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ICJ合同会社 代表社員

星野 寛登

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Hoshino Hiroto

1996年生まれ、福岡県出身。高校卒業後、福岡と熊本にて飲食店を開業。翌年、東京歌舞伎町に飲食店、渋谷にサロンを開業。その後、店舗を全て売却し、2021年5月に人材会社ICJ合同会社を設立。2023年9月、ジムや美容サロンなどの店舗運営やM&A、経営コンサルティングをメイン事業としたTHE株式会社を設立。

「意味のない転職を減らしたい」教育とシステム化で本質的支援を

テレビCMや電車の車内掲示など、転職エージェントの広告を見ない日はないほど盛り上がりを見せている転職市場。20~30代の転職支援や人材事業に特化した事業立ち上げ支援をしているICJ合同会社の星野寛登代表は「転職支援業界は問題がとても多い」と指摘する。業界に一石を投じる若きリーダーが見つめる、現状と未来とは。

2021年の厚生労働省「職業紹介事業報告書」によると、民間の職業紹介事業所数は約3万カ所、新規求職の申込件数は約2万件と、人材紹介事業所も求職者も増加の一途をたどっている。だが、星野氏は「問題は、転職志望者、転職エージェント、両方にあります」と語る。若者の転職理由の多くは「ここではないどこかに行きたい」というものだが、スキルを身に付けない限り現状より良い条件の会社に入ることは難しいという事実を認識している人は少ないという。 

一方、転職エージェントは企業から成功報酬をもらうことで収益を得るビジネスモデルなので、星野氏は「少しでも早く、一人でも多く転職させる必要があり、面談時に話を盛ったり、誇張した求人情報を掲載したりしていることもあるという。また大手求人サイトには一定の条件で誰でも求人情報を書き込めるので、『実際は話が違った』ということが頻発している」と指摘する。

このように求人媒体の信憑性に問題がある中、同社が運営する求人媒体「キャリアバンク」は、直接契約している企業の正確な求人情報のほか、過去の面接の可否の理由が閲覧できる。

徹底したユーザー目線で情報を提供していることに、星野代表は「ユーザーからは、『過剰な情報に惑わされることなく安心して面接に注力でき、スムーズに転職ができた』と喜ばれています」と胸を張る。

福岡の高校を卒業後、上京して横浜の大学に入学したものの、真の目的である上京を果たせたことから、わずか半月で中退。牛丼屋でアルバイトをしていたところ、熊本の飲食店に勤める友人から「こっちの商店街や飲食店は賑やかだから、バーでもやったら儲かるんじゃないか」と声をかけられたという。熊本と同時に地元・福岡にも出店したが、固定費や人間関係に苦労して約3年で店を譲ることになる。

そんなとき、人材の仕事をしている友人から、「人材業界が面白い」と勧められ、未経験ながら開業したが、許認可の申請のため、資本金やデータベース利用料、オフィスの賃料などの開業コストが高く、最初の半年は収益もなく、かなり苦労した。「コストをもっと安くできたら」という思いが、現在の事業立ち上げ支援につながっている。また求職者に対して助成金関係のサポートもしているのは、自身がお金に苦労した経験からだ。

星野氏は会社経営を学んだことがないが、業績は順調でまもなく4期目を迎える。「徹底的に成功事例を真似してきただけです。もちろん、ただ真似しているわけではありません。様々な会社の良い部分を、なぜそうしているのか、納得できるまで深掘りして、組み合わせて活用しています」と説明する。 

特に大切にしているのは、転職志望者との面談の質だ。人工知能(AI)が進歩する中で、同社のような中小の人材会社が戦っていくためには、「人にしかできない転職支援をすることが必要」だという。「転職は正論や理屈だけではないこともあるので、ときには非合理的な意思決定に寄り添う必要もあります。そのような寄り添いは、AIにはできない」と力を込める。

人材会社は、履歴書・職務経歴書の添削、企業とのやりとり、進捗管理など、膨大な工数を要するが、同社は面談に注力する時間を確保するため、これらをシステム化している。「一人では成し遂げられない転職ができてこそ、私たちが介在する価値がありますから」と笑顔を見せる。

同社は今後、求職者の教育に注力するという。より良い企業に転職するためのスキルアップと、仕事に対する精神面の教育だ。事務職ならエクセルやパワーポイントなど、専門職ならその分野の専門技術など、転職後に即戦力となりえる実践的なスキルの習得をサポートしていく。

「何より大事なのは、その人にとっての仕事の定義を明確にすること。一定の年収を超えるとそれ以上でも幸福度は変わらないと言われているように、幸福度はお金だけでなく、職場の人間関係ややりがい、貢献度などさまざまな要素によって決まります。どこに重きを置くかは人それぞれですが、まずは自分の中の仕事の定義を知ることが大事」自社オリジナルのシートを使いながら、そのための面談もしている。こうして転職志望者の意識を変えることで、納得感のある転職を叶え、意味のない転職を繰り返すことを防げると考えている。

将来的には、人材紹介会社を教育する教育会社にシフトする予定だ。「私は団地育ちのせいか、若い頃は稼げる仕事なら何でもいいと思っていました。でも今は、純粋に楽しくてこの仕事をしています。『こんなものがあったらもっと良くなる』そう考えるとワクワクします」と目を輝かせた。