第75回 福島後の未来:有害度の低減技術開発を リアルな原発のたたみ方=橘川武郎

きっかわ・たけお
 1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。

 

 核兵器非保有国である日本がプルトニウムを生む使用済み核燃料の再処理を行うことを可能にしているのは、日米原子力協定による米国政府のお墨付きがあるからだ。その根拠になっていたのは、日本は核燃料サイクル政策を推進し、プルトニウムを平和的に管理する仕組みを有しているという判断だった。

 

 ところが、2016年12月に高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止が決定されたため、核燃料サイクル政策はその「心臓部」を失い、事実上立ち行かなくなった。図は、核燃料サイクルの全容を示したものだが、それを支える主要な柱と想定されていたのは、図中下部の「高速増殖炉燃料サイクル」の方であった。

 

 日本政府は、もんじゅ廃止後も、既存原発の軽水炉でウラン燃料とプルトニウム燃料を混ぜて利用するプルサーマルを実施すれば核燃料サイクルの維持は可能だとしているが、プルサーマルだけでは日本が現在国内外に保有する約47トンのプルトニウムはわずかずつしか減らない。しかも、そのプルサーマル自体が遅々として進まず、現在プルサーマル発電を行っている原発は3基のみ。電気事業連合会が目標としてきた16~18基には遠く及ばない状況である。

 

もんじゅ転用はすでに明記


 この状況下で、国際社会は、日本が今後どのようなプルトニウム削減方針を打ち出すか、注視している。今年7月に日米原子力協定は自動延長されたが、同時に、日米どちらかが6カ月前に通告すれば、協定を破棄できる局面にも突入した。日本が打ち出すプルトニウム削減方針が国際社会の納得を得られない場合、トランプ米政権が北朝鮮政策との整合性を取るため、日米原子力協定を破棄して、日本の使用済み核燃料再処理に対するお墨付きを取り下げることもありうる。日本の使用済み核燃料処理政策は、きわめて困難な岐路に立たされている。

 

 ここで注目したいのは、16年に廃止が決定される以前から、もんじゅが事実上、高速増殖炉としての役割を終えていたという事実である。14年に策定された第4次エネルギー基本計画(今年7月の改定まで効力があった)は、使用済み核燃料の減容化(廃棄物の容積を減らすこと)について「放射性廃棄物を適切に処理・処分し、その減容化・有害度低減のための技術開発を推進する。高速炉や、加速器を用いた核種変換など、放射性廃棄物中に長期に残留する放射線量を少なくし、処理・処分の安全性を高める技術などの開発を国際的なネットワークを活用しつつ推進する」と述べていた。

 

 もんじゅに関しても、「廃棄物の減容・有害度の低減や核不拡散関連技術等の向上のための国際的な研究拠点と位置付け、これまでの取り組みの反省や検証を踏まえ、あらゆる面において徹底的な改革を行」うとしていた。

 

 つまり、第4次エネルギー基本計画では、もんじゅの高速炉技術を、従来のように核燃料の増殖のためでなく、使用済み核燃料の減容化・有害度低減に転用する方針が、すでに打ち出されていたのである。

 

 日本政府が政治的判断で、減容化・有害度低減のために転用するはずだったもんじゅの廃止を決定したのは、その2年後だ。つまり、日本の核燃料サイクル政策は、もんじゅ廃止で行き詰まったわけではなく、それ以前からすでに破綻をきたしていたことになる。そして、もんじゅ廃止は、厳密には、核燃料サイクル政策に対してではなく、使用済み核燃料の減容化・有害度低減の取り組みに対して痛手を与えたと言うべきである。

 

「万年」単位の半減期


「バックエンド対策」と呼ばれる使用済み核燃料の処理対策は、原発への賛否にかかわらず社会全体が解決を迫られている重大な問題だ。それは決して日本だけでなく、人類全体にかかわる問題でもある。

 使用済み核燃料を再利用するリサイクル方式を採るにしろ、1回の使用で廃棄するワンススルー(直接処分)方式を採るにせよ、最終処分場の立地は避けて通ることのできない課題であり、実現は、きわめて難しい。

 

 最終処分場では使用済み核燃料を地下深く「地層処分」することになるが、その埋蔵情報をきわめて長い期間にわたって正確に伝達することは至難の業である。

 

 リサイクル方式を採れば危険な期間は短縮されるかもしれないが、それでも「万年」の単位、つまり、伝達期間は何百~何千世代にも及ぶことになる。原発推進派の中には「地層は安定しているから大丈夫」と主張する向きもあるが、それでは地上はどうなのだろうか。例えば、プルトニウムの半減期は2万4000年だが、2万年前には北海道はアジア大陸と陸続き、本州から種子島まで陸続きで、日本列島の姿は今とはまったく異なっていたという。

 

 使用済み核燃料の危険な期間が万年単位のままでは、いくら政府が前面に出ても、最終処分地が決まるはずはない。最終処分地の決定には危険な期間を数百年程度に短縮する有害度低減技術の開発が必要不可欠である。有害度低減技術の開発については、その困難性のゆえに否定的な見解をもつ識者も多いが、どんなに高いハードルであってもそれをクリアしない限り、あるいは少なくともそれにチャレンジしない限り、人類の未来は開けない。

火力シフトなど3本柱


 ただし、有害度低減技術の開発には長い時間がかかる。その間、原発の敷地内に燃料プールとは別の追加的エネルギーを必要としない空冷式冷却装置を設置する、使用済み核燃料の「オンサイト中間貯蔵」を行うことも求められる。さらにいえば、きわめて困難とされる使用済み核燃料の有害度軽減の技術革新が成果を上げず、バックエンド問題が解決しないことも想定しなければならない。

 

 それに備えて、「リアルでポジティブな原発のたたみ方」という選択肢も準備すべきだ。柱となるのは、(1)火力シフト(送変電設備を活用した原子力から火力発電への転換)、(2)廃炉ビジネス(廃炉作業などによる雇用の確保)、(3)オンサイト中間貯蔵への保管料支払い(使い終わった電気が生み出した使用済み核燃料を預かってもらうことに対し、消費者が電気料金等を通じて支払う保管料)──からなる、原発立地地域向けの「出口戦略」だ。この戦略が確立すれば、現在の立地市町村も、「原発なきまちづくり」が可能になるだろう。

 

 使用済み核燃料の処理問題にどう向きあうべきか。まず、もんじゅに代わる有害度低減技術開発の具体的な方針を確立すること、次に、原発敷地内に空冷式冷却装置を設置し「オンサイト中間貯蔵」を行うこと、そして「リアルでポジティブな原発のたたみ方」という選択肢も準備すること──が重要だと思われる。

 

(橘川武郎・東京理科大学大学院経営学研究科教授)