2009年に慶應義塾大学を卒業し、三井物産株式会社に入社。日本・欧州・中南米の再生可能エネルギーの新規事業投資・M&Aを担当。ブラジル海外赴任中に分散型電源企業出向、ブラジル分散型太陽光小売ベンチャー出資などの脱炭素案件を経験。2019年、同社を退社し、アスエネ株式会社を創業。
次世代の未来のために、気候変動の課題解決に挑む
気候変動の問題が深刻化する中、政府は2020年、カーボンニュートラルを2050年までに実現することを宣言し、脱炭素に向けた企業の取り組みが本格化している。それをサポートするのが、2019年に「次世代によりよい世界を」をミッションに掲げて創業し、脱炭素・ESG領域の事業を展開するアスエネ株式会社だ。4期目の現在、主力事業である、二酸化炭素(CO2)排出量見える化・削減・報告クラウド「アスゼロ」の導入企業数は3000社を超える急成長を遂げている。Co-Founder&代表取締役CEOの西和田浩平氏に聞いた。
「『次の世代の未来のためになることにコミットしたい』と考えて創業しました。2人の子供がいるので、ライフワークとして次世代に新しい価値を創出したいと決めています」と西和田氏は語る。アスエネは、ミッションに「次世代によりよい世界を」を掲げ、2050年のカーボンニュートラルの実現にむけて、脱炭素・ESG領域の事業を展開。主力事業は、CO2排出量の可視化と削減・報告のためのクラウドサービス「アスゼロ」と、持続的なサプライチェーン調達のESG評価クラウドサービス「ESGクラウドレーティング(ECR)」だ。西和田氏は「脱炭素のワンストップソリューションを提供できるところが他社にない強みです。CO2の見える化のクラウドとコンサル、クレジットの売買に加え、再生エネルギーの調達支援など削減ソリューションの提供まで自社1社でできるのは、今アジアで我々しかいません」と胸を張る。
期目の現在、導入実績は大手企業を中心に3000社を超えた。今春にはCO2だけでなく、水や廃棄物も管理できるようにしたことで、ESGのEはほぼカバーできるようになったという。高校時代からバンドを組んで活動していた西和田氏は、大学入学後も音楽のプロになることを目指していたが、挫折して次の方向性を探していたとき、Mr. Childrenの桜井和寿さんらが結成した「Bank Band」の活動に衝撃を受けたという。
「CD販売やライブの売り上げを、環境系のベンチャーに投資や融資をし始めたのです。音楽というビジネスを通じて社会を変える仕組みを作っていて。それまでビジネスには関心がありませんでしたが、社会を変革できる可能性を知り、がぜん興味が湧きました」といい、そこから環境系の社会課題とビジネスによる解決方法について調べ始めたが、当時はまだビジネスとして手掛けている例は少なく、社会貢献として取り組むNPOなどが活動の主体だった。西和田氏自身もNPOを立ち上げて活動していたが、ボランティアベースの活動では継続していくことが難しいことを痛感。卒業後は当時から再生エネルギーのビジネスを手掛けていた商社に入社し、国内外で太陽光発電や風力発電などの新規事業開発や投資、M&Aに携わり、欧州やブラジルの会社を買収・出資して、そこを通じた太陽光発電の普及に取り組んだ。
商社の仕事に十分な手応えを感じていた西和田氏が、起業の道を選んだきっかけは、ブラジル駐在時にスタートアップに出向し、経営者の間近で仕事をした経験だという。「ものすごいスピードで経営判断をして事業を拡大し、利益を出しながら社会に貢献している。そのダイナミズムに感銘と刺激を受け、自分も経営に携わりたいと思いました」。
帰国後、起業のタイミングを見て、2019年9月に約11年勤めた商社を退社。翌月にアスエネを創業した。投資する側から受ける側に回り、商社での経験を基に投資家の信頼を得て、現在までの合計調達額は31億円に上る。創業当初はエンジニアなどの仲間集めに苦労したが、現在は100人以上のメンバーを擁し、ハイペースで拡大中だ。
「10のバリューを定めていますが、特に重視しているのはIntegrity(誠実)、Ownership(当事者意識)、Go Fast(迅速さ)の三つです。ミッションにフィットしており、会社と自分を急成長させるためにスピード感を持って仕事を進めたいというメンバーだけを採用しています」と採用後の育成にも力を入れる。業種ごとに“型”をまとめ、コンサルティングのクオリティー向上とコンサルタントの育成に生かしている。
「今後はバリューチェーンを拡大し、ESGのEのところをしっかりできるようにした上で、ダイバーシティ&インクルージョン、人権といったS、そしてGにも広げたサービスを提供していきたいと考えています」 。気候変動の問題が深刻になっていく中、「本当にネットゼロを達成するためには、みんなでやっていかないと意味がない」と西和田氏は言葉を続ける。そのためのパートナーシップやアライアンスを重視し、日本だけでなくグローバルレベルの展開を構想している。事業の海外展開の推進強化も注力テーマだ。CO2排出量に関しては国ごとの規制の違いなどはあるが、国際的な基準に基づいて計算をして削減提案をする。そのため、国による違いよりも業種による共通性の方が大きく、海外展開はしやすい。「ホンダもソニーも、元はスタートアップでした。海外に進出することで成長し、その結果として今の日本がある。その力を取り戻していきたいと思っています。現状、海外の競合対比でほとんど差がありません。海外でも十分勝てると思っています。まずはアジアでNo.1を必達目標で置いています」と力強く語る西和田氏の目には、スタートアップから社会を変え、輝く未来に続く道が映っているようだ。