土木や測量事業を主軸にするTOTALMASTERS株式会社。建設業界ではいち早くICTシステムを導入し、GNSS(衛星測位システム)を活用した独自のマシンコントロールシステム「WAKTECH」を自社開発した。建設業を「かっこいいと評価してもらえるような仕事にしたい」とDXで最先端へ挑戦し、業界に変革を起こす玉里芳直代表に思いを聞いた。
設立当初から他社との差別化に課題があったという同社は、i-Construction(アイ・コンストラクション)という国土交通省が推奨するICT技術を活用したICT施工を他社に先駆けて導入した結果、「選ばれる会社」へと成長したという。i-Constructionは、労働力人口の減少を補うための技術革新を目的とした取り組みで、同社では、建設現場の生産性向上を目指し、測量・設計から施工、さらには管理に至るまでの全プロセスをDX化した。玉里代表は「これまでのように、人が現地で測量・設計するのではなく、ドローンで撮影したデータを数値化し、自動で測量・設計を行う。この仕組みを2014年頃から導入し、施工の効率化だけでなく、高精度な品質管理も実現しました」と語る。
当初はICTツールをただ利用するだけだったが、さらなる差別化を目指し、新たなマシンコントロールシステム「WAKTECH」を自社で開発した。GNSS(衛星測位システム)により機械の位置情報を取得し、設計データとバケット位置との差分を運転席のタブレット端末に表示することで重機の操作をガイドするシステムで、導入時や作業開始時の設定が容易で、経験の浅い運転者でもディスプレイに表示される設計ラインに従うだけで素早く正確な仕上がりを実現できることが大きなメリットだ。
現在、同社は国内の大手建設会社と提携しながら、全国展開を進めているが、今後は海外、特に発展途上国への進出も視野に入れている。「途上国では建設機械のコストが高いものの、重機の活用は不可欠です。そこで、機械の稼働効率を向上させることが、収益向上につながると考えています。また、工期短縮によるCO2排出削減にも寄与できる。人件費だけでなく、環境問題の解決にも貢献できる」と展望する。
「WAKTECH」は、ワクワク(WAKUWAKU)とテクノロジー(TECHNOLOGY)を組み合わせて名付けられた。「ワクワクするような技術を現場から育てたい」「現場をワクワクさせる技術を提供したい」という二つのワクワクの相乗効果によって、さらなるワクワクの提供を実現するサービス、という意味を込めたという。
玉里代表は「『WAKTECH』は、自社で開発したものですが、土建屋がエンジニアを採用としようと求人を出してもイメージがわかず、なかなか応募が来ない。『WAKTECH』のような技術を見せることで、建設業の可能性を具体的に想像してもらえるのではないかと思っています。『ワクワクする気持ち』を大切にしたい」と期待を寄せる。
さらに、建設業の「かっこよさ」を発信することも、玉里代表の大きな使命だ。「そもそも建設業は大変だというイメージが大きい。ですが、今後あらゆるものが自動化されても現場で人が何かする、ということは変わらないでしょう。そうなったときに、現場の人間の待遇が少しでもよくならないと話にならない。それは待遇面だけでなく、心の底から誇れるものが必要なのではないかと思っています。だからこそ、自分がやろうとしていることにワクワクする心がないと成り立たたない。現場の人間のアイデアをITシステムで実現化する。そんな土壌ができたらワクワクするでしょう」と、「WAKTECH」に込めた思いを語る。
そして、その思いはさらに大きなビジョンへと広がっている。同社では、自社開発の技術を応用し、「宇宙で住める技術」の研究にも着手している。「宇宙に建設機械を持ち込めれば、自動で地面を掘削し、家を建てることも可能ではないかと考えています。人類が地球で生きる事が困難になったときに、『こんな技術があります』と提案できるようにしたい。そう考えると、ワクワクするでしょう。最終的に宇宙でも使えるものなら、日常はもちろん、さまざまなことに応用できるクオリティーのものができるのではないか、というところですね」と語る。
また、そうした遠隔操作の技術は、将来的に大地震や富士山の噴火といった大規模災害時にも活用できる可能性を秘めている。玉里代表は「『この技術があれば支援ができる』と胸を張れる存在になりたい。建設業の役割を通じて、多くの人に『かっこいい仕事だ』と思ってもらえるようにしたいですね。我々のような小さな企業だけでは限界がありますが、大手企業と連携しながら、大きなムーブメントを起こしたい。『誰かがやるなら、我々が先陣を切る』という気概で挑戦を続けたい」と意気込む。
中学校を卒業後、土木現場でアルバイトを始め、21歳で独立。2004年にTOTALMASTERS株式会社を設立。主な事業である建設事業では他社よりICTシステムを先進的に導入し、差別化を図る。現在は、建機施工のICT化を主導で研究開発を行い、業界のDX化を推進している。