特集:EV&つながる車 メガトレンドに乗れ 日本の部品に勝機 2018年9月18日号

 

 「自動運転タクシー」が8月下旬、初めて東京都心部を走った。区間は大手町と六本木を結ぶ5・3キロ。実際に客を乗せた公道での走行実験としては世界初。タクシー大手の日の丸交通と自動運転技術開発のZMP(東京都文京区)がタッグを組んだ。

 

 

 

「無人タクシー」が視界に


 本誌編集部も同30日、六本木─大手町区間を試乗した。実験段階のため安全を考え運転席にプロのタクシードライバーが座るが、基本的に客の乗車から発進・走行・停止まですべて自動で行う。六本木ヒルズの車寄せを出発した自動運転タクシーは、まず六本木通りに入った。片側3車線で交通量も多く運転初心者には比較的難しい道。だが、タクシーは交差点も信号に従ってスムーズに抜けた。皇居の内堀沿いの日比谷通りに入ると、あらかじめ東京駅方向への右折を見越し左から右へ徐々に車線変更。ここまで、運転席の人間は渋滞時に安全優先のためマニュアル操作でブレーキを1回踏んだだけ。クルマに運転を委ねる「レベル4」に大きく近づいていた。

 

 

 自動運転を可能にする技術は、運転席後部のモニターに映った“クルマ自身が見る風景”(写真下)に示されていた。

モニターには線で示された道路地図とその上を移動するクルマが四角い箱で表示され、自車は黒、他車は緑や黄で示される。白線や中心線が示された道路上を複数のクルマが動いている。タクシーから伸びた赤線は走行予定ルートを車線レベルで表示。複数車線の場合は周りのクルマの状況によって赤線も頻繁に移動した。

 

 

 周囲の状況認識とルートの割り出しは、「自動運転用地図」「周囲を認識する車載センサー」「自動運転コンピューター」が可能にする。タクシーの「目」となるセンサーには、白線や信号の色を見分けるソニーの高感度画像処理センサー「CMOS(シーモス)」を組み込んだステレオカメラや、他車や建物を認識する米ベロダイン製「LiDAR(ライダー)」などが使われ、地図にはZMPが測量会社と共同作成した高精度三次元マップが使われている。さらに、「自動運転コンピューターは中央演算処理装置(CPU)に米インテル製マイクロプロセッサー(集積回路)を複数使った高性能品だ」(西村明浩ZMP取締役)。

部品市場は20兆円も拡大


 いま、クルマには、(1)自動運転(Autonomous)のほかに、(2)電気自動車(EV)をはじめとする「電動化(Electricity)」、(3)クルマを所有せずに共有する「シェアリング(Sharing)」、(4)クルマがインターネットを介し外とつながる「コネクテッド(Connected)」──という変化の波が起きており、それぞれ頭文字を組み合わせ「CASE(ケース)」と呼ばれる。CASEはそれぞれ一時的なブームで終わらない「メガトレンド」になると見られている。

 

 世界的に環境規制が強化されつつある中、電動化の流れは変わらないというのが自動車業界の一致した見方だ。独ダイムラーが9月4日、高級車の「メルセデス・ベンツ」ブランドで初となるEVモデルを投入するなど、足元で自動車大手のEVシフトが加速している。一方、自動運転は、自動車メーカーにとっては、生き残るには高めていかなければならない付加価値になっている。また、自動運転車やシェアリングカーは最初から「コネクテッド」である必要がある。自動運転社会やライドシェア社会が実現したとき、クルマはすべて「コネクテッドカー」=「つながる車」になっている可能性もある。

 

 CASEというメガトレンドは、「自動運転タクシー」が専用のセンサーや地図、コンピューターなどを必要とするように、新しい部品や素材、技術の需要を大きく拡大させる。その新しい需要を取り込もうと、自動車業界だけでなく電子部品、ITなどさまざまな企業がサプライヤーとして車載市場に注力している(18~19ページ図)。特に電動化と自動運転化がサプライヤーにもたらす恩恵は大きい。独コンサルティング大手ローランド・ベルガーによれば、2015年に7000億ユーロ(約91兆円)だった世界の自動車部品市場の規模は、25年には8500億ユーロ(約111兆円)と20兆円拡大すると予想する。「その、増加分の大半はCASE関連で生み出される可能性がある」(業界アナリスト)。

 

 CASE特需には完成車メーカーよりも部品や素材を供給するサプライヤーが沸いている。特に自動運転やEVでは電子部品が増える。日本の電子部品大手はEVや自動運転向け部品事業で年率10%超の高成長を見込む。一方、完成車メーカーの多くは成長率3%程度と見られ、これはクルマの「中身」が大きく入れ替わることを意味する。今回の特集で登場する100社超の企業は、それぞれが激変するクルマの部品やサービスを手がけ、競争力のある製品を供給している点で注目される。

 

 「つながる車」の潜在力


 CASEの中で最も伸び代が大きいと見られるのが自動運転やシェアリングも包含する「つながる車」の領域だ。

 

「走っているクルマにどの方向にどれだけの“Gフォース”(重力)がかかっているか、どのくらいの速度でブレーキを踏んだか、あるいは加速したか、といったデータもクルマから取れる」と話すのは2013年創業のベンチャー、スマートドライブ(東京都港区)の北川烈社長(29)。日本初の本格的な「つながる車」に特化した企業だ。

 

 

 スマートドライブは、それらのデータを解析することでドライバーの“運転の癖”を分析。それに時間帯や道路状況、天気などのデータも掛け合わせて、事故のリスクがどれくらいあるかを導くという。「その技術で特許も取得し、安全運転診断サービスに生かしている」(北川氏)。

 

 同社はクルマに標準搭載されている端子から多様なデータを取得する機器を開発・販売するとともに、データを活用したサービスを展開する。自動車保険から始めたが、現在はデータ解析の強みを生かし領域を次々と拡大している。法人向けには、例えば物流会社のトラックの走行データを可視化し、安全運転支援のほかどの経路で荷物を運ぶのが効率的か提案するサービスも開始する。最終目標は、さまざまな業界の企業が新しいサービスを生み出すために利用しやすい形にしたクルマの「データプラットフォーム」(基盤)を構築することだ。その点、スマートドライブは保険、金融、物流から製造業まで多様な業界の企業と協力関係にあるのが強みだ。

 

 同様のサービスを手がける企業は欧州やイスラエルなどにもあるが「サービス化では一歩リードしている」(北川氏)。ただ、海外勢の強みは完成車メーカーがデータを囲い込まずオープンにしていることだ。コネクテッド分野は、価値ある車載データを開放し、自動車メーカー、データ企業、各サービス会社が協調しなければ市場開拓は難しい。それゆえ自動車業界の未来に強い危機感を持つ欧州勢などは「つながる車」を協調領域にしようとしている。

 

 北川氏は「日本では自動車業界がクルマのデータ開放に強い抵抗感を持っている。だが、それでは世界の流れに取り残される」と警鐘を鳴らす。巨大な「つながる車」市場を日本がリードできるかは、自動車大手の決断にかかっている。

(大堀達也・編集部)

 

週刊エコノミスト 2018年9月18日

定価:670円

発売日:9月10日