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株式会社ベネフィット・ワン 代表取締役社長

白石 徳生

https://corp.benefit-one.co.jp/
Shiraishi Norio

1989年、拓殖大学政経学部を卒業後、1990年株式会社パソナジャパン入社。1996年、パソナグループの社内ベンチャー第1号として株式会社ビジネス・コープ(現株式会社ベネフィット・ワン)を設立、取締役に就任。2000年、同社代表取締役社長に就任。

時代の流れを予測し、大胆に的確に変化していく

定額料金を支払うことで商品やサービスを利用できる「サブスクリプション」が広がるが、インターネット黎明期の約30年前からサブスクをビジネスモデルとして確立していた株式会社ベネフィット・ワン。企業の従業員向け福利厚生サービスのプラットフォーム「ベネフィット・ステーション」を手がける。会員企業が会費を支払うことで、ベネフィット・ワンが提供するレストランやホテルなどの特典を従業員が利用できる仕組みで、白石徳生社長は「いわば“サラリーマン生協”です」と話す。常に時代の先を見据えてきた白石社長は「創業28年でやっと1合目ですが、ここから先はきっと早い。あと10年もあれば9合目まで到達できる」と語る。

白石氏が起業を決意したのは大学生の頃、父親も親族も皆事業を興していたため、起業は自然なことだったという。新卒で大手人材派遣会社の営業マンとして就職し、入社7年目に社内ベンチャーとして現在のベネフィット・ワンを立ち上げた。

まだインターネットの黎明期だったが、デジタルマーケティングは一気に世の中をひっくり返す巨大産業になるだろうと確信していたという。既に多くの企業がビッグウェーブに乗ろうと、ネット広告やオンラインショッピングの市場を狙う中、白石氏が目を付けたのは、モノではなくサービスのオンライン販売だった。モノを売る市場はオンラインでなくとも、百貨店やスーパー、コンビニなどがあり、流通は既に成熟している。一方、スクールや育児、介護、引っ越しなどのようなサービスの流通は確立されていないため、オンライン上に作れば一大ビジネスになると考えたのだ。

だが、他にも旅行やホテルのオンライン予約サービスを扱う会社が複数現れた。「それも想定済みでした。それらと一線を画すシステムとして考えたのが、ユーザーから会費をもらう定額サービスです。今でいうサブスクですね」と語る。

決済コストもマーケティングコストもかかるため、サブスクに取り組む企業が少なかったが、白石氏には勝算があった。「福利厚生サービスのアウトソーシングという構想は既に頭にありました。会費はエンドユーザーである従業員からもらうのではなく、従業員が所属する企業から福利厚生費としてもらうことで安定的な収益が得られると考えました」と明かす。

また、同社は取り扱うすべてのサービスを定価以下で販売しているが、通常サービスを販売する際は手数料を上乗せするものだ。例えば保険や旅行の代理店も20%程度の手数料を取って収益化している。「会費をもらう代わりに手数料を取らないので、定価が1泊1万円のホテルがあれば、1万円のまま提供できる。だからユーザーはどこよりも安くサービスを利用できます」と説明する。

サービス開始当初はネットの通信速度も遅く、サプライサイドの在庫や予約の状況をリアルタイムで共有できるシステムもなかったため、本格的にオンライン化するまでは分厚いカタログを会員企業に配り、コールセンターを設置して電話で予約を受け付けていた。そんな時代を経て、ベネフィット・ステーションのユーザーは約1000万人にまで成長した。日本の就業人口の6~7人に1人はユーザーということになるが、白石氏は「最終的に就業者6700万人全員をユーザーにしたい。ユーザーの家族も利用できるので、6700万人を押さえれば国民ほぼ全員をカバーできる」といい、「会費を無料にすれば入会のハードルは一気に下がり、6700万人全員を取り込むことも難しくない」と言い切る。

収益の柱である会費を手放して、次に狙うのは決済事業だという。現在提供している福利厚生サービスのほか、家賃や光熱費、通信費などユーザーが毎月の生活で支払う料金を給与天引きにして、同社が決済を代行し、決済手数料を収益にする考えだ。。一件一件の金額は少ないが、何千万人ものユーザーが毎月利用すれば大きな収益となる。事業が本格化すれば、現在の会費収入よりも大きな収益が見込め、いずれ給料の前払いやキャッシングのような金融事業へと可能性も広がる。「私たちがやらなければ他社がやるでしょう。のんびりしている暇はありません。社会の動きを見ながら大胆に的確にしていくことが大切。目指すのはベストセラーよりもロングセラーです」

先行き不透明な時代を迎えているが、白石氏は「日本はもうだめだとか、遅れているとか言う人もいますが、そんなことはありません。少子高齢化や経済の衰退など、今の日本が置かれている状況は間違いなく世界最先端であり、いずれ他の国々も直面します。この局面をどう乗り切るか、世界の手本となるはずです」と可能性を語る。

さらに「日本では災害が起こっても、我先にと食料を奪い合うような人はなく、互いに助け合います。これも人類のこれからのあり方かもしれません。テクノロジーの進化によって、社会インフラを皆で共有するような世の中になっていく」と、白石氏は未来を見据えている。