1972年生まれ、神奈川県出身。2004年入社。商品企画開発部長時に『WebARGUS(ウェブアルゴス)』を立ち上げる。エンベデッドソリューションカンパニー社長時に、戦略的に車載関連開発をメインにシフト。経営企画部長・事業本部長などを歴任後、2018年7月代表取締役社長に就任。
スピーディな意志決定で、時代と共に変化し続ける
新型コロナウイルス禍の影響でDX化(デジタルトランスフォーメーション)が急激に進む中、ソフトウェア開発とシステム販売で急成長しているデジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社。「強みは変化対応力」と語る市川聡代表取締役社長に、成長の要因を聞いた。
同社のメイン業務は「ソフトウェア開発事業」と「システム販売事業」だ。「ソフトウェア開発事業」は、業務システム開発・運用サポートを行うビジネスソリューション事業、スマートフォンや家電、車載などへの組込みシステム開発・検証を行うエンベデッドソリューション事業、セキュリティーや業務効率化をサポートする自社製品の開発・販売を行う自社商品事業で構成されている。
「システム販売事業」では、中小企業向けシステム商品の販売を行っている。 近年は、ICT(情報通信技術)端末の機能を有する自動車「コネクテッドカー」や、自動運転への研究開発投資が拡大している影響で、エンベデッドソリューション事業では車載・半導体関連の開発案件が拡大している。IT業界は一つの領域に特化した開発を行う企業が多いが、同社はウイングを広げながら複数の分野を組織化し、分野ごとに独立採算制とする社内カンパニー制をとっていることも功を奏しているという。
同社の強みを、市川氏は「変化対応力」という。元々は携帯電話のソフトウェア開発を基盤事業としていたが、スマートフォンの台頭と共に日本メーカーから仕事が減少し始めたため、いち早く車載系の商品にシフトした歴史がある。社内カンパニー制は、社内を小さい組織に分けることでスムーズなコミュニケーションとスピーディーな意志決定につながり、同社の圧倒的な改革力と収益性を後押ししているという。「世の中は常に変化しているので、技術はすぐに廃れるし、トレンドもすぐに変わる。それを瞬時にキャッチアップして対応していかないとあっという間に取り残されてしまう」と明かす。
市川氏は、エンジニアから新商品や改善の提案があった際、即座にその8~9割にGOの判断を下し、その後試作品をまず製作し、実際に使用してもらいながら製品化の可否を検討している。「エンジニアが自らの技術を世の中の課題に適用する提案は、通常のマーケット調査や開発プロセスよりも、市場の実際のニーズにより適しています」とエンジニアへの信頼を語る。
エンジニアの提案で開発した自社商品の一つ「WebARGUS」は、サイバー攻撃から重要なシステムを守るためのセキュリティー製品だ。世界には10万以上ものセキュリティソリューションがあるが、改ざん攻撃を100%防げる防御製品は存在しない。そこで同社は「そもそも攻撃は防ぎきれない」という前提に立ち、防御が突破されてウェブサイトが改ざんされても、攻撃発生から0.1秒未満でサイトを元の状態に復旧し、実質的被害をゼロに抑える製品を開発した。
また、近年の在宅勤務増加で、各種契約書の電子化ニーズが高まったことから、電子契約サービス「DD-CONNECT(ディ・ディ・コネクト)」も商品化した。これは単に契約書に電子署名するだけではなく、基幹システムと連携している便宜性があり、トレンド商品になっている。
「今後も時代に合わせてアップデートしながら、各企業の困りごとを的確に解決する商品を提供していきたい」といい、30年には現在の2.5倍超の成長を目指して、シナジー効果のある会社のM&Aにも注力している。
元々鍼灸師だった市川氏は、創業者である父の勧めで社内鍼灸師として入社した。その後、ホールディングス化に伴い事業に参画したが、「パソコンも使えない、開発もできない。社員たちからは『何しに来たんだ』と反発されました」と振り返る。人間関係の構築には苦労したが、父親が心血を注いだ会社を良くしたいという思いがモチベーションになったという。
一から十まで指示していた父とは対照的に、市川氏は社員の意見を引き出しながら方向性を決めている。コミュニケーションを重視するのは、鍼灸師時代の経験からだ。「鍼灸は、患者さんから善し悪しを教えてもらいながら一緒に効果を出していきます。それは会社も同じで、皆で意見を交わしながら効果を出していけばいい。経営層が一方的に指示しても、うまくいかない」と語る。
13年には愛媛県松山市、23年には北海道函館市に拠点を開設した。松山事務所は地元人材で60人超の規模に成長しており、函館でも地域雇用の促進と地域経済への貢献を目指している。「地元の人の『この土地で働きたい』という願いをかなえていきます」と力を込める。