キッチン国内首位、海外拡大を狙う
タカラスタンダード 小森大 2025.05.07
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
キッチン国内首位、海外拡大を狙う
── システムキッチンで国内最大手です。特徴や強みとは何でしょうか。
小森 システムキッチンの国内シェアが29%あります。ホーローという、同業他社にはない唯一無二の素材を使っていることが大きな特徴です。ドイツで工業化されていたホーローが食器や鍋に使われていて、日本に技術を持ち帰って1912年に創業し、62年にホーローをキッチンに転用して事業を伸ばしました。強みとしては、全国に160カ所のショールームを展開していることです。各都道府県の第二、第三の都市まで拠点を広げることで、ユーザーの声を直接捉えることができます。
── マンション向けのキッチンのシェアも高いようですね。
小森 分譲マンションのキッチンのシェアは80%で圧倒的な強みがあります。システムキッチンの場合、都市部の消費者の嗜好(しこう)や傾向は、分譲マンションに表れます。そのニーズをキャッチしやすいことも強みです。
── そもそもホーローとはどんな素材ですか。
小森 ホーローとは鉄など金属の上にガラス質の釉薬(ゆうやく)を塗って850度の高温で焼いた素材です。高温で焼いていますので熱には強いため、火を扱うキッチンには最適の素材です。ガラスは清掃しやすいですが割れやすい。鉄は非常に硬くて丈夫ですがさびます。これを高温で焼いて複合素材にするとお互いのマイナスが消えてプラスは残るので理想的な素材になります。10年後、20年後も変色しない素材です。
── 同業他社が追随できない要素があるのでしょうか。
小森 釉薬の技術は素材の配色や発色につながります。ホワイト系やグレー系だったら同業他社でも設備投資すれば可能です。ただし、デザイン性を上げる柄を施して発色させる技術は同業他社では追随できないと思います。例えばゴッホの絵画「ひまわり」の色も出すことができます。同業他社はおそらく追随はできないです。
リフォーム向けに注力
── システムキッチン、システムバス、洗面化粧台が主力商品ですが、それぞれの業況はいかがでしょうか。
小森 全般的に新築分野は、2025年3月期は新築向けの着工数が厳しい中で(編集注:24年1~12月は前年比3・4%減)、当社は逆に新築向けの売り上げは伸びています。新築専用のショールームを展開しており、「マーケット・イン(顧客視点による商品の企画・開発)」を重視していることがその要因だと考えています。
── 市場別の売り上げ構成は、新築戸建て、新築集合住宅とリフォームがそれぞれ約30%ずつです。
小森 人口減少に伴い、新築戸建ては戸数自体が落ちるでしょうし、分譲マンションも物件が非常に高額になり、先行きが不透明ですが、当社はシステムバスのシェアは1桁台であり、今後の伸びが期待できると考えています。
市場別ではリフォームを伸ばすことが当社の戦略です。世帯数が減ってもリフォーム市場の規模は年間7兆円くらいあり、まだ伸びると見込まれています。当社のリフォーム市場のシェアは、キッチン、システムバスともに推計値で10%台であり、この部分を伸ばしていけば、現在当社がリフォーム市場で持つ800億円程度の売り上げは今後倍以上を狙うことは可能だと考えています。
── 海外事業は、30年に100億円(24年3月期は12億円)の計画です。
小森 30年以上前、上海やシンガポールで販売していた時期もありましたが、うまくいきませんでした。10年からもう一度トライしようとなり、この1、2年かけて体制を整備しました。いま販売を手掛けているのは、台湾、中国、ベトナムです。100億円の目標は、前社長の渡辺岳夫会長が掲げた旗印ですが、そのレベルでは考えておりません。海外市場は大きな柱にする考えですので、100億円の次は500億円とどんどん増やしていくことを狙います。
── 有望視している新規事業はありますか。
小森 ホーローを作る原材料に「フリット」というガラスを粉砕したものがあります。当社はこれを自前で作っています。この粉をサブミクロン(1万分の1ミリメートル)の単位に細かくするといろいろな用途に使うことができるといま研究で分かってきました。一つは電子基板に使う金属と金属を接着する緩和材です。電子基板に搭載したCPU(中央演算処理装置)を駆動すると熱を帯びます。ガラス素材が熱を緩和する効果があります。フリットは、義歯にも使えます。今の大きさの粉(1~3ミクロン、ミクロンは1000分の1ミリメートル)でも十分ですけど、それをもっと粒子を細かくすることによってよりその自然な歯の色に近づけられるほか、義歯をよりきめ細かく修正できます。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q 仕事でピンチだったこと
A 約10年前の埼玉支店長のころに、功を焦って業績が伸び悩み退職者も出しました。坂本光司さんという経営学者が唱えた「五方良し」に感化されて反転攻勢できました。従業員とその家族をまずは大事にせよと。
Q 「好きな本」は
A 『坂の上の雲』や『国盗り物語』など司馬遼太郎の作品が好きです。あとは『論語』と『韓非子』。経営に役立ちます。セットで1年に一度は読み直します。
Q 休日の過ごし方
A 新しいビルができたらすぐに見に行きます。また、料理が好きで、だし巻き卵にこだわっています。
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事業内容:システムキッチンなど住宅設備機器の製造・販売
本社所在地:大阪市
創業:1912年5月
資本金:263億5600万円
従業員数:6616人(24年3月現在、連結)
業績(24年3月期、連結)
売上高:2347億円
営業利益:124億円
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■人物略歴
こもり・まさる
1970年生まれ、大分大学経済学部卒業後、1994年タカラスタンダード入社。2023年4月常務執行役員、23年6月取締役を経て24年4月から現職。長崎県出身。54歳。
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週刊エコノミスト2025年5月13・20日合併号掲載
編集長インタビュー 小森大 タカラスタンダード社長