山形から誕生した、在庫管理の自動化アプリ
ZAICO代表取締役 田村壽英 2025.06.02
スマホアプリによる在庫管理のクラウド化で、在庫データの簡単操作を実現。属人化・非効率を排除し、企業経営、社会の効率化に貢献する。(聞き手=内山勢・地域ジャーナリスト)
在庫管理の作業を自動化するスマホアプリ「zaico(ざいこ)」の開発・販売を手掛けています。アプリの操作で、手入力、バーコードや2次元コードのスキャン登録、商品ラベルのAI OCRでの自動登録などが行えます。在庫管理というと、手間がかかるため属人化のイメージがありますが、スマホを商品にかざすだけで在庫管理が終了しますので、直感的な操作で誰でも簡単に在庫情報の更新・検索が行えます。
山形県米沢市の実家の田村倉庫も、1人のベテラン社員が在庫管理を行い、まさしく属人化し、設備投資や顧客の低迷などで約2億円の借金を抱え経営危機に直面していました。何かできないかと2013年ごろ考えたのが、システム化でした。家電量販店から在庫管理ソフトを購入し、パソコンにインプットしてもらおうと従業員に説明したら、「パソコンなんて使ったことがないし面倒だ」と、猛反発されました。
そんな従業員たちが休憩時間にスマホでゲームを自由自在に操作している姿を見て、「スマホアプリなら使ってくれるのではないか」と試作したのが、ボタンが四つだけの簡単・シンプルなスマホアプリ「スマート在庫管理」です。商圏を広げ家業を立て直そうと無料で一般公開したところ、ユーザーは全国に広がっていきました。その頃はまだ、実家の役に立てればいいぐらいに考えていましたが、機能を拡張して月350円で販売してみた結果、事業化のメドがつき、16年、「ZAICO」を立ち上げました。
zaicoが医療機関で使われている
zaicoの可能性を体感したのは、伊豆大島から東京に戻ってきた20年ごろ、病院やクリニックで使われていると聞いたときです。試しに医師が集まる学会の展示スペースにzaicoを出展してみたら、医師だけではなく、看護師も大勢来てくれて「これだと育休で休んでも大丈夫だね」というような会話が聞こえてきました。
「zaicoは、単なる便利アプリじゃなくて、世のために役立っているんだ」と実感しました。例えば、歯科医院向けの歯科材料、器具などの卸売会社に採用されています。これまでMS(医薬品卸販売担当者)が、医療機関を一軒一軒訪問していましたが、人手不足やコロナ禍もあり難しくなりました。zaicoではリアルタイムで診療に必要な在庫数を適切に把握できます。
また、総合商社の兼松が自治体向けに災害用備蓄品の在庫管理で利用しています。備蓄品の情報を共有し消費期限切れや欠品の備蓄品を手配します。現在アプリの料金は最低が月額3980円で最大4万9800円(いずれも税別)です。累計登録社数は18万社以上で、実家の借金もゼロに近い状況まで立て直すことができました。
スマホアプリに加え、無線を利用して、ICタグを電波で読み取る「R−ZAICO」を導入しました。手が届きにくい棚の在庫管理に威力を発揮します。さらに、重量計測による自動在庫管理システムIoT重量計「ZAICON(ざいこん)」の開発にも取り組んでいます。zaicoはモノの情報を詳細に正確に、しかもリアルタイムに押さえることによって、無限のビジネスの可能性を秘めていると考えています。
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企業概要
事業内容:クラウド在庫管理ソフト「zaico」およびIoT重量計「ZAICON」の開発・販売
本社所在地:山形県米沢市
設立:2016年10月
資本金:1億円
従業員数:55人
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■人物略歴
たむら・としひで
1983年山形県生まれ。2008年東京工業大学大学院修了。ITコンサルティング会社フューチャーアーキテクトを経て、14年クラウド会計サービス会社freeeに入社。13年、山形県米沢市にある家業の田村倉庫の経営を助けるため、スマホ用の在庫管理アプリを開発。16年10月、freeeを退社してZAICOを設立。創業時に都庁職員の妻の異動に伴い4年間伊豆大島暮らし。それ以来、完全リモートワークを確立。顧客の元に積極的に通い、「zaico」の使い勝手を共に確認しながら、開発に励んでいる。
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週刊エコノミスト2025年6月10日・17日合併号掲載
田村壽英 ZAICO代表取締役 山形から誕生した、在庫管理の自動化アプリ