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医療法人ONE きくち総合診療クリニック 理事長

菊池 大和

https://kikuchi-geclinic.jp/
Kikuchi Ymato

1978年東京都生まれ、静岡市育ち。福島県立医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院、国立がんセンター東病院などを経て、湘南東部総合病院 外科科長・救急センター長。座間総合病院 総合診療科を経験後、2017年開院。2019年医療法人ONE設立。

地域医療を守る「真のかかりつけ医」を全国に

神奈川県綾瀬市の「医療法人ONE きくち総合診療クリニック」は、「総合診療」をうたう地域の人々のよりどころとして、同市の人口約8万4000人のうち、4割に当たる約3万5000人が受診・通院している。外科・救急で15年の実績を積んだのち開業した菊池大和理事長が目指す「真のかかりつけ医」とは……。

「よく『先生は何科なのですか?』と聞かれますが、地域住人の『総合診療かかりつけ医』として、いつでも、なんでも、だれでもまず診る。これがうちのクリニックの使命です。本当は『きくちなんでもクリニック』と名付けたかったけれど、それは格好悪いですからね」と笑う。

そもそも「総合診療」とは、どんな症状でもまず診察するスタイルで、総合病院や大学病院でも総合診療科が設置され始めているが、その実態は菊池氏が考える総合診療とは異なるという。総合診療科は実質「内科」で、内科の範囲内で診療するが、菊池氏は、内科だけでなく、小児科・心療内科・整形外科など心身を総合的に診ることこそ総合診療と考えている。同クリニックでは、内科・外科・救急科・小児科など12科目を診療科目として掲げているが、それは厚生労働省が掲示を定めているからに過ぎない。「科目はいらないんですよ。昔の町医者はなんでも診ていた、うちもそれと同じです」と話す。

菊池氏が医師になったきっかけは、小学生の頃に読んだシュバイツアーの伝記だ。アフリカの貧しい人々のために音楽家から医師に転向し、地域医療に尽力した生き方に感銘を受けた。「勤務医時代、外科や救急に来る患者さんを診る中で『もっと早く受診してくれたら』と思うことがよくありました。手術にやりがいはありましたが、予防・早期発見・早期治療に寄与したいと考えるようになったんです」と振り返る。

診療科目を問わずまずなんでも診る救急医として、38歳のとき独立を決意。シュバイツアーの背中を追いかけて、綾瀬市を開業の地に選んだ。現在全市民の4割が菊池氏のクリニックに通っている。市内のクリニックは年配の医師が多く、今ではその先生たちから頼られることもあるという。

土日、祝日も診療し、午後8時までの夜間診療やオンライン診療も可能で、駅から無料送迎バスも運行している。開業から7年、圧倒的な行動力で、誰一人取りこぼさない体制をスピーディーに確立してきた。

「うちはショッピングモールの一画にあるので、日曜日はスーパーの袋を持って家族で立ち寄る人もいます。けがや急病で駆け込む患者も多く、感謝されると、医者冥利に尽きます」と語る。CTとMRIも完備し、病気を早期発見して然るべき病院へ送るので、患者がたらい回しにされることなく、スムーズに治療を始められるという。「今の日本は、病院とクリニックの住み分けができていない。クリニックは気軽に訪れて病気を見つける場所、病院はその先で専門的に治療をする場所。これが本来の姿です」と力を込める。

現在も一日当たり300~400人という、クリニックとしては異例の外来患者数を誇っているが、今後は一日約500人の受け入れを目指し、クリニック面積の大幅な拡張工事と求人活動を進めている。患者の生涯をトータルでサポートするために、訪問診療や訪問看護のサービス展開も計画中だ。

「医師が病気を治すのは当然で、いかに患者の心や生活に寄り添えるか。年上の患者から学ぶこともたくさんあります。これからも、この天職を全うしていきたい」と目を輝かせる。

国もかかりつけ医を持つことを進めている。そもそも、かかりつけ医とは、心身のことをなんでも相談できて、必要な時は専門の医師・医療機関を紹介してくれる医師のことで、まさに菊池氏のような総合診療かかりつけ医のことだ。「日本には膨大な数のクリニックがあるけれど、名ばかりのかかりつけ医が多いのが実情」と話す。

総合診療かかりつけ医の育成には、有効な教育プログラムを作り、国が総合診療クリニックの開業をバックアップする必要があるという。菊池氏も本を出版して全国の医学部教育学長や厚生労働大臣に送ったり、同志のネットワークをつくるべく同業者にコンタクトを取ったりするなど、積極的に啓蒙活動を行っている。

「総合診療クリニックが全国に広がれば、日本の地域医療が守られると確信しています。そのために、若い医師にどんどん開業してもらいたい。力を合わせられる人や企業を探しているので、全国ネットでCMを流して、総合診療クリニックの必要性を国民に知ってもらいたい」と力を込める。