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日本生命保険相互会社 代表取締役社長 社長執行役員

清水博

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Hiroshi Shimizu

1961年生まれ。徳島県出身。1983年、京都大学理学部卒業後、日本生命保険相互会社に入社。商品開発部長などを経て、2009年に執行役員総合企画部長、2013年に取締役常務執行役員、2016年に取締役専務執行役員(資産運用部門統括、財務企画部担当)を歴任。2018年4月から現職。

DX化を進めて「人の力」を最大限発揮する組織へ

2019年に「デジタル5カ年計画」をスタートし、組織のデジタル・トランスフォーメーション化を進めてきた日本生命保険相互会社。重要視するのはデジタルによる利便性の向上と効率化、さらに進化する時代に合わせた新規事業の創出だ。2018年に代表取締役社長に就任して以来、デジタル化を主導し、さらに現場との対話を深めてきた清水社長に、同社が持ち続けてきた強みと進化、さらに未来の社会を創る若者へ期待する事について話を聞いた。

「日本生命の経営理念は、契約者利益を最優先に置くことです。その理念をどのように実践するかが大事であり、お客様本位の業務運営を会社の隅々にまで行き渡らせることを社長として非常に大切にしています」と清水社長は語る。会社の隅々にまでこの理念が行き渡っているか、行き渡らせるためにはどうすればいいかを、就任以来一つのテーマとしてきた。そのために、現場にいって営業職員と直接話をすることをとても大事にしているという。社長に就任して1年目、西日本大豪雨の被災地へ行き、現場の営業職員と話をしていたとき、「職員たちが自分の自宅の写真を見せてくれるんです。自宅の1階のリビングがこんなに泥であふれているとか、大きな石がゴロゴロ転がっているような状態をスマホで見せてくれました。職員たちは、自分がいかに大変かということを言いたいわけではないんです。これは一例であって、お客様もこのような被害をたくさん受けていて、『私はお客様にこういうことをして、喜んでいただけました。ただ、できることには限界があって、本当はここまでしてあげたかったんですけれど、できなかったんです』と。そういうことを話してくれた」と振り返る。経営理念が浸透し、指示せずともお客様本位を第一に動くことができるのが同社の職員であると清水社長。自ら被災するような自然災害においても、お客様本位を最優先に動いている営業職員の姿を目の当たりにしてきた。現場で懸命に働く営業職員の想いを事業方針に反映しながら、経営のかじ取りを進めてきた。

日本生命はデジタル化を推進するメッセージを発信してきた。「『ノーデジタル・ノーライフ』です。皆さん当たり前にスマートフォンを持ち、スマートフォンで何もかもすませるような日常生活ですから、保険を考えるとき、それから見直すときにもデジタルデバイスが活用されることを前提に考える必要があります。我々も仕事のあり方やお客様との接し方、事業全体のデジタル化が今後もっと進むということを前提に考えて、見直しを進めています」という。

同社は2019年に策定された「デジタル5カ年計画」に則り、お客様の利便性向上や営業活動の効率化、さらに既存マーケットの新たなアプローチや新たな事業創出も行ってきた。「取り組みの一つとして、糖尿病のリスクが高い人を対象とした、重症化しないための予防プログラムを有料で提供開始しています。さまざまなメーカーや、グループの関連財団が運営している日本生命病院に勤める保健師の協力を得て構成したプログラムです。プログラムに参加した方の食事や運動習慣を見て、データから糖尿病罹患のリスクが高い人に指導をしていくものです。実証実験がうまくいきましたので、有償のサービスとして打ち出しました。」人生100年時代の中で、同社がヘルスケア領域において担う役割に注目が集まっている。

1889年の設立以来、134年の歴史を数えてきた日本生命。揺るぎないマーケットリーダーとしてここまで事業を続けてくることができたのは、確固とした理由があるという。「それはもう間違いなく、今なら約5万人に上る営業職員が約1200万人のお客様と一人一人信頼関係を作って、それを大事にしてきた結果だと思います。大事なことは人の力です。『人は力、人が全て』という言葉を私はよく使うのですが、人がより生き生きと働き、輝き続けられる会社にしたいと思っています」と力を込める。

清水社長は、社長に就任してから抱いたある感情がある。「7万人の職員約一人一人がこの日本生命の仕事を通じて本当に幸せな人生を送ってほしいということです。社長になって初めて湧いてきた思いで、今では心底そう願うに至りました。職員たちが生き生きと働くことで、その先のお客様に対しても良いサービスが提供でき、良い信頼関係につながっていくはず。もっと仕事を通じて一人一人が幸せな人生を築いてほしい。それを可能とする組織づくりを進めて、職員たち自身がその幸せをつかんでほしい」と願っている。

これから社会に飛び立つ若い人には「憧れを目標に変えて、具体的に一歩進む」ことを大切にしてほしいという。「私が若い頃は、憧れを心の中に持っていれば自然とそこへ近づいていけるものだと思っていました。でもそうではなかった。憧れという次元から具体的な目標に変えて、どう近づいていけばいいのかということを、もっと考えていけば良かったなと今では思います」と明かした。
「これからの社会のあり方や生活スタイルを、若い人がどうデザインしていくのか非常に楽しみですね。若い人ならではの魅力は間違いなく自由な発想、柔軟な感性、大胆な行動力にあります。動きながら考えて、失敗しても修正してまた動くということを繰り返して、何がやりたいかよくわからないという人はとりあえず興味のあることをやってみたらいい。実際やってみて違うことに興味が出てきたら、また違うことをやってみたらいい。それを繰り返して、多分10年20年経つと、全てが自分の中で有機的に結びついて、自分の軸が必ずできます。難しいからといって、その前に立ちすくむのではなくむしろ逆に大いに奮い立ってほしいですね」と、清水社長は若者たちにエールを送った。