担当で、バブル崩壊、金利低下の中で金利予測がなかなか当たりませんでした。1人の相場予想には限界があり、多様な意見を聞くことが大事だと学びました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 「陽転思考」という言葉が好きで、関連書籍を時々読み返します。ポジティブに物事を捉えることを心掛けています。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 妻と居酒屋に飲みに行きます。

 

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 ■人物略歴

 

いながき・せいじ

 1963年生まれ。愛知県出身。慶応義塾高校、慶応義塾大学経済学部卒業。86年第一生命保険入社。リスク管理統括部長、運用企画部長、2016年10月第一生命ホールディングス取締役常務執行役員を経て17年4月から現職。55歳。

 

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事業内容:生命保険業、損害保険業

 

本社所在地:東京都千代田区

 

創立:1902年9月

 

資本金:3431億円

 

従業員数:6万2943人(2018年3月末、連結)

 

業績(18年3月期、連結)

 

 経常収益:7兆378億円

 

 経常利益:4719億円