特集:ダマされない不動産投資 2018年7月31日号

利回り低下で投資妙味薄く

地主も知識武装が必要に

 

 低金利を背景に、2000年以降続いてきた不動産投資ブームに変調が生じている。シェアハウス「かぼちゃの馬車」に限らず、不動産投資に関連したトラブルが相次いでいる。住宅ローン問題の相談を受け付ける全国住宅ローン救済・任意売却支援協会(埼玉県所沢市)によると、自宅の住宅ローンのみならず、不動産投資の失敗に関する相談が増えているという。当初想定していた賃料を確保できず、投資用不動産を売りに出す人も多い。

 

 不動産鑑定会社、三友システムアプレイザル(東京都千代田区)の堂免拓也社長は、「投資市場はピークを過ぎたと言われてから2年くらいたつが、いまだ投資用マンションの販売は好調だ」と話す。販売を支えるのは低金利だ。地価上昇と建築費高騰によりマンション価格が値上がりし、投資利回りは低下しているが、低金利で融資する金融機関があるために、投資用不動産を取得する人は多いという。安定的に利回りを確保できる投資対象が金融市場にないことも、不動産投資を検討する人が後を絶たない背景にはある。

Bloomberg
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経営に余裕なく


 しかし、利回りが低い状況で始める不動産投資は、経営に余裕がなくなることが多い。不動産の表面利回りは、年間賃料収入を物件購入価格で割り、100を掛けて求めるが、賃貸経営にはローン返済、固定資産税の支払い、管理費・修繕費、入居者獲得のためのコストなども必要になるので、実際に手にする収益は表面利回りの数字よりもずっと小さい。このため運用の途中で空室になったり、賃料が想定よりも下がったりした時にローン返済がたちどころに苦しくなる。

 

 不動産投資をめぐる環境は、今後さらに難しくなる可能性が高い。不動産情報会社タス(東京都中央区)が集計する賃料指数によると、東京23区内のワンルームや1Kなど単身世帯向けの賃貸住宅の賃料は、長らく2004年1~3月の水準を下回っていた(図1)。

低金利を背景に、都心部に単身者向けの賃貸住宅の建築が増えたことで、全体の家賃が押し下げられたと考えられている。単身者向け物件数の増加は、空室率の上昇にも直結している。17年以降、23区内の賃貸住宅の空室率は上昇基調にある(図2)。

 

 

 

 

 今後も低金利が続くと予想されるため、「場所と利回りを選別すれば、不動産投資は成り立つ」(マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリスト)との見方が一般的だが、ベテラン投資家にとっても今の市場で投資を続けることは容易ではない。

 

 1990年、バブル期から不動産投資をしてきた都内在住の佐藤哲夫さん(62)は、単身者向けマンションに始まり、中古アパートに投資するなどして資産を増やしてきた。現在は都内で3棟30戸を運営している。この数年は都内で土地を見つけて、アパートを新築することが多く、現在も1棟を建築中だ。ただ、最近は、地価上昇に加えて、不動産投資家が急増し、アパートの専門業者も増えたため、投資に適した土地が見つけにくくなったという。「インカムゲイン(家賃収入)を目的にアパートや土地を買うのは難しくなった」と佐藤さんは話す。

「かぼちゃの馬車」の物件
「かぼちゃの馬車」の物件

「入居率99%」のカラクリ


 しかし、こうした状況にあっても投資用不動産の猛烈営業は健在だ。

 

 30代男性会社員は7月、投資用マンション販売会社から営業を受けた。結婚を機に資産運用を真剣に考え始めたタイミングで、SNS(交流サイト)経由でアプローチされ、関心を持った。提示されたマンションの価格は3000万円前後。賃貸住宅として貸せば、月9万円の家賃収入が入るという。ローンの返済は月10万円程度。毎月1万円は給料から持ち出しになるが、「この投資用ローンを組めるサラリーマンは全体の10%だけ。あなたはその貴重な10%」と自尊心がくすぐられ、さらに「当社の管理物件の入居率は99%です」とダメ押しされて思わず資料を持ち帰った。

 

 不動産業は、売り手と買い手の情報格差が大きい産業と言われる。「入居率99%」という典型的なセールストークもその一つ。実際には、築年数が経過したり、賃料値下げ交渉に応じない家主とは管理契約を解除するなどして、数字を「作って」いることが多い。

 

 相続対策などでアパートを建てる家主も同様だ。家主に支払う賃料を保証するサブリース契約には、一定期間後に支払う賃料を見直す条項が含まれることを見落とす人は多い。

 

 さらに、空室の増加が予想される時代は、地主こそ慎重になるべきだとタスの藤井和之新事業開発部長は指摘する。「地主は“土地ありき”でアパートを建てることが多く、場所を選べない。だが駅から遠い場所など賃貸需要が少ない地域の場合、今後は経営が非常に厳しくなる可能性がある」(藤井氏)ためだ。

 賃貸需要が拡大し、高利回りを確保できた時代は、だまし、だまされながらも業者と不動産投資家の双方が利益を確保できた。しかし、そんな牧歌的な時代は終わろうとしている。投資家はさまざまな環境の変化が経営に及ぼす影響を真剣に検討する必要がある。

(花谷美枝・編集部)

週刊エコノミスト 2018年7月31日号

定価:670円

発売日:7月23日