自動車分野の技術革新に照準 河田正也=日清紡ホールディングス社長

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 繊維会社のイメージですが、売上高に占める割合はすでに1割ですね。

 

河田 売上高比率でいうと、エレクトロニクスが4割程度で、主力事業になっています。2010年に日本無線を株式公開買い付け(TOB)し、17年に完全子会社化。新日本無線は9月に完全子会社化する予定です。今年3月には、リコー電子デバイスの80%の株式を取得しました。

 

── なぜ、エレクトロニクス分野に進出を。

 

河田 日本無線とは、大倉財閥を設立した大倉喜八郎氏が、日清紡の草創期の相談役を務めていたころからの縁です。1955年、2代目の喜七郎氏が日清紡の社長(当時)、桜田武氏に日本無線の経営支援を要請し、日清紡側から経営陣を派遣するようになりました。

── エレクトロニクス事業の強みは何ですか。

 

河田 日本無線は、日露戦争の勝敗を決した日本海海戦で、信濃丸の「敵艦見ユ」で知られる無線電信を開発した木村駿吉氏が創設した歴史ある会社です。現在、無線通信技術はさらに発展し、船舶航行支援システムや気象レーダー、消防緊急指令通信システムなどに活用しています。官公需や大型船舶が中心ですが、漁船向けのレーダーや、超音波を使った医療機器など新しい分野にも挑戦しています。

 

── リコー電子デバイスを連結子会社化した狙いは。

 

河田 以前から、アナログ半導体の製造で、新日本無線と協力関係にありました。リコー電子を連結子会社化することで、製造工程の相互補完が高まり、コスト低減による価格競争力が高まります。自動車や産業機器向け、IoT(モノのインターネット)などの重点分野で相互活用し、製品の開発を加速したい。

 

── 自動車のIoT関連にも力を入れていますね。

 

河田 先進運転支援システム(ADAS)ビジネスへの参入を狙って、今年4月に子会社「JRCモビリティ」を設立しました。日清紡グループの無線通信と電子デバイス技術を活用し、自動運転や電動化、情報通信端末としての機能を持つコネクテッドカーといった領域でビジネスを展開したい。

 

「認知」機能に照準


── 自動運転は競争が激しい。どこで勝負しますか。

 

河田 自動運転は、「認知」「判断」「操作」の機能から成り立ちますが、私たちがターゲットにしているのは、人間の目や耳にあたる「認知」です。日本無線や新日本無線の持つレーダー、レーザー、センサー、半導体の技術を応用し、ADAS関連ビジネスを成長させたい。日清紡は、ブレーキ事業や精密機器事業で長年にわたり、国内外の自動車メーカーや大手部品メーカーと取引関係があり、信頼関係が強みです。また、無線通信技術は高度道路交通システム(ITS)などのインフラで活用されています。

 

── ブレーキ事業も世界展開しています。

 

河田 ブレーキの中核部品である摩擦材を中心に展開しています。11年に欧州のブレーキ摩擦材メーカー、TMDを買収したことで、世界14カ国に28拠点を持つ世界有数の摩擦材メーカーになりました。

 

── 摩擦材の機能を左右するのはなんですか。

 

河田 環境規制に対応しながら、制動力や騒音抑制などの高い性能を維持するために、各社はしのぎを削っています。さまざまな材料を混ぜ合わせ、複雑な生産工程で作っていくわけですが、どのような材料をどの程度使うかなどは企業秘密で、各社の競争力の源泉になっています。

 

環境対応は真剣勝負


── 世界の環境規制は厳しくなる一方です。

 

河田 米カリフォルニア州、ワシントン州の規制に対応し、銅を使わない摩擦材の開発が世界のメーカーで進められています。21年以降に販売する自動車に組み付けられる摩擦材の銅含有量を5%未満、25年には0・5%未満にしなければなりません。自動車業界では、米国向けだけではなく、世界のほとんどの自動車が対応していく方向です。摩擦材メーカーの勢力図が大きく変わる可能性もはらんでおり、真剣勝負で対応します。

 

── 祖業の繊維事業の今後の展開はどうですか。

 

河田 繊維は成熟産業で、大きな成長は期待できません。しかし、繊維事業を縮小するつもりはなく、紡績、織り・編み、加工、縫製の各分野で持っている開発から生産までの世界トップクラスの技術力を生かし、高付加価値の分野で存在感を示したい。

 

── 繊維分野での強みは。

 

河田 シャツやユニフォームが強みです。特に、シャツは生地段階の供給を含めると国内で3割程度のシェアを持っています。世界に先駆けて、ノーアイロンシャツ地を開発・販売してきました。

 

── 今では形態安定のシャツは増えていますね。

 

河田 紳士服の青山商事と日清紡テキスタイルが共同展開する次世代ノーアイロンシャツ「アポロコット」は、これまでとは明らかに異なるレベルでのノーアイロン性を綿100%で実現しています。アイロンを使わなくていいということは、社会的なエネルギーコストの削減にも貢献しているという自負があります。

 

(構成=小島清利・編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 米カリフォルニアの新工場立ち上げで、採用や従業員教育を担当したことが印象に残っています。

 

Q 「モノの見方を変えた本」は

 

A 学生時代に読んだチャールズ・スノーの『二つの文化と科学革命』です。理科系と文系の人間の考え方の乖離(かいり)や無理解がもたらす社会的な危機に警鐘を鳴らした本で、メーカーで働く者にとっても示唆に富んでいます。

 

Q 休日の過ごし方

 

A ジョギングが趣味で、時間があれば軽く走ります。50代からフルマラソンにも挑戦しています。

 

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 ■人物略歴

かわた・まさや
 1952年生まれ。山口県出身。県立下関西高校、一橋大学経済学部卒業。75年日清紡入社。2006年人事本部長、07年取締役、10年取締役常務執行役員、12年取締役専務執行役員を経て、13年6月から現職。66歳。

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事業内容:エレクトロニクス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維など

本社所在地:東京都中央区

設立:1907年2月

資本金:275億8700万円(2018年3月末現在)

従業員数:2万3104人(18年3月31日、連結)

業績(18年3月期、連結)

 売上高:5120億円

 営業利益:150億円