特集:会社を買う売る継ぐ 2018年9月11日号

サラリーマンが買って継ぐ

「大廃業時代」の救世主

 

三戸政和(日本創生投資代表取締役)

 

 今日本中の多くの中小企業が、廃業の危機に瀕(ひん)している。およそ400万社の中小企業のうち、3分の2で後継者が決まっておらず、社長の年齢がそろそろ引退も考えるべき60歳以上の企業に限定しても、半数が後継者不在だ。東京商工リサーチの試算では、127万社が廃業予備軍であるという。

 

 親族に後継ぎがおらず、社内にも社長を引き継げるような人がいない場合、選択肢は二つ。一つは、廃業。もう一つは、誰かに会社を売ること。その2択のどちらがいいかという問いに、どちらも可能であるならば、大多数の社長が後者を選ぶだろう。

 

 

清算すれば残るのは借金


 現実的に言って、廃業するのはとても労力のかかる作業だ。手続きだけで済む問題ではない。従業員全員の仕事を失わせてしまうことになるし、仕入れ先、取引先、その先の消費者にも迷惑をかけてしまう。資産をすべて現金化し、負債を返して、すべてを清算しなければいけない。

 

 企業の資産の多くは、廃業すれば価値が下落し、清算の際には資産は大きく目減りしてしまう。在庫、生産設備など、帳簿上ではそれなりの資産があったとしても、事業が継続できてこそ価値を持つものが多い。工場などの建物は、解体して更地にしないと土地を売ることも貸すこともできないが、解体には莫大(ばくだい)な費用がかかる。貸借対照表では資産があったはずなのに、廃業すると借金だけが残るのは珍しいことではない。

 

 それに、気持ちの上でも、やはり、自分が人生をかけて一生懸命に育ててきた我が子のような会社を、つぶしてしまうのは心が痛い。誰かに引き継いでもらい、会社名も残し、事業も継続してもらいたいと考えるのは人間の自然の心なのだ。

 

 それでもどうしても後継ぎが見つからないまま、社長が亡くなったり、病気や高齢で仕事ができなくなったりし、黒字のまま、やむなく廃業する企業が今の日本では増えている。

 

 こうした企業をあなたが個人で買収し、経営を引き継いでください、というのが私からの提案だ。

 私が2016年に立ち上げた日本創生投資は、機関投資家などから出資してもらった30億円のファンドを運用している。中小企業を買収し、経営改善によって企業価値を上げ、他の企業や個人に売却することによって、売買差益を得ている。

 

 実は私たちが行っている企業買収は、個人でもできる。私は今年4月、『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』(講談社+α新書)という本を出版した。資産形成と生きがいのために、「社長」という新しいセカンドライフを提案する本であり、サラリーマンに適した企業買収のノウハウを記した。

 

 日本企業で中間管理職を経験したサラリーマンは、中小企業のマネジメントに向いている。このままでは60歳から65歳で引退させられてしまうサラリーマンに、廃業の危機にあるあまたの中小企業を買収して経営を引き継ぎ、日本経済を守ってもらいたい。この本は発売から4カ月で11万部を突破しており、これほどまでにこの提案が人々に高い関心を持って受け入れられるものなのかと、私も驚いている。

◆疑問その1 

「300万円で買えるのはどんな会社なのか?」

 

 この本を出版して、最も多く投げかけられたのが、「300万円で買える会社などあるのか」「300万円で買える会社なんてロクな会社じゃない」という意見だった。

 

 私は投資ファンドのファンドマネジャーという、何よりも信頼が重要な仕事に就いている。300万円で買えるまともな会社がないのなら、著書のタイトルにするわけがない。

 

 では実際に、300万円でどんな会社が買えるのか。答えは意外にシンプルだ。M&A(企業の合併・買収)において値決めをするとき、一応の算定基準となる計算式がある。

 

 純資産(資産-負債)+営業利益×3(年分)

 

 ここから、ビジネスの将来性、純資産の時価査定=デューデリジェンスや、需給バランス、売り手と買い手の交渉によって上下するが、この価格がスタートラインになる。

 

 ではこの数式で値段が300万円とはじき出されるのは、どのような会社なのだろうか(図2)。

 

 純資産(資産-負債)がほとんどないという中小企業は少なくない。銀行から借り入れをすることでなんとか事業を回している自転車操業だ。さらに純資産がマイナスになっている状態が、債務超過となる。社長個人が会社に貸し付けをしたり、役員報酬を受け取っていなかったりと債務を補填(ほてん)しているケースもある。

 

 例えば、純資産が0円で、売上高が2億円、従業員が5人、営業利益が100万円出ている会社があったとする。これを先ほどの計算式に当てはめると、売買価格はちょうど300万円となる。

 

 このような会社は、買いだろうか。

 

 社長の役員報酬は、中小企業の平均的な報酬である1200万円、年間で経費を社長が500万円ほど相応に使っていたとしたらどうか。これは、検討してもよいだろう。

 

 このように、そこまで利益が出ておらず、純資産の積み上げもない会社であれば、オーナー側も高く売りたいという考えより、従業員や取引先、借り入れしている銀行などに迷惑をかけたくないという思いが強く、適切に事業を引き継いでくれる人がいればタダでもよいという先がある。事業自体に問題がなければ、テコ入れしながら利益改善していくことも可能かもしれない。

 

節税で「利益ゼロ」の会社も


 また、売上高が6億円、従業員が20人で、純資産が300万円、営業利益が0円だったとすると、売買価格は先ほどの計算式では、やはり300万円となる。この会社が買いかどうか、この情報だけでは私にもわからない。

 

 純資産300万円といっても、実際には長期在庫の山で、資産価値などないかもしれない。事業サイズに比べて借り入れも大きく、社長は自分の報酬を削って削ってなんとか社員の給料や仕入れ代金を支払い、役員報酬は400万円かもしれない。

 

 ただし、社長の役員報酬が2000万円、経費を1000万円使っていてこの状態かもしれない。社長が税金を払いたくないために利益をゼロに調整していただけかもしれない。そんな会社はゴマンとある。

 

 それこそ極端な例を言えば、会社の事業は実は割とうまくいっているのに、放漫経営のために、純資産0円、経常利益0円という会社も普通に存在する。大企業のサラリーマンからすれば考えられないぐらいの、どんぶり勘定をしている会社は、中小企業には多い。

 

 その場合、先ほどの計算式に当てはめれば、基準となる売買価格は「1円」となる。しかし、ほんのわずかな経理の見直しで、あっという間に会計状態がよくなったりする。

 

「会社を1円で売る社長なんているわけがない」と思うことだろう。しかし、廃業して会社を清算するとなると、資産は使えないものとなり、大幅に価値を毀損(きそん)して莫大な借金が残る可能性が高い。だったら1円でも買ってもらったほうがいいという話になる。

 

 また、オーナーが急死し、奥さんが緊急避難的に株式を保有している会社もあったりする。

 

 今すぐにでも会社を買ってもらわないと困る事情のある社長はたくさんいる。先ほどの計算式よりも低い金額で買える掘り出し企業も結構あるのだ。

 

 ◆疑問その2

「サラリーマンとして働いてきて、会社の経営なんてできるのか?」

 

 次によく出るのが、「会社に雇われたことしかないサラリーマンに、経営ができるのか」という問いだ。

 もしこれが、新たに会社を立ち上げて経営するというのであれば、答えは限りなくNOだ。新規で創業した企業は5年で85%、10年で95%が倒産する。

 

起業と異なり、維持と改善


 私はかつてベンチャーキャピタルの投資部門で働いており、およそ1000社の投資検討をした経験があるが、さまざまな分野のプロフェッショナルがチームを組んで厳しく吟味し、実際に投資した会社でも、10社のうちおよそ4社が倒産、4社が鳴かず飛ばずで、1社か2社上場すればそれで合格という世界だった。

 

 それが起業の現実なのだ。社長の経験がある人であっても、ゼロからビジネスを立ち上げ、事業を軌道に乗せ、収益を安定させるのは、とてつもなく難しい。現状維持をベースとするサラリーマンの思考感覚では、とても成功できるものではない。

 

 しかし、創業から数十年が経過し、そうしたプロセスを経て安定した会社の社長になるのであれば、話は全く別だ。その事業がきちんと利益を上げているのであれば、少なくとも現状維持して去年と同じ収益を今年も出せばいい。既に回っているビジネスをこれまで通りうまく回すというのは、サラリーマンの得意仕事だ。

 

 その上で、きちんとできていないところを見定めて、改善の手を入れる。大企業では当たり前に行われている「ずさんな管理をきちんとする」「仕入れ先から相見積もりを取り直す」「営業をかける」「便利な業務システムを導入する」といった、簡単なことだ。

 

 そうしたごく当たり前のことができていない会社が中小企業では多い。いまだに手書きの帳簿で在庫管理していたり、電話やファクスで受発注していたりすることさえある。少し手を入れるだけで、業績は意外と簡単に上がる。

 

◆疑問その3

「会社の価値を見極めるデューデリはどのように行えばいいのか?」

 

 企業の収益性やリスクなどを総合的かつ詳細に調査し、その価値を査定することをデューデリジェンスと言う。買収に際して、財務諸表の正確な実態や会社が抱えている法的なリスクを見定めなくてはいけない。ただ、これらは弁護士や会計士などにお願いすることになり、300万円で買えるような会社の買収で行うのは価格的にハードルが高い。

 

 そこで私がお勧めするのは、ある程度の期間、買収候補企業で役員として働くことだ。

 

 例えば、現社長とのあいだで、「2年後の買収を前提に取締役になる」といった覚書を交わして、専務取締役で入る。その時点で、買収金額も決めておくとよいだろう。覚書にはただし書きとして、「知らされていなかった重大な瑕疵(かし)が発見された場合には、無条件でこの約束を破棄することができる」と書き入れておく。

 専務として2年間も働けば、事業実態や財務状況、帳簿に表れない会社の内情や法的リスクを把握し、基本的なデューデリジェンスは行うことができるはずだ。それでも不安であれば、会社の顧問弁護士や会計士を自分の信頼できる人に替えて確認すればよい。

 

 さらに、その2年間で社内の立て直しをしていくことができる。社長がいる間に、責任は社長に持ってもらって、さまざまな改革を断行してしまい、同時に社員との信頼関係も作っておくのだ。改革の成果が出てきて、あなたが社員から認められることができれば、社員はあなたを新しい社長として喜んで迎えてくれることだろう。

 

取引先が有力候補


 さらにお勧めするのが、現在の取引先の会社を買うことだ。取引先であれば、その会社の経営状態や、強み、事業環境もある程度わかっているはずで、デューデリジェンスは半分終わっている。さらに、社長との関係、社員との関係もある程度できている。交渉も持ちかけやすい。

 

 そして、買収した後も経営は比較的簡単だ。何せ自分の業界なのだから。取引先の中で、事業承継に悩んでいる会社がないか、そして、ポテンシャルが高くて安く買えそうな会社がないか、今のうちから探し始めることをお勧めする。

 

三戸政和(日本創生投資代表取締役)

 

 

週刊エコノミスト 2018年9月11日号

定価:670円

発売日:9月3日