1989年生まれ、神奈川県川崎市出身。2014年、インターネット広告代理店に入社し、広告運用部を立ち上げる。以後、同部署のMGとして従事。プレーヤーとしても100億円以上を売り上げ、特別社長賞を5期連続受賞。2019年に独立。スイミー株式会社・株式会社Nonicoの2社の代表を務める。
広告主と消費者の両方が本当に幸せになれる広告を目指して
もはや目にしない日はないインターネット広告。2022年には日本の広告費の43.5%を占め、テレビや新聞などのマスコミ四媒体の33.8%を上回る勢いだ。そんな、あふれかえったインターネット広告の中に埋もれまいと訴求効果を追求するあまり、法に触れるような広告も少なくない。そこで立ち上がったのがスイミー株式会社だ。業界の健全化を掲げる伊澤祐太代表取締役に創業までの経緯、広告主への思い、クリーンな広告で売り上げを上げるための工夫、組織作りについて聞いた。
2014年、インターネット広告代理店に入社した伊澤氏は、著名人の写真の無許可使用や誇大表現など不正な広告があふれていたという。その中で、クリーンな広告を手掛けたいと葛藤を持つようになり、2019年に法令遵守の徹底を強みとするインターネット広告代理店として独立した。しかし、思ったように売り上げは伸びず、苦戦を強いられた。
あきらめずに真面目に活動することが将来的につながると信じて、続けた結果、半年を超えたころから売り上げが右肩上がりになった。
法令を遵守しながら利益を上げることは簡単ではない。そこで、新規の広告を作るだけにとどまらず、商品やサービスの開発から、KPI(重要業績評価指標)の設定、コピーライティング、広告とSNS(ネット交流サービス)の運用などを横断的にサポートする「グロースハック」と呼ばれる手法で、広告主の売り上げをサポートする事業を手がけている。「不正な広告表現を避けると、CPA(顧客獲得単価)が上がってしまいます。
しかし、既存顧客との関係性を重視するLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)を向上させる仕組みを作ることで、売り上げの低下を防げる」と前向きだ。
このグロースハック手法の導入を可能にするのが、〝集合天才型〟の組織作りだという。
役割以外の仕事は与えず、人前で発言することが苦手なスタッフに会議の出席を強制しないなど、スタッフが才能を最大限に発揮できる環境を作ることに務めている。これが業務効率化や働きやすさによる定着率の向上につながっているという。このような組織作りを行ったのは、苦手の克服を重視する日本の教育への疑問があったからだという。「個人の選択肢が増え、多様性が尊重される時代に、苦手を克服するより、得意分野を伸ばす方が、個人にとっても社会にとっても意義がある。それぞれ強みを持ったスタッフが集まって、得意なことのみに集中してもらうことで、個人の弱みを組織単位で克服している」とその意義を説明する。
一方で個々のスタッフが自身の業務のみに没頭すると、組織として機能させるのが難しくなる可能性があるが、伊澤氏は、組織やチーム全体の成果に向けて意見や疑問、違和感などをいつでも誰もが言えるようにする「心理的安全性」のファシリテーターの資格を取って、スタッフにワークショップを行った。個性を尊重することを共通の価値観として持つことで、それぞれが個々の能力をためらいなく発揮できるようになったという。
グロースハック事業と組織作りがうまくいったことから、2022年度の売り上げは過去最高を達成する見込みだ。2023年夏には、いよいよ事業の拡大化に着手するという。「現在、当社では関わるすべての人間がリモートワークを行っています。横の連携が取りづらい中、通常よりも幅広い作業領域を分業し、一つのものを作り上げるということは、とてもチャレンジングな試みです。当社のやり方で成功を収めれば、個人の選択肢を大切にした一つの新しい組織の形を示せるのでそこを目指したいです」と語る。
起業の目的の通り、クリーンな広告を通じて業界を健全化し、それによって顧客とユーザーの双方を幸せにするという目標はぶれていない。「私たちが作った広告は、最終的には消費者の購買につながります。責任はとても大きく、そのため本当にいい広告を作ることに努めなければいけません。法令を遵守した広告で売り上げを上げられるということが業界内に広がれば、追随する同業者も増えるでしょう。それは結果的に社会貢献につながると信じています」と力を込めた。