1975年生まれ。学習院大学卒業後、民間気象事業会社、クリエイティブ事業会社にてセールス・企画業務などに従事。大病や親の離婚、いじめなどの苦難に独自の思考法で向き合い、産後はピラティスインストラクターに。2015年からカウンセリング専門に、2019年からINSIDE主宰。
過去と共存しながら、自ら人生を切り開く
新型コロナウイルス禍や多発する災害の影響などで、心のケアへの需要が急激に高まっている。カウンセラーとしてINSIDEを主宰する石橋典子氏は、多くの悩みを解決に導いてきた。自身の数奇な運命による過酷な体験や、トラウマを解消してきた経験、HSP(Highly Sensitive Person=人一倍繊細な気質を持つ人)であることを生かし、クライアントの本心と向き合うカウンセリングセッションを行ってきた。
「確かに年々相談件数は増えていますが、今も昔も悩んでいる人は減っていないと思います。そもそも、欧米ではカウンセリングに行くことが日常的なのに、日本はそのハードルが高く、これまでは病気になるまで我慢してしまう人が多かった。相談件数が増えているのは、そのハードルがやっと下がってきているからでしょう」と、石橋氏は分析する。 石橋氏のカウンセリングセッションは、生きることに関わるすべてのテーマが対象で、相談内容は、健康やビジネス、パートナーシップ、子育て、介護、人間関係、ストレスマネジメント、トラウマ改善、自己肯定感など多岐にわたる。2022年には「エネルギー・バンパイア~エネルギーを吸い取り、あなたを困らせる人から身を守る方法~」を出版したり、メディアに出演したりするなど、メンタルヘルスの重要性を広く伝えている。
実業家の家系に生まれ、幼少期には親の2度の離婚やいじめなどを経験。23歳のときには肺結核を患い、半年間の治療を余儀なくされた。健康の大切さを痛感したことから、産後はピラティスのインストラクターとして活動するも、38歳のときに離婚。過酷な運命を与えられてきた。過去のトラウマの緩和に功を奏したのは、40歳のときに出会った潜在意識にアクセスする手法で心を癒す「ヒプノシス」だった。NGH(米国催眠士協会)認定ヒプノティストの資格を取得し、ピラティスのクライアントからの要望で、その後はカウンセリングのセッションに移行した。
「人生がこんな感じだったので、どんな話を聞いてもびっくりしないし、気持ちも分かります。でも、人って共感されすぎると動けなくなってしまうので、セッション中は共感しすぎないように気を付けています。共感する代わりに、今日からできる小さな一歩や、物理的にできるアイデアを話しています」という。相談に来る人は健康状態が悪いことが多く、食事や体についてアドバイスすることもある。
石橋氏は「一般的にカウンセリングは1回では終わらないことが多いですが、私は1回、そうでなくてもなるべく短期間で解決するように努めています。ただ話を聞いてほしい人は何回でもいいですが、大抵の人にとっては、何度も予約するのも時間とお金が減っていくのも負担ですから」と語る。
石橋氏のモットーは「常に良い状態で仕事に取り組めるように、心身のメンテナンスを怠らないこと、仕事を引き受け過ぎないこと、今の自分にできる現実的なチャレンジをすること」だ。「若い頃はご飯を食べる時間もないくらい働いた時期もありましたが、仕事を抱えすぎると一つ一つが雑になることを痛感しました。もういい年齢だし、大人の余裕と余白を持って生きていきたい」と述懐する。
子育てがひと段落したタイミングで、子育ての悩みがテーマの本の執筆に専念するため、この春で全セッションを終了する決断をした。今後はメッセージで相談を募り、SNSや音声、動画で回答を配信する。相談者からセッション費用を受け取らずに済み、より多くの相談に答えられるという。
「決断ってすごく大事ですね。これからは自分の時間も大切にしながら、やりたいことだけ選んで、カウンセリングをライフワークにしていきたいと思っています。30年という長い年月を過ごした渋谷区に、私にできる形で恩返しもしていきたい。私の生き方を、女性の生き方のサンプルの一つとして参考にしてもらえたらうれしいです」。
石橋氏は過去をポジティブに乗り越えてきたようだが、「『ポジティブに乗り越えよう』とは思っていないし、今でも乗り越えてはいません。嫌な事実はどうやっても消えませんから、私にとって過去の出来事は、『履歴』や『年輪』という表現が合っているかもしれません。乗り越えたり消したりするのではなく、共存している感覚です」と語る。
常に未体験のことに挑戦して自身をアップデートしてきた石橋氏は、著書のオーディオブックのナレーションを担当した。「成長していくのが人生。過去はつらいことばかりだったけれど、今はいい状態なので、いい体験を重ねていくことに時間を使っていきたい。固定観念にとらわれたり、物事をガチガチに決め過ぎたりする人が多いけれど、もっと自由に、フレキシブルにやってみてもいいのではないでしょうか」としなやかな生き方を提案している。