家と仕事をやり直せる社会に
Relight代表取締役 市川加奈 2025.05.19
さまざまな事情で家や仕事を失った人たちが、何度でもやり直せるように。その仕組み作りを民間から目指す。(聞き手=位川一郎・編集部)
「いえとしごと」と「コシツ」という二つの事業をやっています。
「いえとしごと」では、住まいがなくて仕事も探している人向けに、寮付きの仕事を提供します。LINEの窓口などを通じて相談してきた人に企業を紹介するパターンと、運営する求人サイトで直接応募してもらうパターンがあります。2019年に事業を始めた後、約6年間で1万件を超える問い合わせがあり、全国で約1400人が就職しました。就職先は警備、介護、工場、飲食など、人手が足りない業種が中心です。
相談者は20〜30代が6割ほどを占め、8割以上が男性。仕事を辞めて家賃が払えなくなったけれど、家族と仲が悪くて頼れなかったり、ネットカフェに泊まって単発バイトを繰り返していたり、財布を落として身分証もなくなったりと、お金がなくて緊迫した状況の人が多いです。仕事のマッチングができない人にも、役所やNPOのさまざまな支援策を案内しています。
「コシツ」は、身分証や緊急連絡先がないため家を借りられない人向けの事業で、21年に開始しました。首都圏を中心に本人の希望に合う物件を借り上げ、身分証取得を手伝うなどして生活支援料をいただきながら運営しています。仕事や当面のお金はある人が多く、現在35人ほどが入居中。ほぼ男女半々です。
数年前に仕事の相談に来たある女性の場合は、紹介できる仕事がなくて「コシツ」の部屋を貸しました。女性は自分で仕事を見つけましたが、その後体調を崩して働けなくなったため、私も一緒に役所に行って生活保護の手続きをし、今も住んでもらっています。今後どうするかを話しながら長く伴走すると思います。
株式会社で持続可能に
相談者との関係はフラットです。困っている人を何とかしたい、そして面白いことを言って笑わせたい、そうすれば自分も笑える、というのが私のモチベーションの一つです。エゴかもしれません。でも、貧困支援は報われないことも多くて、「ありがとう」と言われるのをモチベーションにすると続きません。相談者も同情はされたくないだろうし。
出身は東京都青梅市で、周りに家のない人はいませんでした。高校1年の時、JR立川駅近くで段ボールを敷いて寝ている人たちを見て「なぜそこで?」と衝撃を受けたことが、貧困問題に関心を持ったきっかけです。大学時代、夜回りや炊き出しに参加して関心を深めましたが、寄付頼みの活動は持続可能ではないかもしれないとも感じました。大学卒業後、社会課題をビジネスで解決することを目指す「ボーダレス・ジャパン」に入社し、起業へとつながりました。
新型コロナウイルス禍の後、仕事探しは売り手市場です。国や自治体もさまざまな住宅支援をしています。それでも、生活保護を使いこなせなかったり、家族関係の不和やお金の使い方の問題などがあったりして取り残される人がたくさんいます。今後の事業展開では、支援の届かない人が生まれない仕組みを作りたい。子どもへの支援やマネーリテラシー教育など、何ができるかをあれこれ考えています。
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企業概要
事業内容:有料職業紹介事業、求人媒体事業、不動産賃貸業
本社所在地:東京都新宿区
設立:2019年10月
資本金:2000万円
従業員数:4人
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■人物略歴
いちかわ・かな
1993年東京都青梅市生まれ。中央大学文学部卒。2016年ボーダレス・ジャパン入社。19年に株式会社としてRelightを設立。住宅と仕事を確保するという生活困窮者が抱える課題を解決する事業を展開。21年、『フォーブス』誌が日本から世界を変える30歳未満の30人を選ぶ「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出。
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週刊エコノミスト2025年5月27日・6月3日合併号掲載
市川加奈 Relight代表取締役 家と仕事をやり直せる社会に