29
株式会社McUnicorn CEO

木下 皇一

https://www.mcunicorn.com/
Kinoshita Koichi

大学卒業後、2003年株式会社デンソーに入社。原価計算・事業計画・原価企画の業務に従事。2015年にアクセンチュア株式会社に転職。2017年に株式会社ベイカレント・コンサルティングに転職。2022年に株式会社McUnicornを設立し、代表取締役に就任

理性と感性の調和で、顧客が抱える課題を解決

顧客の課題を明確にし、解決策を提案するコンサルティングは、自身が成長できることや給与の高さを理由に、東大生が入りたい企業の上位にランクインしている。株式会社McUnicornの木下皇一代表取締役は、コンサルタントの真髄は「自分の知識を人のために使えること」といい、「顧客のためになるのであれば、既存の手法にとらわれず、どのような努力も惜しまない」と語る。

木下氏は、大手コンサルティングファームにいた時、提案を受け入れた顧客がそれを実行に移すことができず、顧客の事業に成果が表れないということがあった。紙の分厚い最終報告資料が企業内での共有の妨げとなり、提案を実行に移せない原因の一つになっていると考え、最終報告書を動画で作成した。すると、顧客企業内での理解が高まり、大きな反響を得た。「コンサルタントは物事を論理的に考え、理論を唱える傾向があります。しかし、それだけでは顧客に伝わらないこともある。アート的な手法を取り入れることの大切さをその時に痛感しました」と振り返る。

日本の経済に目を向けると、株価は上がっているが、労働者の年収の中央値は下がり、経済の見通しは決して明るくない。コンサルタントがどれだけ理論を説いたとしても、必ずしも日本全体が良くなるわけではないと痛感した。そこで、コンサルティング事業に何か構造的な問題があると考え、さまざまな企業の成功事例を検証した結果、成功している企業は理論だけでなく、感性にも重きを置いていることに気づいたという。

コンサルティングという理性と、クリエイティブという感性の調和の必要性を感じた木下氏は、それを実現するためにMcUnicornを設立。コンサルティング事業部で論理的な戦略を提案するだけでなく、スチール撮影や映像などをクリエイティブ事業部で制作し、一気通貫で顧客の支援をすることを可能にした。「顧客に必要なものは、手法にとらわれずに提案することを主軸に置いている」と語る。

同社が強みの一つとしているのが、高精細VR技術によって遠隔での見学を可能にしたサービスだ。新型コロナウイルス禍を通じて、メタバースのようなVR空間が注目を集めたが、現状ではエンターテインメントの域を超えていない。しかし、VR空間はインフラストラクチャーへ変質を遂げていくと予想し、建築業界に通じた川崎容美取締役が工場や倉庫などの広い空間を撮影する「ATACAMO」、マンションの1室や店舗などの小さな空間を撮影する「KAIMAMI」を立案した。このサービスは「映像が鮮明で、空間の再現度が高い」と評判を呼んでいる。

木下氏は、同社の提供するVRを使用したサービスは、日本社会にも貢献できると考える。インバウンド需要が高まっていることからも分かるように、日本には魅力が詰まったたくさんの地域が存在している。その魅力を発信するために、コンサルティングと併せて、VRを使用したサービスを提供し、地域の活性化を目指している。

経済的な効果を得るためにVRを使用したサービスを使うことはもちろん、日本人の心に寄り添ったサービスも想定している。地震大国の日本では、慣れ親しんだ故郷の風景が失われ、その土地に住めなくなった住民が別の地域に移住せざるを得なくなり、アイデンティティーや文化の喪失につながることもある。そこで、定期的に地域の様子を撮影し、デジタルで残しておけば、故郷を失った人々に少しは寄り添えるだろうと考え、木下氏は「視覚や聴覚だけではなく、嗅覚や触覚も含めた感性に訴えることができるコンテンツを作っていきたい」とビジョンを語る。

「コンサルティングというと先進的に聞こえるかもしれませんが、当社は意外と古風です」と笑う木下氏は社会人としての原体験から、「智と信を深め、義と礼を持って、仁を勤しみ、革新を実現する」という社是を掲げている。

大学卒業後に入社した大手製造業で、経営層が「関わるすべての人に幸福になってほしい」と真剣な表情で語るのを見て以来、その価値観を自身の根本に据え、まい進し続けてきた。「能力や経験は、あの世に持っていくことはできません。それであれば、生きているうちにそれらを活用し、社会に貢献するべきでしょう」と語る。コンサルティングは、まさにそれを実現できる手段であり、誇りを持って事業に取り組んでいると強調する。

また木下氏は、社会や顧客のことばかりではなく、スタートアップである同社に志を持って参画してくれた社員への感謝を口にし、社員に対して育成と雇用の維持を誓う。「仮に私がいなくなっても、社員が身に付けた能力で事業を継続し、それを社会に還元するという循環が生まれることを意識しています」と力を込めた。