土木と建築の枠を超え「水」に商機

飛島建設 乗京正弘 2022.09.26

編集長インタビュー 乗京正弘 飛島建設社長

土木と建築の枠を超え「水」に商機

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 足元の経営環境はどうですか。

乗京 新型コロナウイルス禍で2年半ほど、現場を中心に感染対策を工夫して工事を続けてきました。ところが物流の混乱に加え、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー資源や建設資材の価格が高騰しており、経済の先行きを見通すのが難しい状況です。リスク管理を徹底し、影響を最小限にすることで、今期の売り上げや利益目標は達成したいと考えています。

── 資材の高騰で調達難が起きており、工期にも響きそうです。

乗京 既に受注済みだったものには、一部に工期の遅れも出ています。これから受注するものについては、遅れる可能性があることを説明しています。ガソリンが高くなれば運搬費用も余計にかかり、資材高騰は深刻です。ただ、経済環境が不安定な状況なので、民間の発注量自体も前年同期よりは減っている状況です。

── 公共事業の状況は。

乗京 件数は減っています。防災、減災面から優先順位が高い工事を(自治体が)発注できるものから発注している状況です。

── 防災関連の土木工事に力を入れていますね。技術の強みはどこにありますか。

乗京 20年近く前から、「防災のトビシマ」を掲げています。建設業では大きく、ビル建設などの「建築」や、ダム建設などの「土木」という二つの事業に分かれますが、当社は土木工事からスタートした会社であり、売上高に占める比率も土木が6割を占めます。

 得意とするのはトンネル工事です。日本にはさまざまな地盤があり、単一ではありません。例えば、水に漬かると膨張するような地盤を掘削するケースなど、難しい作業現場があります。経験がない担当者が、いきなりそのような現場を見たら頭を抱えるでしょう。そのため、入札条件に、そうした場所での掘削経験者を配属させることを課している工事もあります。当社にはさまざまな経験を有した技術者が多数おり、工事を安心して任せてもらっています。

── トンネルでは難工事も多そうですね。

乗京 ややこしい工事は、技術者にとっては腕の見せどころでもあります。文献を読み、発注者も含めて打ち合わせし、時には大学などの有識者も交えて一緒に作業を進めるのが当社の特徴です。

技術生かす分野を開拓

── 最近は「水」を新たな事業テーマとして掲げています。どのようなプロジェクトですか。

乗京 「21世紀は水の世紀」ともいわれるほど世界では土漠状態の所も多く、水の重要性が高まっています。当社はダム建設や下水道事業などを通じ、水をずっと扱ってきました。水を切り口に、当社が持つさまざまな技術を使って、世界に貢献したいと考えています。例えば、パキスタンでは井戸を掘り、水を引き上げて配管を町まで敷く仕事をしていますし、ルワンダでも配水施設を作っています。

── 国内では、小水力発電の建設を始めていますね。

乗京 小水力発電への取り組みとして、岐阜県中津川市で2015年に第1号を建設し、全国で4カ所作りました。既存の農業用施設を改良するなどして発電所とし、そこで発電したクリーンな電気を地元に送る、という地産地消型です。発電所運営では雇用も創出できます。地元に貢献できるため、今後も増やしたいです。

 また、18年から傘下に加わった「テクアノーツ」という会社は、水関連の技術のプロ集団で、水環境保全事業を手掛けています。水に関する事業は多く、水をビジネスの中心とする考え方に転換することで、従来の土木と建築にとどまらないビジネスモデルができると感じています。技術を生かせる分野を増やせば、体力ある会社になるというのが私の考えです。

── 4月に建設現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を支援する新会社をNTTと共同で設立しました。その狙いは。

乗京 DX化はあらゆる企業に不可欠になりつつありますが、中小の建設会社では簡単には対応できません。そこで資材発注や入退場管理のデジタル化、ICT(情報通信技術)機器の導入・運用などを一元的にサポートする事業を始めました。現場のニーズをすくい上げて業務改善につなげてきた当社の経験と、NTTの最先端技術を合わせて、建設業界の生産性向上や安全性確保を目指したいです。

── DX化が進めば、業界全体の課題である人手不足解消にもつながりますね。

乗京 人が減った分を、単純に自動化すれば良いものでもありません。特に新卒採用では、学生が仕事に求めるニーズを引き出し、当社ならこういう働き方を提供できる、という“売り”を増やす努力が必要です。建設業界はかたくなさもありますが、それを乗り越えれば、新たに派生した領域にビジネスチャンスもあると思います。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 2カ所のダムで中心的な役割を担い、「ダム屋」として成長した時期でした。生意気でしたけどね(笑)。

Q 「好きな本」は

A 本ではないですが、有隣堂のYouTube「古文訳J−POP」にハマっています。Jポップを古語に訳して歌う企画がおもしろくて。もともと古典好きで、『徒然草』『枕草子』『方丈記』をセットで買いました。

Q 休日の過ごし方

A 一番は歩くこと。また、「なでしこジャパン」の試合などスポーツ観戦も好きです。

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事業内容:総合建設業

本社所在地:東京都港区

創業:1883年

資本金:55億1994万円(2022年4月1日現在)

従業員数:1450人(22年3月31日現在、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:1176億6500万円

 営業利益:45億7500万円

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 ■人物略歴

のりきょう・まさひろ

 1955年生まれ、大阪府出身。府立大手前高校卒、京都大学工学部、同大大学院工学研究科修了。80年飛島建設入社。2012年5月から執行役員、建設事業本部長兼震災復興担当などを経て16年4月から取締役執行役員副社長、17年6月から現職。67歳。