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株式会社エディアンド 代表取締役

副田義樹

https://www.ediand.co.jp/
Yoshiki Soeda

1979年生まれ、東京都出身。大学在学中から医療システムの開発としてキャリアを開始し、医用画像システムの企画や販売に携わり、放射線科デジタル化の黎明期に貢献。その後、新製品の企画責任者や販売戦略立案を担当した後、2018年度にエルピクセル株式会社へ移籍。同社ではAIを活用した疾患検出医療システムの企画、販売に従事。
2019年10月に株式会社エディアンドを設立。AI技術を用いたプロダクト開発やデータベース構築に取り組んでいる。

AI技術で支える大学の医療教育

大学で教員不足や長時間労働や問題になっているが、特に医療系の大学では、研究、臨床、教育という三つの役割を担う教員の負担が重いのが現状だ。そんな中、株式会社エディアンドは、医療分野における教育を、AI(人工知能)などのテクノロジーを活用して、現場の負担を減らし、研究や臨床といった本来の業務に医師が注力できる環境をつくるシステム開発に取り組んでいる。「医療全体、そして患者にとってもメリットになると確信した」という代表の副田義樹氏に思いを聞いた。

文部科学省の「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」によると、大学教員の職務時間のうち、研究にあてる時間の割合は2002年度には46・5%だったが、年々減少して、2018年度は32・9%と3分の2まで落ち込んだ。その分教育活動に充てる時間が増加していることが文部科学省の調査で判明した。特に医療などの保健分野では、診療活動などの社会サービス活動の割合が増加し、研究活動の時間は46・0%から29・8%に減少している。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大によるリモート授業の対応などで、教員の負担は増加しており、特に医療系の学部を持つ大学教員は、教育と研究、診療の三つの業務をこなさなければならず、事態は深刻だ。

副田代表は「大学の教育業務には、試験問題の作成も含まれます。難易度にも配慮しながら、あらゆる分野を網羅した問題を作るとなると、時には一から文献に当たり、日々更新される医療情報と照らし合わせなければなりません。問題作成は業務時間外に行うことが多く、何十時間も費やされることもあります。それが大切な仕事だと認識しつつも負担は重く、本来果たすべき責務である臨床と研究にしわ寄せが行っているのも事実です」と指摘する。
そこで同社が神奈川歯科大学と業務提携し、開発したのが歯科医師の作問業務をサポートするウェブアプリ「EQIO(エクイオ)」だ。「『EQIO』ではIoT技術やAI(人工知能)技術を活用し、国家試験出題基準の対応はもちろん、各教科に含まれるキーワードなどを指定することで、意図した範囲の問題を自在に生成することができます。作問領域が教員の関心分野に集中してしまう可能性を排除して、出題問題の均一化を実現。これまで出題されたことのないオリジナル問題を作成します」という。

副田代表は大学在学中から医療系のソフトウェア会社で働き始め、開発から営業、企画と仕事の幅を広げながら、医療システムに関わってきた。特に放射線の領域に長年携わり、画像診断がアナログからデジタルが主流になっていく過渡期も経験した。医療系の大学教員らと交流する中で、医師の方々の置かれている状況と悩みを共有してきた。

副田氏は「臨床をやりたい、研究をやりたい、と志して医師になったのに、大学では人材教育という職責が加わり、その負担が本来の責務を全うするのに困難になるほど大きくなっている。そのため、テクノロジーを用いてより良い教育環境を作れないか、と相談されたのが、この事業を興すきっかけでした」と振り返る。
業務の中でも特に大学教員の負担となっている問題作成について、「この負担を医師から取り除いてあげられるだけで、医療レベルが一段上がるかもしれない。人力に代わってそれを行うシステムがあれば、数億円かかっても高いとは思わない、むしろ安い」と言われたという。副田代表は、問題作成が教員の負担になっている現実を知り、それが軽減されれば、臨床研究にエネルギーが注がれ、医療全体、そして患者にとってもメリットになると確信、2019年に起業した。

さらに2023年5月、歯科医師国家受験合格を目指す学生向けの自習支援用システム「DentiStudy」をリリースした。「AIを活用したアダプティブラーニングにより、『もっとこのジャンルは勉強した方がいい』『ここを間違えるのであれば、ここが分かっていないのではないか』といったところをシステム側で判断して、学習者に合わせて問題の出題傾向を変えていくことが可能です。個々の理解度や達成度などの進捗状況に適した学習メニューを作り、効率的な学習環境を提供することができます」と説明する。

副田代表は「DentiStudy」の活用を広げ、蓄積した学生の学習動向をデータベースにしたいという。「例えばカリキュラムの中でこの分野においては理解度が低い、高いといったことを定量的に判断できるようにデータベース化すれば、大学教育カリキュラムに生かすことができる。歯科医師の卵に効率的な学習を提供し、かつその教育を考える人たちに適正なデータを提供することで、教育自体のレベルが上がり、歯科医師のレベルも当然上がるので、患者にとってもより良い医療を受けられる。社会的にも意味があると確信しています」と胸を張る。
さらに、「同じ医療であればアルゴリズムを横展開できる可能性が見えてきていますので、他の医療領域に対してアプローチをしていきたい。臨床研究と教育の基盤を効率化し、下支えしていけば、医療全体の底上げにつながる」といい、歯科医療から医療全体にまで事業を広げようとしている。

「AIを扱う仕事というと皆さんイメージで何か最先端でカッコいいことをやっていると思う方が多いようですが、実際は、情報を因数分解してデータに落とし込み、それをラベリングしていくという作業を穴倉に籠ってするような、本当にとてつもなく地味な仕事です」と自嘲しながら、「AIのいわゆる黒子的な難しさであり、そんな地味な作業を続けてこそ初めて成果が出る仕事だと思います」と語る。副田代表を含め、表には出ない地道な作業を続けている人々の忍耐によって、一般市民にまで恩恵が及ぶ、社会的に意義ある成果に繋げていくことができるのだろう。