インバウンドで再成長
リソルホールディングス 大澤勝 2025.06.02
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
インバウンドで再成長
── インバウンド(訪日外国人観光客)の追い風を受けてホテル事業が好調と聞いています。
大澤 ここ3年ほど進めてきた「ツーリストホテル化」が実を結び始めたと考えています。例えば京都のホテルではロビーで舞妓(まいこ)さんに踊りを披露してもらったり、東京・上野の施設では芸大の学生さんの絵画や現代アートを展示したり、それぞれの施設で工夫を凝らしています。東京や京都の施設はインバウンド比率が8割を超えました。リピーターの増加に伴って「コト消費」も重要になりますから、施設周辺のマップを作成して地元のおいしい飲食店を掲載するなど、現場が一生懸命取り組んでくれています。
── ゴルフ事業の状況も聞かせてください。
大澤 現在、ゴルフ場18コースを運営し、うち16コースは保有もしていますが、実は当社が自前で造ったコースは一つもありません。いずれも法的破綻、または私的整理に至ったゴルフ場のスポンサーになって、当社が再生してきた歴史があります。会社更生法が適用されたということは大幅な債務超過であり、かつランニングも大赤字だったということです。普通であれば、これほど大きなリスクはなかなか取れません。ところが、当社は破綻案件を次々に買収して独自のノウハウで再生させてきました。業界内でも「面白い会社」と見ていただいています。
── ホテルもゴルフ場も景気の波に左右されやすい業界です。
大澤 当社グループのランドマークとして千葉県長柄町に「リソルの森」という施設があります。ホテルやゴルフコース、スポーツ、研修施設などのそろった広大な施設です。コロナ禍の3年間、多くの会社が守りに徹する中、リソルの森内にグランピングエリアを新設し、「リソルの森」以外でも新規ホテルの開業準備を進めました。このようなリスクを取ったからこそ、インバウンドを含めた現在の集客増につなげることができました。リスクにひるまず新しいチャレンジをする。これが当社のDNAだと考えています。
ゴルフ場内にヴィラ
── ゴルフ事業はどんな展開を考えていますか。
大澤 ゴルフ場内に別荘仕立てのヴィラの建設を進めています。ゴルフのためだけに遠出をするのは少しハードルが高いですから。瀬戸内ゴルフリゾート(広島県)に瀬戸内海を望めるヴィラを設置したところ、予約で満杯になりました。大熱海国際ゴルフクラブ(静岡県)では「富士山ヴィラ」というコンセプトで建設中です。ゴルフ場は今後、インバウンドを積極的に呼び込んでいけます。海外の方から見て日本にゴルフ場というイメージはありませんが、日本は世界で3番目にゴルフコースが多い国です。実際にラウンドすると「こんな良いコースが日本にあるのか」と驚かれることもあります。
── 福利厚生事業も伸びてきたそうですね。
大澤 バブル崩壊後、それまで保有していた社員向け保養所などの資産を整理した企業が多く出ました。こうした企業の福利厚生を代行する形で旅行プランやレストラン予約、家事代行などを提供する業界が現れました。この業界では社員が福利厚生を利用してもしなくても委託元企業から定額を受け取るケースが多いですが、このビジネスモデルには疑問を感じていました。当社は後発ということもあり、利用実績に応じて精算・返金する方式を採用しました。実際に使ってもらわないと当社の売り上げになりませんから、できる限り魅力的な商品を開発するというモチベーションになっています。
── どの業界も若手人材の獲得競争が激しくなっています。
大澤 20代からホテルやゴルフ場の支配人としてマネジメント経験ができるのが当社の特徴です。6月には20代の子会社社長が誕生します。また、当社執行役員にはゴルフ場子会社のアルバイトから、たたき上げてきた人材もいます。執行役員になった時は41歳でした。グループのどの会社でキャリアをスタートさせたとしても誰にでもチャンスがある。本人にやる気があれば「やらせてみよう」という企業文化も当社のDNAです。
── 今後の成長はどのように描いていきますか。
大澤 ホテル事業は引き続きインバウンドをしっかり取り込みます。ゴルフ事業は日本人だけを考えていては市場縮小が必至ですが、インバウンドの数%を呼び込むだけでも状況は大きく変わります。ゴルフ場内にこれだけの宿泊施設を持つ企業はほかにありませんから、先駆けとして展開していきます。もう一つは、ゴルフ場経営の世界進出です。日本のゴルフ場は競争が激しく、だからこそ経営破綻するケースもありました。その再生を得意にしてきた当社には世界的に見ても優れた知見が蓄積されています。ホテル運営の世界展開と併せて検討を進めます。
(構成=清水憲司・編集部)
横顔
Q 仕事でピンチだったこと
A リーマン・ショック後は再生したゴルフ場の買い手が一切いなくなり、会社に何億円もの損失を与えてしまうとヒヤヒヤした日々でした。外国銀行や弁護士ら、とにかく人に会ってもがきました。当時の人脈は今に生きています。
Q 「好きな本」は
A ビジネス書全般です。銀行に入った時の上司に「週に1冊は本を読め」と教えられ、30年以上、ずっと守っている習慣です。
Q 休日の過ごし方
A 仕事を兼ねてゴルフが多いですね。若い頃あまり家庭サービスができなかったので、妻を連れて旅行にもよく出かけています。
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事業内容:ホテル・ゴルフ場運営、福利厚生事業、投資再生事業
本社所在地:東京都新宿区
設立:1931年2月
資本金:39億4808万円(2025年3月)
従業員数:1907人(25年3月末、グループ)
業績(25年3月期、連結)
売上高:284億円
営業利益:26億8100万円
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■人物略歴
おおさわ・まさる
1966年生まれ、新潟県出身。新潟県立高田高校、専修大学商学部卒業。1990年東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2006年リソルホールディングス入社。22年から現職。58歳。
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週刊エコノミスト2025年6月10・17日合併号掲載
編集長インタビュー 大澤勝 リソルホールディングス社長