13
ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEO

柴山 和久

https://corp.wealthnavi.com/
Shibayama kazuhisa

1977年生まれ。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務し、10兆円規模の機関投資家をサポート。2015年にウェルスナビ株式会社を創業。

オンライン投資アドバイザーにより、働く世代の豊かな老後を実現

2024年から新NISAが始まり、資産運用への関心が高まっているが、その必要性は感じていても、足を踏み出せない人が多いのが現状だ。そんな中、急成長を遂げているのが、PCやスマートフォンで完結する全自動資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」だ。「誰でも安心して資産運用が行えるサービスが必要とされている」というウェルスナビ株式会社代表取締役CEO柴山和久氏に聞いた。

ウェルスナビを創業したのは、経営コンサルティングファームで機関投資家の資産運用をサポートしていた2013年、米国人の義理の両親の資産額を知って驚いたのがきっかけだった。

「義理の両親から『私たちの資産運用もサポートしてほしい』と、プライベートバンクの運用報告書を渡されました。そこには、数億円の金融資産の内訳が記されていたのです」と明かす。柴山氏の両親と年齢も学歴、職歴も変わらないのに金融資産は10倍。両親が貯蓄中心だったのに対し、義理の両親はプライベートバンクを利用することで「長期・積立・分散」の資産運用が実現できていたのだ。

柴山氏は、少子高齢化が進み、退職金や公的年金制度も変わりつつある日本で、「老後の不安を抱える日本の働く世代にこそ、資産運用が必要」と考え、「日本でも、誰でも安心して『長期・積立・分散』の資産運用が行えるサービスを生み出したい」と、2年後の2015年春に経営コンサルティングファームを退職し、ウェルスナビを起業。2016年7月に全自動資産運用サービス「WealthNavi」を正式リリースした。

「WealthNavi」は、「長期・積立・分散」の資産運用を自動化したオンライン投資アドバイザー(ロボアドバイザー)だ。知識や経験、資産の額に関係なく、誰でもおまかせでノーベル賞受賞者が提唱する理論に基づいた投資ができる。

スマホのアプリやPC上で五つの質問に答えるだけで、世界約50カ国1万2000銘柄に分散投資する資産運用プランを提案し、資産配分の決定から発注、積立、リバランスなどをすべて自動で行う。柴山氏は「『働く世代に豊かさを』をミッションに掲げ、忙しく働く世代の方が、すきま時間で手軽に資産運用できることを目指して、設計・開発を行いました。利用者の多くが20代から50代です」と語る。

サービスの月次解約率は平均で1%未満にとどまり、2016年7月の正式リリースから約7年7カ月で、預かり資産1兆1000億円、運用者数は約387000(2023年12月末時点)に成長した。使いやすさと分かりやすさ、運用方法を透明性高く開示していることに加え、銀行やカード会社などとの提携も信頼を得る大きな力になっているという。

ウェルスナビのビジョンは「ものづくりする金融機関」だ。柴山氏は「開発は創業当初より自社内で行っています。自分たちで作ることで、安心して使い続けられる、分かりやすいサービスにできることが強みです」と胸を張る。同社のメンバーの約半分はエンジニアやデザイナーであり、金融の専門家とテクノロジーの専門家が一つのチームとなっている。このチームがお客様の声を聞きながら、スピード感を持ってサービス改善や開発を続けているという。

金融機関でも珍しい内製化を採用したきっかけは、創業当初、開発エンジニアが見つからず、ひと月かけて柴山氏自らプロトタイプを作ったことだ。柴山氏は「誰もが安心して利用できる資産運用サービスを作るには、テクノロジーの活用が必須と考えていました。誰にも頼めなかったので、プログラミングスクールに通い、一から勉強しました。人生で最も大変な1カ月でしたが、最初に自ら手を動かしたことには大きな意義がありました」と語る。プロダクトの開発と改良を軸とする同社の組織作りには、エンジニアの苦労や喜びを理解できることが必要であり、そのベースを柴山氏自身が身に付けることができたからだ。

2024年から始まった新NISAでは、投資できる金額が拡大し、制度が恒久化された。だが、制度の複雑さは残り、「どのようにNISAを活用すればよいか」と迷う人も多い。こうした悩みを解決する「おまかせNISA」も、新NISAに対応している。NISA口座で自動で資産を購入し、NISA以外の口座も含めた資産全体を最適化するサービスだ。柴山氏は「誰もが安心して、リスクを抑えながら長期の資産運用に取り組めるサービスが必要とされていま」と話す。

資産運用への関心の高まりもあり、預かり資産は1兆円を超えた。だが、柴山氏は「1兆円はあくまでスタート地点。今後10年で、日本の個人金融資産2000兆円の1%に当たる預かり資産20兆円を目指しています」という。

また、2024年2月には三菱UFJ銀行との資本業務提携も発表した。同行の強い顧客基盤とウェルスナビの企画・開発力をかけあわせ、事業の成長をさらに加速させるのがねらいだ。具体的には、個人のお金の悩みを解決する「総合アドバイザリー・プラットフォーム(MAP)」を2025年中に提供することを目指している。お金に関する総合的なアドバイスを、オンラインで中立的に行う構想だ。柴山氏はこれまでにないサービスなので、人材がカギを握ります。私たちの描く将来像に共感してくれる仲間を求めています」と話している。