2000年にイケア・スウェーデンに入社し、セールスディベロップメントマネジャーやイケア・ポーランドの副社長、グローバルビジネスエリアマネジャー等を歴任。2021年8月にイケア・ジャパン株式会社代表取締役社長 兼 CSOに就任。
よりよい未来のために最大限の努力を
「より快適な毎日を、より多くの方々に」というビジョンを掲げ、豊かな生活創りに役立つホームファニッシングを販売するイケア・ジャパン株式会社。故郷であるスウェーデン在住時代からイケアに通い、現在はイケア・ジャパンの代表を務めるペトラ・ファーレ氏にイケアの方向性示す「イケアバリュー(価値観)」の根幹やサステナビリティーについて聞いた。
イケアは1943年、スウェーデンの小さな村・エルムフルトで誕生した。この村は、緑豊かではあるものの石の多い土壌で、決して資源に恵まれているとは言えなかった。だからこそ、限りある資源を大切に守りながら、必要な分だけ有効活用する創意工夫の心が人々に根付いていた。それはイケアの価値観である「原材料を最大に活用し、人々のニーズや好みに応じて製品を最適化することで、低コストを実現し、節約したコストをお客様へ還元する」にも色濃く反映されている。
スウェーデンの人々が自然と同様に重きを置くのがインテリアだ。冬が長い北欧では、どうしても室内で過ごす時間が長くなるため、家を快適な空間にしたいという意識が高い。日本でも北欧インテリアは注目を浴びているが、なかでもイケア製品が人々を魅了する理由をファーレ氏は「イケアのすべての製品は、美しいデザイン、優れた機能性、サステナビリティー、高品質、低価格という五つの価値を満たしています。この価値が達成されなければ、最も重要なビジョンである『より快適な毎日を、より多くの方々に』は実現されないと考えているためです」と説明する。
そして、イケアのあらゆる部門のコワーカー(一緒に働く仲間)が「素晴らしい家を創るための製品やアイデアを届ける」という強い目的意識を持っているという。「言葉を変えれば、私達はより快適な家での暮らしに強い執着(obsessive)を持っているとも言えます。そして、『より快適な毎日を、より多くの方々に』というビジョンが世界63カ国約470店舗の全コワーカーを固く結びつけています」と胸を張る。
ファーレ氏は、イケアに入社して20年余りを過ぎた2021年、イケア・ジャパンの代表就任を打診された。当時、住み慣れたスウェーデンで働いていたにも関わらず、二つ返事でこのオファーを承諾したという。「元々アジアの国に興味がありましたし、『より快適な毎日を、より多くの方々に』というビジョンを実現する上でも、日本は魅力的なマーケットだと思いました」と振り返る。
赴任が決定してからまず行ったのは、日本にあるすべての拠点を訪問することだった。それはイケアバリューの一つが「連帯感(togetherness)」であることから、ファーレ氏は現地へ足を運び、人から直接話を聞くことを重視したからだ。「イケア・ジャパンのビジネスやコワーカーについてだけでなく、日本社会そのものやサステナビリティーの現状についても理解を深めたいと思いました」と振り返る。
コロナ禍が一段落したため再びネットワーキングに時間を費やしたいというファーレ氏は「人々の家での暮らし、そして社会と地球にポジティブな影響を与えるには、コワーカーはもちろん、ステークホルダーの皆様と協働していく必要があります。皆と力を合わせ、プロダクトだけでなく、生活に密着したソリューションを届ける存在でありたいと考えています」と前を向く。
イケア・ジャパンでは具体的なサスナビリティー戦略を掲げ、既に再生可能電力100%、AI技術を活用して食品廃棄物を59・5%削減するなどしている。「温室効果ガス排出量は30年までに50%削減(16年対比)、遅くとも2050年までにネットゼロ達成を目指します」という。家具のサーキュラリティー(循環)向上を目指して、顧客側で不要になったイケアの家具を買い取り、メインテナンスを施してから再販するといった取り組みにも力を入れている。
サステナビリティー戦略の対象は、地球環境のみにとどまらない。「『サステナビリティー』とは、人々についても当てはまる。誰もが取り残されることのない公平な社会を築くためのイコーリティー(平等性)、ダイバーシティー(多様性)、インクルージョン(多様性の受け入れ)はイケア、そして私自身にとっても大切なものです。私達人間は多くの共通点を持っていますが、共生していくためにはジェンダーやライフステージ、価値観など、異なる部分にもしっかりと目を向けて受け入れなければなりません」と力を込める。
さらに、絶えず変わり続ける時代と不安定な環境・社会の現状を考えれば、イケアバリューの一つである「手本となる行動でリードする」がこれまで以上に重要であり、その点においてイケア・ジャパンはキーマン的な存在だという。
「イケアの掲げるバリューは、どれも日本の国民性と非常にマッチするものだと思いますし、私はこれまでもイケア・ジャパンのスマートでコミットメントの高い方々と共に働いてきました。よって、イケア・ジャパンが他国より先駆的であることについては全く驚きません。今後とも実現したい未来のために皆と力を合わせ、地球と人、双方への活動を継続的に行っていきたいと考えています」
オンラインで買い物が完結することも当たり前になる中、イケア・ジャパンも従来の大型店舗に加えてオンラインストア、アプリなど、オムニチャネル化を積極的に推進している。一方でファーレ氏は「オンラインが主流になっても、週末にイケアの店舗へ行くことを楽しむ。そんな体験は絶えず提供し続けたいと思っています」と笑顔を見せる。自身を楽観主義者だと語るファーレ氏の信条は「今日は昨日よりもよいもの。明日は、さらによいもの」だという。そこに込められているのは、事態が自動的に良くなることへの無謀な期待ではなく、「よりよい未来のために最大限の努力をする」という強い意志だ。イケア・ジャパンは今後も「よりよい暮らしを実現する」取り組みを続けていく。