小型半導体の電子回路を組む時、電子顕微鏡を覗きながらはんだごてでミクロン単位の部品を接合するのですが、半導体デバイスをダイレクトに電子回路基板に搭載する時、ミクロン単位やナノレベルの接合や接着をするのですが、私は私はこのミクロな世界が大好きです。肉眼では見えないものを様々な手段で見えるようにしながら電子回路を組み立て、そうやって作ったものが世の中の役に立つ製品の心臓部元になると考えたら心がおどります。今は受託で先端技術の開発やものづくりをしながら、独自の技術開発と超小型モジュール製品の開発に取り組んでいます。革新的な開発もありますが、既存の技術に少しずつ改善を重ねていくことで今までにないものを生み出すこともできます。ものづくりや開発の仕事の面白さや魅力をもっと多くの若者たちに知ってほしいです。
どのような画期的な製品も出始めのころはサイズが大きいものです。パソコンもカメラも携帯電話もそうでした。それを小型化していくことで暮らしはより便利で快適になり、省エネにもつながります。小型化はどの製品も通る道です。私は技術者として「小さくする」ということにこだわり続けてきました。
技術者を目指すようになったのは中学生からです。妹のエレクトーンが故障した時に修理工がやって来て、慣れた様子で手際よく修理をする姿に憧れました。工業系の高専を出て大手電機メーカーに就職すると、セキュリティーカメラのものづくり革新や、カメラの小型化に携わり、パソコン用カメラや時計に内蔵するカメラ、乗用車に搭載できる小さな車載カメラの開発にかかわりました。携帯電話に搭載する超小型カメラは世界中の携帯メーカーで採用されました。国内外で工場や生産の立ち上げにかかわり、家に帰ることもままならない日々を過ごしましたが、今思えば開発設計から営業サポート、部品調達、品質管理、クレーム対応まで製造業に必要なことを幅広く経験できた貴重な機会でした。
定年までこの会社で働くつもりでしたが、管理職になると次第に組織としての意思決定の遅さにもどかしさを感じるようになりました。大企業ではよくありますが、一つのことを決めるのにいくつも決裁印をもらわなければならず、そのために会議を開き、資料を作ることになります。その時間がもったいないと感じたのです。携帯電話やネットの普及で世界的にビジネスのスピードが加速する中、このままでは日本は取り残されてしまいます。39歳の時に早期退職制度を使って、自分の決断ひとつで動ける起業の道を選びました。日本の製造業の工場が次々に海外へ移っていた時期でもあったので、国内のものづくりが衰退してしまうことへの危機感もありました。これまで培った「小型化」の技術で国内での製品開発に奮闘する企業をサポートしたいと考えました。
クライアントからの受託や大学・研究機関との共同開発は自分たちのスキルの向上にもつながったと実感しています。今は積み上げた経験と技術を生かして再び超小型センサー、カメラモジュールの自社製品開発に注力しています。他社と同じものを作っても大手には太刀打ちできないので、誰にも真似できない独自の新技術を生み出すべく試行錯誤しているところです。
小型化することは機能を凝縮するのですから、その分製品づくりも難しくなります。量産する時に安定した品質を保てるようにして、ものづくりの現場を苦しめない製品設計を心掛けなければなりません。自分の次の工程で作業をする人や、その先にいるエンドユーザーのことを常に考えながら仕事をするように社員たちにはいつも話しています。これはどんな仕事にも言えることです。社内ではミーティング時に社員が自己表現する機会を設けています。コミュニケーションを活性化することで仕事上のミスや欠点を補い合い、助け合いながらより良いものづくりを目指す企業風土を作っていきたいと考えています。
90年代ごろまではどの大手電機メーカーも半導体を含め開発からものづくりまですべて国内の自社で手掛けていました。その環境が画期的な発想や製品を次々に生み出し、日本のものづくりに活気と勢いをもたらしていたと思います。今、国を挙げて半導体産業を日本に戻そうとする動きがあるので、半導体とものづくりを近い距離に置くことで、かつてのような活気を取り戻せることを期待しています。人は思うように事が進まないとネガティブになりがちですが、それでは前に進めません。どんな状況でもポジティブ思考でいることが大切です。そして、何事も継続することです。長く続けたことはその道のスペシャリストとして生きてきたという自分の強力な武器になります。たとえ目指していたことと違う道に進んだとしても、前向きに努力して継続した経験は決して無駄にはなりません。
1969年東京都出身。89年、都立工業高等専門学校卒業後、松下通信工業、松下電器産業、パナソニック半導体デバイスソリューションズ(いずれも現パナソニック)、パナソニック半導体デバイスソリューションズを経て2008年マイクロモジュールテクノロジー創業。小型半導体モジュールの開発・製造・販売を手掛ける。