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株式会社OUTLIER 代表取締役

西村圭介

https://www.outlier.tokyo/
Keisuke Nishimura

1991年、富山県生まれ。2016年、埼玉大学大学院理工学研究科 修士課程修了。フリーランスのデータサイエンティストとしてキャリアをスタートする。2021年、株式会社OUTLIERを設立。クライアントワークと並行して、市井への統計・機械学習・プログラミング教育や、大学との共同研究も行う。

データとアルゴリズム”を活用して、日本のビジネスを科学的に

大学院修士課程修了後、一度も会社員にならずにフリーランスのデータサイエンティストとして活動し、データ分析を活用したマーケティング分析やAIシステムの開発、経営コンサルティングなどに取り組んでいる株式会社OUTLIERの西村圭介代表取締役。データ分析やアルゴリズムを活用することで「科学的な意思決定」が可能となり、ビジネス上の課題に対して「より早くより確実な処置ができる」と語る。

西村氏は、データサイエンスや情報工学ではなく、大学院では建築工学の中でもコンクリートなど材料系の研究をしていた。建築分野とデータサイエンスの接点は統計学で、コンクリートの硬さを調べる時に一部のサンプルから全体を推定するなど、密接な関係にあるという。また、趣味のテーブルゲームの勝率を上げるため、自己研究的に統計学的アプローチを活用していたといい、統計的なセオリーを机上論にとどまることなく実践していたおかげで、ビジネス感覚が養われた」と語る。

修士課程を修了する2016年、AIやビッグデータの活用が社会的に大きな話題となった。友人からクライアントを紹介され、西村氏はこのとき初めてデータサイエンスを用いた経営支援の仕事を受注する。この段階で必死に猛勉強し、初めはうまく成果を出せないことが多々あったものの、データサイエンティストとしてのキャリアがスタートした。

西村氏の次の仕事は、「通信会社」のデータ活用プロジェクトだった。最初の仕事を発注してくれた会社からの紹介で、メンバーとして参加し、数値の使い方や分析方法を実践で学んで技術的下積みをしたという。その後は現在に至るまで、あちこちの会社に転職したプロジェクトのメンバーから信頼されて仕事を紹介してもらう形が続いている。

こうして5年ほどフリーランスとして活動した後、仕事を通じて培った知見や人脈を社会に還元したいという思いが高じ、株式会社OUTLIERの設立へと至ったという。データサイエンスは「砂金が混じっているかもしれない砂の山から、金を抽出する」イメージが近いといい、OUTLIERではその方法論や実践を提供している。
具体的にはデジタルコンテンツサイトやECサイトのレコメンデーション(おすすめ)のシステムを開発したり、クライアントが複数の媒体に同時に打った広告の成果分析をしたり、そのためのプログラムを組むこともあればコンサルティングを行うこともある。

 OUTLIERが提供している統計学やデータ分析を用いた経営支援は、抽象的なものではない。具体的な経営指標を明確にするところから始まり、経営改善に必要なアクションをデータ分析によって見つけ出す。

西村氏が経営支援をする中で、「介入しても効果が望めないこと」に頭を使っているケースが散見され、「望みの薄いものに労力を割くよりも、介入した場合に大きく動くものを特定し、それをどう向上させるかについて頭を使ったほうがいい」とデータ分析の重要性を訴える。

日本でもデータサイエンティストやデータ活用への認知度の高まっているといい、「ディープラーニングが数年前に登場したとき、革新的な技術だが、地に足がついていない印象があった。ブームが落ち着いて徐々にデータ活用の成功事例が世の中に出てくると、現実的にデータ活用してみようと本腰を入れる会社が増えてきた」と語る。

西村氏は、必要以上に努力を美化し、楽をすることを悪と戒める日本の風潮に懐疑的だ。「楽をする」とは「効率化」と言い換えることが可能で、むしろ「楽をすることで」労働人口が減っていく中でも持続的に新たな生産ができるようになるという。「日本社会にも、怠惰を求めて、勤勉に行き着くというような姿勢は大事だと思う。ある意味、楽をするために一生懸命にデータを分析したり」とは、奇妙なパラドックスだ。

効率化の重要性を唱える西村氏だが、その道のりが平坦でないことも承知しており、「日本ほど成熟した国の場合、何か一つを変えたからといってドラスティックに全てが変わることは望めない。地道に分析手法や統計学をビジネスに活用する人が増えていくことが大事。そのために優秀な人を集めて育成し、データ分析の応用例を日本で増やしていきたい」と地道に歩みを進めている。さらに「データ活用するといいことがあるんだ!という価値観を広く残し、日本全体のOSのちょっとしたアップデートに貢献できるといい」と大きな志を語った。