1954年生まれ。大手建機メーカーで経験を積んだ後、1985年篠田株式会社を設立。土木建設資材卸業で岐阜県トップシェアに。環境事業にも力を入れ、2010年に木製防音壁「安ら木Ⅱ」がエコプロダクツ部門農林水産大臣賞を受賞。現在、レドックスフロー電池の実用化等、新たなことに挑戦中。
生き生きとした未来のために、地域循環共生圏を目指す
環境省が提唱するローカルSDGsは、地域住民と企業が協力して地域内の資源を有効活用し、地域経済の発展と環境保全を両立させる地域循環共生圏である。各地で試行が実施されている中、2023年6月に、岐阜県郡上市で先駆的な実験施設「ひるがのミニエコタウン」がオープンする。運営するのは、岐阜市で土木建設業を営む篠田株式会社だ。同社は全国に10ヵ所以上の営業所を持ち、土木建設業界で確固たる地位を築くとともに、20年以上前から環境関連事業に取り組んできた。2022年12月にはSBTイニシアチブの認定も取得している。代表取締役社長の篠田篤彦氏に「ひるがのミニエコタウン」開設の経緯や狙い、未来への思いを聞いた。
2023年6月2日、岐阜県郡上市に、広さ3,800㎡の再生可能エネルギー実験施設「ひるがのミニエコタウン」がオープンする予定だ。運営する篠田株式会社は、道路のガードレールや案内標識などの交通安全施設工事や山の法面の災害予防工事といった土木建設業を主軸とし、土木建設資材の販売、環境商品企画販売も手掛ける。地元岐阜県に盤石の基盤を持つ「100年企業」である。
「ひるがのミニエコタウン」では、同社が取り組んできた再生可能エネルギー事業の最終形を目指す。篠田氏は「太陽光発電・蓄電池とバイオマスボイラーを組み合わせ、再生可能エネルギーによる電気と暖房・給湯を可能とします。バナジウム・レドックスフロー電池や木質バイオマス等の弊社取り扱い製品はもちろん、環境に配慮した地中熱なども利用します」と説明する。
同タウンで使用するエネルギーは、タウン内の発電などで賄う。発電時に発生する熱を利用し、温室で農産物を栽培したり、隣接する牧場に依頼して乳製品を製造したりすることも計画中だ。敷地は1万平方メートルを確保しており、将来的にはそこまで広げる予定だ。篠田氏は「レストランも開設して、観光施設にもしたいと思っています」と笑みを見せる。
篠田氏の祖父が鉄鋼業を始め、跡を継いだ父の代から土木業を営んでいた。篠田氏が大学を卒業した時点では跡を継ぐ予定はなく、建機メーカーに入社。1981年、造船不況で親会社が苦境に陥り、同僚たちが肩叩きされるのを目にして、「自分からやめれば誰かが助かるのではないか」と考えた。そのタイミングで、父から戻って来るようにとの声掛けがあったという。
「土木業の仕事がやりたいわけでも、嫌だったわけでもありませんでしたね。最初は何もわからないから、建機メーカーでの経験を生かして、父が手掛けていた建設機械の販売と修理の仕事を広げていくところから始めました」
やがてゼネコン企業と取引をするようになり、土木業界に関するさまざまな話を聞くことができた。そこから業界がどう変わっていくかをつかみ、有資格者を増やすことに力を入れ、外注せずに自社で賄える業務を増やしていった。
1985年に父の会社の幾つかの部門を引き継ぎ、分離独立して篠田株式会社を設立。自らも現場に立ちながら、事業を拡大。設立当初の社員数40人から200人以上の規模に成長させてきた。
土木建設業に勤しんでいた篠田氏が環境事業に関心を持ったきっかけは、20年以上前にドイツのエコタウンを訪れたことだという。「生ごみを丁寧に選別し、木を剪定した枝、刈った芝などを近くの牧場から出る糞尿と共に堆肥化していました。それを使って発電し、余ったガスを一般家庭にも供給するという循環型の暮らしが根付いていたのです」と語る。
そこで感銘を受け、小さな町は循環型のエネルギーシステムを確立し、自立した地域が連携していく形にシフトすることが必要だと考えるようになる。帰国後、地域の資源を生かした環境関連事業として、岐阜の天然木の間伐材を活用した木製防音壁を開発。2010年にエコプロダクツ大賞のエコプロダクツ部門農林水産大臣賞を受賞する。
2019年には、台風の被害を受けた千葉県でボランティア活動を行い、停電が続く様子を目にして蓄電池の重要性を痛感。同年末に、シンガポール南洋理工大のラボのバナジウム蓄電池開発の話を聞き、0泊3日の強行日程で第一段階の契約までこぎ着けた。不要な木材を活用したバイオマス発電にも乗り出し、「環境先進国で見聞きしたことを日本でも実現させたい」という思いで、環境関連事業を拡大している。
「ひるがのミニエコタウン」は、エネルギー自活の実証の場であると同時に、自社のショールームの役割も果たす。篠田氏は「社員に一番に体感してもらいたい」という。
「環境関連事業の売り上げはまだ少なく、土木建設業に携わる社員たちが会社を支えてくれています。その人たちが家族と一緒にここに来て、自然と共生する暮らしを体感し、『こういう生活もあるかな』と思ってくれたらと考えています」
篠田氏が大切にしているのは、全社員が一体となり、一つの方向に向かっていける環境作り。直接顔を合わせて話をすることを重視し、今も自ら現場に赴く。30年以上土木建設の仕事をしてきた中で一番楽しかった思い出は、社員と一緒に徹夜で他県のガードレールを設置したこと。最もつらかったのは、事故で社員を亡くしたことだと即答する。
「ひるがのミニエコタウン」が成功した暁に、どんな景色が見たいかと尋ねると、篠田氏はふっと視線を外し、眼差しを遠くに向けて、こう答えた。
「過疎地のあのエリアに、関連する仕事をする若い人が住み着いて、生き生きとした町に育て上げられたらと思います。できれば日本中で、そういう景色を見られるようにしたいですね」