1963年生まれ。京都外国語大学(英語専攻)、青山学院大学 大学院 国際政治経済学研究科(国際経済学修士)を卒業。グロービス経営大学院(MBA)、順天堂大学 医学研究科(医学博士)。東京弁護士会所属。2005年、国内初となる専門事業部制を導入した弁護士法人ALG&Associatesを設立。国内外に12事務所を構え、弁護士106名、スタッフ220名(内1名司法書士)を擁する。(2024年1月4日現在
専門事業部制で、依頼者に感動してもらえる弁護士法人に
国内外に拠点を構え、多くの弁護士を擁する弁護士法人ALG&Associates。代表執行役員の金﨑浩之氏が設立時に目指したのは、専門科に分かれてプロフェッショナルが対応できる総合病院のような弁護士事務所だった。設立の原点にあるのは「弁護士は法律の専門家と言われるが、その専門性とは何を指すのか。実は専門性の薄い仕事なのではないか」という疑問だったという。弁護士が専門性を高めることを是と考える理由と、今後の展望について話を聞いた。
弁護士法人ALG&Associatesは現在、本部の他に、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、バンコクと12の弁護士事務所を構えている。個人客、法人客双方の相談に応じている総合弁護士事務所で、「企業法務事業部、民事・刑事事業部、医療事業部、交通事故事業部を設置し、それぞれの専門知識を有する弁護士がリーガルサービスを提供する専門事業部制を導入しているのが特徴です」という。
各地域にある事務所では、その地域に住む個人客からの依頼に対応。各地域の中心となる都市にある事務所では、地元企業に対するリーガルサービスにも積極的に取り組んでいる。専門性や地域を分散させることで、広いエリア、ジャンルに対して専門性の高いリーガルサービスを提供できることが同法人の強みだ。また、経営面から考えると、地域・ジャンルを広げることは、リスク分散にもなっているのだという。
金﨑氏が弁護士業界に足を踏み入れた時代は、資格取得後、一定期間を事務所に所属し、独立するのが一般的な道のりだった。独立後は、生き残るためにも幅広くリーガルサービスに応えることが基本となるが、その「当たり前」に対し、金﨑氏はもやもやした気持ちを抱えていたと振り返る。
「弁護士は法律の専門家と言われます。ただ、法律といっても幅広いため、その専門性は実は薄いのではないかと感じていました。知人やお客様に『ご専門は?』と聞かれた際、困った経験をしたことのある弁護士は私だけではないでしょう。それでひとまず、案件数の多さ、頻度から『民事です』と答えてみるわけですが、これも結局きちんとした答えではないわけです。弁護士は専門性が遅れている分野だと思っていました」
しかし、専門性を高めることは、経営面においてリスクを高めることになる。そこで金﨑氏が思いついたのが、総合病院型の弁護士事務所だった。「総合病院では、循環器科や呼吸器内科など専門性が確立され、プロフェッショナルの医師が担当しています。それと同じように、組織を拡大して部署を分けることで、専門性を高められるのではと考えました」と語る。
専門性を追求した専門部署を設けるという金﨑氏の考えを実現できた背景には、弁護士事務所が広告を出せるようになったことも関係している。今ではインターネットで誰でも検索できるようになったため、強みとして打ち出せる知見を身に付けることは、独立後を考えてもメリットになる。だが、専門分野を決めることに懸念を示す弁護士もいるという。選択肢を絞ることが、将来のキャリアの可能性を狭めることにつながるのではという心配があるというのだ。
ただ、専門性の高い医療のようなジャンルは、特化した人のほうが圧倒的に成長スピードが速いという。「医療分野では、特化後に2、3年で周りから抜きんでた若手弁護士を見てきました。10年もやれば、片手間に対応している弁護士とは月とすっぽんのレベルです。独立後も『医療ならこの人に頼みたい』という存在になっていれば、何でも屋にならずとも安泰でしょう。専門性を強化した方がいいという価値観が業界に浸透すれば、業界の底上げにもつながると思います。今後もこの路線で進みつつ、海外展開にも力を入れていきます」と前を見据える。
地域で事務所を構える弁護士は、町医者になぞらえて「町弁」と言われてきた。しかし、金﨑氏は「両者の負う責任は大きく異なる」と語る。町医者は、患者が重病であれば大病院と役割分担ができるが、弁護士は「町弁」だからといって扱う問題の重大さが低くなることはないからだ。「まずはいろいろやりたいという新人の気持ちは分かるので、初期研修期間がある医師と同じく、まずは見て、その後は専門性を高める方向にシフトしてほしい」という。
企業が「顧客満足」を目指すことを指し、「顧客感動」を目指す金﨑氏。「弁護士は先生と呼ばれる職種です。治療費を払う側である患者は、医師に『ありがとうございます』と感謝します。それと同じく、費用を払ったクライアントからお礼を言われるのが弁護士であり、そこが利潤追求だけではない公益性のある仕事の特徴だと思います。先生と呼ばれるのを遠慮しようという動きもありますが、私はそうではなく、弁護士は先生と呼ばれるにふさわしい仕事をすべきであり、依頼者に感動してもらえる仕事をしたいと思っています」と思いを語る。