「生活者」視点でブランド力を強化
サントリー食品インターナショナル 小野真紀子 2025.05.19
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
「生活者」視点でブランド力を強化
── おなじみのブランドですが改めて商品のラインアップを紹介ください。
小野 ミネラルウオーターの「サントリー天然水」やコーヒーなどの「BOSS(ボス)」、緑茶の「伊右衛門」などが主力です。社名に「食品」という名がついていますが、主にソフトドリンクを製造・販売しています。サントリーグループでは売り上げも社員数も最大規模で、唯一上場しています。
── 商品それぞれの特徴は?
小野 サントリー天然水は清冽(せいれつ)なおいしさが支持され、年間販売数量で国内トップの飲料ブランドとしての地位を確立しています。南アルプス、北アルプス、奥大山、阿蘇の四つを水源としています。良質な地下水を育てるため全国の森を「天然水の森」とし、森林と生物多様性を保全・再生する活動をグループで進めています。
── コーヒー、緑茶は?
小野 ボスのコンセプトは「働く人の相棒」です。缶コーヒー中心でしたが、オフィスで働く人をイメージし、ペットボトル入りの「クラフトボス」も始めました。伊右衛門は、創業200年以上の歴史を持つ、京都の老舗「福寿園」の茶匠が厳選した茶葉を使用した本格緑茶です。
── ブランド力をどう高めますか。
小野 ブランド価値向上とさらなる成長を目指す「コアブランドイノベーション」を進めています。商品のニーズに合わせて中身やパッケージなどを改良し、新しい価値を提供する取り組みです。例えば、ボスならタクシー、トラック運転手や建設現場で働く人などに親しまれてきました。そのため、ドライブインや工事現場などに出かけ、商品に何が求められているのか、何が刺さっているのか、生の声を聞いて改良してきました。生活者の視点を重視することで新しい価値を生み、成長につなげる方針です。
── 24年には企業理念に「生活者」の言葉を盛り込みました。
小野 「Always Together with Seikatsusha(生活者の喜怒哀楽に寄り添い、潤い豊かな人生を提供します)」を掲げています。グローバル企業である半面、社員の統一した目標になるよう日本語の「生活者」を盛り込みました。商品を消費する瞬間だけでなく、毎日の生活を送る「生活者」に寄り添う姿勢を示しています。「なぜ買っていただいているのか」「どんな気持ちで買っていただいているのか」──なども含めて生活者に寄り添い、商品をより良く魅力あるものに変えることが目的です。
── 海外事業の展開は?
小野 海外の売り上げは全体の50%を超え、営業利益では7割を占めます。日本は人口減少が一層進むこともあり、海外事業をさらに成長させていく方針です。米国では米ペプシコ社との合弁会社を通じ、ノースカロライナ州で清涼飲料事業を展開しており、さらに米国で勝負したいと考えています。コカ・コーラの牙城ですが、可能性を見いだしたいですね。
── 原料価格高騰の影響は?
小野 為替変動もあり、オレンジやコーヒーなど原料高の影響は大きかったとみています。コスト高は価格改定で一部を吸収し、さらに生産コストの効率化などによってカバーしました。ただ、コーヒーに関しては飲む人口は増える一方、「2050年問題」(気候変動でコーヒー豆の収穫量が大幅に減少すると懸念される問題)もあり、需給バランスが厳しくなると予想されます。コーヒー飲料ビジネスをどう続けるか、中身の設計も含めて考えなければなりません。
── 値上げの影響は?
小野 大容量の水や緑茶のペットボトルについては、プライベートブランドに流れた面はあります。一方で小容量のペットボトルは好調でした。ブランド価値をしっかり高め、その価値を伝えることで商品を手に取ってもらえるように努力することが重要です。
「DEI」は本質
── DEI(多様性、公平性、包摂性)に否定的なトランプ米大統領の意向を受け、関連施策を廃止する企業が出ています。
小野 私たちの商品は赤ちゃんからお年寄りまで、多様な生活者によって成り立っています。社員のうち半分以上は海外がルーツです。多種多様な価値観を持つ人たちが集まり、組み合わさることで新しいイノベーションや視点が生まれてきました。DEIは私たちの企業の本質の一つで、変わることはありません。
── 日本では女性管理職の割合が低いとされます。女性登用を進めるうえで日本企業の課題は?
小野 「女性が育児や家事をするもの」といったような昭和的な観点が残っています。そこが変わることが一番の理想です。一方、女性が管理職に就く際に、「大変だけどやってみよう」といったように男性と同じような感覚で捉えられれば、女性管理職の割合は必然的に上がると考えています。
(構成=中西拓司・編集部)
横顔
Q 仕事でピンチだったこと
A 2020年1月にフランスのオランジーナ・シュウェップス・グループ(現サントリー食品フランス)の社長に就き、直後に新型コロナウイルスの感染が拡大しました。現地はロックダウン(都市封鎖)が続く中、何とか従業員を募って工場を動かし、主力商品を作り続けました。一番厳しい局面でした。
Q 「好きな本」は
A 山崎豊子さんの長編小説『沈まぬ太陽』です。
Q 休日の過ごし方
A 車で出かけるのが好きで、温泉などに行きます。海外在住時はワイナリーを巡っていました。
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事業内容:国内・海外の食品飲料事業
本社所在地:東京都港区
設立:2009年1月
資本金:1683億円
従業員数:2万2446人(24年12月現在、連結)
業績(24年12月期、連結)
売上高:1兆6967億円
営業利益:1602億円
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■人物略歴
おの・まきこ
1960年生まれ。神奈川県出身。78年神奈川県立外国語短期大学付属高校(現・同県立横浜国際高校)卒業。82年東京外国語大学外国語学部卒業後、サントリー入社。2009年サントリー酒類(現サントリー)海外事業部部長。17年サントリー食品インターナショナル常務執行役員。22年サントリーホールディングス常務執行役員。23年から現職。65歳。
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週刊エコノミスト2025年5月27日・6月3日合併号掲載
編集長インタビュー 小野真紀子 サントリー食品インターナショナル社長