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株式会社バイオテクノ産業 代表取締役

斎藤一也

https://biotechno.co.jp/
Kazuya Saito

1971年生まれ、秋田県由利本荘市出身。県立由利工業高校電気科卒業後、TDK株式会社に入社。2003年にTDK Hong Kong Co., Ltd.へ赴任。2012年の帰任と同時に退社し、電子部品を扱う貿易業を営む。2019年に株式会社バイオテクノ産業の代表取締役に就任。

バイオ分野で社会課題の解決に寄与

清涼飲料水の開発、販売を手掛けるバイオテクノ産業株式会社と、家畜への応用製品の開発、販売を手掛けるバイオテクノ琉球の代表取締役を務める斎藤一也氏は、電子部品の製造開発から、偶然の出会いから両社を継ぐことになった。バイオ技術を生かして、地球温暖化の防止と畜産農家の支援という二つの未来を目指して、研究開発に取り組んでいる斎藤氏に聞いた。

斎藤氏は工業高校の電気科を卒業した後、電子部品の製造を行う企業で製造と技術開発に従事。上司の顔色をうかがうことなく、商品と向き合う姿勢が評価され、香港に9年間駐在することになる。
「当時はすることがなくても残業をすることが美徳とされている時代でした。そんな風潮に納得ができず、帰任と同時に独立をしました」と振り返る。培った語学力と人脈を生かし、2019年までは電子部品の貿易業を営んでいたが、偶然手に入れた清涼飲料水が運命を変えた。「味はまずいけど、飲んでいるうちに体の調子が良くなるような気がしました」と興味を持ったのが、バイオテクノ産業の製品だった。すぐに同社に連絡し、代理店として取り扱うことが決まった。そんな縁から出資を提案され、創業者でもある先代の跡を継いで、代表取締役に就任することになる。

「工学とバイオ技術、畑は違いますが、興味が沸いたら深堀したくなる気質が生きた」と語る斎藤氏は、清涼飲料水の成分を徹底的に調べた。この飲料水の目玉になっている含有成分の一つに沖縄産の雪塩があったが、特に目立つ効果がないことが分かり、取り除いてみたところ、格段に飲みやすくなった。さらに、沖縄で製造工場を経営する知人を頼り、シークワーサーの風味を加え、一段と飲みやすくすることに成功した。
「これでもっと多くの人に飲んでいただけると思いましたが、社員や代理店からの反発がありました。まずいとはいえ、慣れてしまった味が変わることに抵抗がある人も少なくなかったですね」と話す。しかし、根気よく説明を続け、2023年1月には販売にこぎ着けることができた。リニューアル前から商品を愛用していたユーザーにサンプル提供を行ったところ、飲みやすいと評判になった。定期購買者も大幅に増えたことから、手応えを感じているという。

斎藤氏が改良を行ったもう一つの製品が、微生物添加型バイオ飼料だ。含有している菌の量を検査したところ、改良の余地があることが分かった。整腸に有効な菌を増やし、米ぬかやふすまなどを加えて嗜好性を高めた。そのサンプルを畜産農家に提供したところ、この製品をかけた牧草に牛が集中したという。牧草の消費量を増やし、飼料に頼りすぎない飼育へシフトでき、専従の獣医師による、管理スケジュールのコンサルティングを提供することで、通常約10カ月必要な育成期間を約8カ月まで短縮させることに成功した。
「当社の製品を与えた牛は『胃ができている』と肥育業者からも評判です」と自信を見せる。育成期間を短縮できれば、経費負担や手間が減る。「物価高で飼料も高騰していて、畜産農家は厳しい経営を迫られ、廃業に追いやられるケースも出ています。畜産農家の経営を維持させるだけでなく、今まで以上の利益を上げられるので、もっと多くの人に知ってほしい」と語った。

斎藤氏は微生物添加型バイオ飼料によって、二つの未来を描いている。一つは地球温暖化の防止だ。牛から排出されるメタンガスは、実に世界の温室効果ガスの4%を占めるともいわれているが、「育成期間が短縮されている分、単純に排出量も減少するのではないか」と推測する。今後研究を進め、排出量や質など効果を確認したいという。

もう一つはブランド豚による、畜産農家の支援だ。豚を含め、食肉の安定供給のために抗生物質が使用されているが、休薬期間を置いたのちに出荷されるため、残存していた場合でも人体に影響がないと考えられているが、健康志向などもあって、なるべく自然に近い形で飼育されたものを望む消費者は多い。斎藤氏は「腸内フローラを整え、抗生物質を減らして育てたブランド豚を、選択肢の一つとして消費者に提供したい」と沖縄で研究を続けている。