1974年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、株式会社INAX(現在LIXIL)、ソフトバンク株式会社を経て、元東京大学特任教授である阿部力也氏が提唱した「デジタルグリッド構想」を実現するために、2020年7月阿部力也氏と共同代表にて株式会社DGキャピタルグループを設立、2023年2月には沖永良部島に事業会社の株式会社えらぶゆり電力を設立し社長に就任、現在に至る。一般社団法人デジタルグリッドコンソーシアム理事も務める。
デジタルグリッドで実現する、電力ビッグバンへの挑戦
2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラル実現を目指し、再生可能エネルギーが注目されているが、従来の電力システムとの連携が壁になっている。株式会社DGキャピタルグループはは、代表取締役兼CEOを務める阿部力也・元東京大学特任教授が開発した技術で、この壁を乗り越えようとしている。「デジタルグリッド構想」の実現を目指す新海優・代表取締役兼COOに聞いた。
電気は大量に貯めることが難しいため、電力システム(電力系統)では、エリア内の電力の需要と供給を基本的に「同時同量」に保つように電力会社が制御している。太陽光や水力などの再生可能エネルギーの電源もその系統につながっているので、同時同量に保つ制御が必要で、
系統を安定させる技術がグリッドフォーミングと呼ばれる。グリッドフォーミングの研究開発は世界中で進められているが、DGキャピタルグループは、多数の発電機が統合して、あたかも一つの大きな発電機となるという技術で、地産地消型の分散型小規模配電網(マイクログリッド)の構築にも適しているという。
この技術を開発したのが現CEOの阿部氏で、インターネットのような自立分散型の電力網をつくる「デジタルグリッド」構想を提唱し、この構想を実現するために2020年7月に、新海氏が共同創業者となってDGキャピタルグループを設立した。
新海氏はソフトバンクの法人事業プロジェクトチームの責任者として、IoTや通信分野で活躍していたが、。「ソフトバンク在職中から、この分野でナンバーワンの技術を持つ阿部先生に注目していました。ソフトバンクで経験を積んできて、そろそろ外に出ようかと考えたタイミングで、その技術を世界に届け、デジタルグリッド構想を実現できるのは自分しかいないと思った」と設立の経緯を語る。
熱い思いを抱いてスタートしたが、革新的な技術で市場自体も顕在化していなかったため、設立当初は事業化の道筋をどうつけていくか、かなり悩んだというが、2022年度から配電事業への新規参入を認める「配電事業者ライセンス制度」が導入され、同時期に環境省が脱炭素先行地域を選定するなど、自治体中心の分散型再エネインフラ事業が加速し始めた。
「海外でも既存系統不安定化による次世代型電力ネットワーク構築の流れが強まり、国内外からデジタルグリッド技術を求められるようになりました」と手応えを語る。
現在、脱炭素先行地域である沖永良部島での島全体のデジタルグリッド化や、トヨタ自動車九州との水素を活用した取り組み、福島県大熊町とのプロジェクトなどを進めている。一つだけでも大変なプロジェクトだが、ソフトバンクで多数のプロジェクトを同時並行に進めてきた新海氏は「やりがいを感じます」と笑顔を見せる。
新海氏は「現在の電力系統はアナログですが、今後デジタル化されていきます。そのきっかけになるのが分散型の再エネ。通信の世界でビッグバンが起きたように、電力の世界でもビッグバンが起こる。そのために、世界中にこの技術を届けることにチャレンジしています」と熱く語る。
チャレンジの一つが沖永良部島のデジタルグリッド化だ。同島は本土と系統がつながっておらず、島にある火力発電所が頼り。系統規模が本土と比べて小さいため、出力変動が大きい再エネが連系されると、系統周波数の変動が大きくなり、系統の安定性に影響を与えやすくなる。この問題を解決するために、日本で初めてグリッドフォーミング技術を導入する。
「沖永良部島と同じ問題を世界中の離島が抱えている。沖永良部島での実績を通じて再エネ離島モデルを構築し、世界に広めたい」といい、その資金調達のため2024年中に海外上場を目指しているという。
既に、海外の大手企業からパートナーシップの話もきており、第1弾としてアラブ首長国連邦の電気自動車メーカーNWTN(ニュートン)とMOU(基本合意書)を締結した。「デジタルグリッド技術で、世界でゼロカーボン社会の実現に貢献したい」と力を込めた。