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ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEO

柴山和久

https://corp.wealthnavi.com/
Kazuhisa Shibayama

1977年生まれ。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務し、10兆円規模の機関投資家をサポート。2015年にウェルスナビ株式会社を創業。

「老後2000万円問題」が大きな話題となり、資産運用への関心が高まっているが、その必要性は感じていても、足を踏み出せない人が多いのが現状だ。政府は、2024年からのNISA(少額投資非課税制度)の拡充などの「資産所得倍増プラン」を打ち出している。そんな中、急成長を遂げているのが、スマートフォンで完結する全自動資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」だ。「誰でも安心して資産運用が行えるサービスを生み出したい」というウェルスナビ株式会社代表取締役CEO柴山和久氏に聞いた。

経営コンサルティングファームで機関投資家の資産運用をサポートしていた柴山氏は2013年、米国人の義理の両親のプライベートバンクの運用報告書に、数億円の金融資産の内訳が記されているのを目にして驚いた。「義理の両親は自分の親と同じような年齢と学歴、職歴ですが、金融資産は10倍の差がありました。その理由は、義理の両親の金融リテラシーが高かったからではなく、プロに任せたサービスを利用することで、『長期・積立・分散』の資産運用が実現できていたからでした」と語る。
少子高齢化が進み、退職金や公的年金への不安がある日本の働く世代にこそ、資産運用が必要だが、相談する相手もなく立ち止まっている人が多い。そこで柴山氏は「日本でも『長期・積立・分散』の資産運用を普及させれば、一人一人が豊かになり、社会全体も豊かになる。そのために、誰でも安心して資産運用が行えるサービスを生み出したい」と考え、2015年春に経営コンサルティングファームを退職し、ウェルスナビを起業。2016年7月に全自動の資産運用サービス「WealthNavi」を正式リリースした。「WealthNavi」は、スマホのアプリやPCを使って自動で資産運用ができるサービスだ。五つの質問に答えるだけで資産運用プランを提案し、世界約50カ国1万2000銘柄への分散投資を自動で行ってくれる。投資の知識や経験、資産の額に関係なく、誰でもおまかせで「長期・積立・分散」の投資ができるという。
リリースから約6年半後の2022年12月末時点で、預かり資産は7197億円、運用者数は35万6000人に成長した。「働く世代に豊かさを」のミッションに沿って、20~50代の働く世代が利用者の中心だ。サービスの月次解約率は1%未満という信頼を得ているが、その大きな理由は、分かりやすさと透明性だという。
「お客様からいただく手数料は、預かり資産残高の1%のみとシンプルで、銘柄の選定基準など運用のアルゴリズムや過去の運用パフォーマンスも透明性高く開示しています。セミナーやコラムなどの情報発信に力を入れていることや、銀行やカード会社など多様な提携パートナーの存在も大きな力になっています」と語る。

柴山氏は、ウェルスナビのビジョンを「ものづくりする金融機関」という。「メンバーの半分近くは、エンジニアやデザイナーで、お客様の声を聞きながら、金融とテクノロジーの専門家が一つのチームになって、スピード感を持ってサービス改善や開発を続けています。それにより、安心して使い続けられる、分かりやすいサービスを作れることが強みです」と胸を張る。
開発を外注せず、内製化しているのは金融機関でも珍しい。起業時から「誰もが安心して利用できる資産運用サービスを作るには、テクノロジーの活用が必要」と考えた柴山氏は、エンジニアを探したが、見つけることができず、自らプログラミングスクールに通った。「プログラミングを一から勉強し、ひと月かけてウェルスナビのプロトタイプを作りました。これが初の資金調達や採用につながりました。人生で最も大変な1カ月でしたが、最初に自ら手を動かしたことには大きな意義がありました」と語る。エンジニアの苦労や喜びをある程度は理解できるようになったことが、ものづくりを軸とするウェルスナビの組織作りに生かされているという。

2024年から始まる新NISAでは、「一般」と「つみたて」の二つに分けられていたものを一本化。非課税期間を無期限にし、年間投資上限額を最大360万円に引き上げ、「生涯投資枠(非課税保有限度額)」も1800万円に増やす。制度の恒久化と投資限度額の引き上げで、「貯蓄から投資へ」という流れが拡大することが期待されている。
「WealthNavi」では、これまで一般NISAのみに対応していたが、来年からはつみたて投資枠も含む、非課税枠全体を活用できるようにする。最低投資額の引き下げや、積立入金での運用開始など、より多くの働く世代が投資に取り組みやすい環境を整えるため、プロダクトの改善を進めている。「NISAをおまかせで利用できる『おまかせNISA』も、お客様の要望から生まれました。来年から始まる新しいNISAにも全面的に対応するために準備を進めています」という。
柴山氏は「自由に使える投資枠が拡大することで、どのように取り組めばよいのか、悩みを抱える人が増えるのではないでしょうか。取引やアドバイスを自動で行い、幅広い資産への分散投資により資産全体を最適化するウェルスナビの存在は、ますます重要になると考えます」と語る。ウェルスナビは、個人のお金の悩みをすべて解決する金融プラットフォームを目指している。