04
弁護士ドットコム株式会社 代表取締役社長

元榮 太一郎

https://www.bengo4.com/corporate/
Motoe Taichiro

1975年米国イリノイ州生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、旧司法試験に合格し、2001年アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所。2005年に独立し、Authense法律事務所と弁護士ドットコム株式会社を創業。2014年に弁護士として初めての株式上場を果たす。2016年参議院議員選挙当選。財務大臣政務官、参議院文教科学委員長を歴任。2022年任期満了をもって退任し、弁護士ドットコム株式会社代表取締役社長に復帰。

専門性×AI テクノロジーでユーザーに寄り添ったサポートを提供

法律が絡むトラブルが発生した時、頼りになるのが弁護士の存在だろう。しかし、かかりつけの医師のような弁護士がいるという人は少ないのではないだろうか。そんな相談者にとって一筋の光明となっているのが、法律相談のポータルサイト「弁護士ドットコム」だ。弁護士ドットコム株式会社の元榮太一郎・代表取締役社長は、弁護士や税理士の業務支援サービスや電子契約サービスを提供しているが、法律にまつわる問題解決だけでなく、専門性とAIを組み合わせ、日本社会における課題解決にも貢献したいという強い思いを抱いていた。

「弁護士ドットコム」の原点は、高校生であった元榮氏が卒業後の進路を決めている最中にあった。自分は自由業に向いているという漠然とした思いがあった中、再放送をされていた法廷サスペンスドラマを見て、弁護士への憧れを抱くようになったという。「その時は困っている人の役に立てるし、かっこいいからというくらいの気持ちでした」と振り返る。

だが、大学2年の時、バイト代を貯め、ローンを組んで購入した中古車を運転していた際、乗用車と物損事故を起こしてしまったが、「任意」という表現を真に受けて任意保険に加入していなかったため、修理費用を全額請求されたという。途方に暮れていたが、地域が主催する弁護士相談会で相談したところ、たちまち解決の道筋が立ち、「困っている人の力になれる弁護士という仕事の素晴らしさを実感し、これは絶対になりたいと思いましたね」と弁護士を目指す覚悟が決まった。

旧司法試験に合格し、司法修習を経て大手法律事務所で経験を積んでいたが、弁護士をより身近にしたいという思いから独立し、2005年に弁護士ドットコム株式会社を創業。「困っている人と弁護士がつながる場所」というコンセプトの元、インターネットを利用した弁護士検索、一括見積、インターネット法律相談という3つのサービスの提供を始めた。

今では誰もが知るサービスだが、苦労もあった。当時、弁護士界では、「いちげんさんお断り」という昔ながらの慣習や、インターネットに名前を載せることははしたないという風潮が存在していた。そんな時代はいつまでも続かないと考え、一人でも多くの弁護士に登録をしてもらうために、登録料を無料に設定することでハードルを下げた。

「最初の200人くらいは私が往訪し、時間をかけてみっちり説明をし、登録してもらえるまで帰らないという気概で臨んで、何とか登録してもらいました」と語る。以降、登録が徐々に増え続け、2010年頃にようやく積極的に活用する弁護士が増え始めたという。

サービスが軌道に乗るまでの期間を支えたのは相談者だった。弁護士が遠く、ワラにもすがる思いで登録する相談者からは、多くの感謝の声が寄せられたという。「サポートをした弁護士に対してだけでなく、サイトにもお礼が届きました。相当な感情の高まりがないと、わざわざ送ってこないと思います。この熱量には大変励まされました」と振り返る。その反響の大きさから、社会に必要なサービスであるということを確信した。

十分な売り上げを上げていない創業期に、スタッフを勇気づける大切さを理解していた元榮氏は、ユーザーから届いた感謝のメッセージをシェアすることで、社内のモチベーションを高めたという。これだけ価値のあるサービスであれば、いずれもっと評価される。その思いで、弁護士の登録を無料で運営していた時代を、社員一丸となって乗り切った。

そして2014年、弁護士として初めて、東証マザーズ(当時)に上場。税理士を探せる「税理士ドットコム」や、電子契約サービス「クラウドサイン」などを展開し、オンリーワンの価値を提供する企業へと成長を遂げた。

2016年に参議院議員になり、いったん代表を辞していた元榮氏は2022年に任期満了を迎え、弁護士ドットコムの代表取締役社長に復帰した。その決断をしたのは、「人生100年時代と言われる中、まだまだ先の長い40、50代のうちに、事業家としてクリエイティビティを発揮し、民間の立場からダイレクトに日本の未来に希望を与えられるような企業を創りたい」と考えたためだった。国政に携わった6年は得るものしかなかったといい、日本が抱える各種の国家的な問題と、国として向かうべき方向を深く考えるようになった結果、国家観や公共心が高まり、新しいビジネスのアイデアにもつなぐことができたという。

2023年2月にはChatGPTを活用した法律相談の提供を検討していることを発表。世界に先駆けて新しいテクノロジーを社会実装することで、法律トラブルで困っているユーザーへのサポート強化や弁護士の法律相談における効率化が見込めるだけでなく、DXの加速、人口減少による人手不足の解消にもつなげていくという。

「プロフェッショナルテックカンパニー」を目指すという元榮氏は、リーガルテックでのナンバーワンにとどまらず、専門家の技術やナレッジ、特異性をDX化することで、一人一人が高い生産性を発揮できるようにすることが社会に貢献することになるという。そして、「日本に活力をもたらし、世界に向けて胸を張れるような国にしたい」と未来を描く。