1976年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、株式会社テレビマンユニオン、株式会社ベンチャー・リンク、ソフトバンク株式会社を経て独立。コンサル業や代理店業を経て、2006年沖縄で「琉球治療院」開業、1年半で県内最大手に。5年で全国200店舗のフランチャイズ展開に成功。
社会性の追求で高齢化に挑む
急速な高齢化が進む中、必要不可欠になるのが、高齢者や身体障がい者の自宅や施設を訪問し、リハビリ・機能訓練・鍼・おきゅう・マッサージをする「訪問治療」だ。開業以来、最高売り上げを更新し続け、2023年末時点で全国約200店舗までフランチャイズ展開を成功させている「からだ元気治療院」。徹底的に社会性を追求しているという、代表取締役の林秀一氏が見据える未来とは。
同社の急速なフランチャイズ展開と事業成長を支えているのは、教育制度と技術支援システムだ。フランチャイズ加盟すると、素人を即戦力にする業界随一の研修を開業前に受けられる。林氏は「私が開業当時に固めた基礎、長年積み上げてきたノウハウを全てマニュアル化しています。職種によりますが、研修は10日間から5週間で修了します」と胸を張る。
開業後も店舗運営に成功しているスーパーバイザーの指導を受けられるだけでなく、同社が独自開発した「からだ元気データベース」を活用しながら、常に最新の施術情報を習得できる。データベースには、全国の加盟店の鍼灸マッサージ師が成果の出た施術を日々投稿した最新のデータが蓄積されており、傷病名を入力して検索すると治療方法が映像で確認できる。「寝たきりだった方が座って食事できるようになったり、トイレに行けるようになったり、要介護4~5だった方が1~2に回復したりすることもあり、家族にも喜ばれています」と成果を語る。
この事業をはじめたルーツの一つは林氏の祖母にある。「困っている人は助けて上げなさい」と話していた祖母は、自身はぜいたくをせず、節約して困っている人のためにお金を使っていたという。林氏は起業後しばらくはうまく行かず、困窮した時期があるが、そのとき、ふと頭をよぎったのは祖母の言葉だったという。
「当時は焦ってお金を稼ぐことしか考えておらず、世のため人のためなんて考えは消えていました。これはおかしい、一旦リセットしなきゃと我に返りました」と振り返る。偶然舞い込んだ治療院のコンサル案件でこの業界のことを調べ、経営者が国家資格を持っていなくても、社会的弱者の究極である高齢者と身体障がい者を救済できることを知った。患者は健康保険を使えるし、患者が回復すれば国の社会保障費の削減にもつながる。まさに「三方よし」の事業だった。
こうして沖縄のアパートで開業。365日仕事に集中し、約1年半で県内最大手に上り詰めた。「単に儲けたいという人ではなく、世の中に貢献することで精神的な幸福感や満足感を得つつ、その上で収益を求めたい経営者にフランチャイズ加盟してほしい」林氏は、どん底を経験したからこそ原点回帰し、天職といえる仕事に出会った。
2006年の開業以来、今年で18年目。新型コロナウイルス禍で倒産した治療院が多い中、同社は鍼灸マッサージの免疫力アップ効果を打ち出すことで勝ち残ってきた。今後は世界2万カ所以上への店舗展開や、居宅介護支援事業所・老人ホーム・世界三大東洋医療を体験できる「メディカルハーブカフェ」のフランチャイズ展開も控えている。カフェではその人に最適な漢方茶・和漢茶や薬膳料理の飲食のほか、アーユルベーダや美容鍼もできる。
からだ元気治療院は、病院と同じく健康保険を使えるのが特長。患者の状態により、0円から500円で治療を受けることができる。「加盟店には、からだ元気治療院事業だけでなく、居宅介護支援事業所・老人ホーム・介護サービス・メディカルハーブカフェ・クリニックなどの事業を複合施設として運営してもらい、社会的弱者のよりどころとして地域に根付いて欲しい」と語る。保険制度の改良にも尽力し、関係省庁に意見書を出すこともある。
「訪問治療業界は国の制度に左右されやすいし、鍼灸マッサージ業界は医師会や看護師会に比べて軽視されやすい。しかし、実際はWHO(世界保健機関)も効果・効能を認めており、世界中の医学部の必修科目に鍼灸マッサージが入っているほどです。日本の誇るべき鍼灸マッサージを発展させることこそ正解なのです」と力を込める。
林氏が目指しているのは伝統療法で「医療の第三極」をつくること。薬や医療機器は膨大な研究開発費がかかるので、日本のような健康保険制度がない国では、高額すぎて薬の処方や手術が受けられない。一方、伝統療法は基本的な材料は薬草などの自然素材、手技を用いるので高額な道具も不要だ。それぞれ地域に長年根付いてきた歴史とエビデンスもあり、各国の相場の人件費と素材で提供できるのだ。「効果・効能を認められている世界中の伝統療法を集約して、世界中に展開していきたい」と意欲を燃やす。
人生の最終目標は、孤児院を運営することだ。世界中の孤児を集めてきて、日本人として育てたいと考えている。出張や旅行で海外に行く際は、孤児院を視察したり、物品支援をしたりしている。「日本は世界的にも教育水準が高く、治安もいい。孤児を救済できるだけでなく、日本の少子高齢化対策にもなります」と語る。「困っている人は助けてあげなさい」。林氏は祖母の言葉を体現し続ける。