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ブリッジオーシャン株式会社 代表取締役 

鈴木 康雄

https://www.bridgeocean.co.jp/
Suzuki Yasuo

1971年生まれ。東京都出身。青山学院大学及びハワイ大学のビジネススクールを卒業。94年、明治大学政経学部を卒業。96年米国会計士試験合格後、米国Deloitteに入社。99年、PWCコンサルティング、09年乳製品輸出最大手フォンテラの日本法人で経営企画機能を統括するマネジメントなどを歴任。21年より現職。

自身の経験と強みを生かして、日本企業の後継者不足問題に切り込む

超高齢化社会を迎える中、中小企業庁によると、2025年時点で70歳以上になる国内の経営者約245万人のうち、127万人が後継者未定で、うち約半数の60万人以上の事業者が黒字のまま廃業する可能性があり、地域経済の衰退や人口減少の加速が懸念されている。中でも不動産業界は経営者の平均年齢が高く、後継者問題が深刻だといい、不動産業を専門とするM&Aのアドバイザーとして、事業承継のマッチングやサポートを手がけているブリッジオーシャン株式会社の鈴木康雄代表取締役に、事業承継の意義と思いを聞いた。

日本の大学を卒業後、米国留学を経て、外資系企業で働き、米国の会計士時代には企業の事業価値評価を行う「認定事業評価士」の資格を取得し、大手企業のマネジメントを経験してM&Aや法務の知識も身に着けた鈴木氏は、ニュージーランドの乳製品輸出企業に勤めた際に国家間のタフな交渉にかかわった経験もあり、「起業するなら日本の社会に貢献できることがいい」と考えていたという。

これまでの経験から何ができるか考えた末、日本でM&Aアドバイザリー事業を立ち上げ、深刻化する事業承継問題の解消に取り組もうと決めた。最初は安定した経営基盤を確保するために、自社で賃貸不動産を保有して管理する不動産賃貸業がメインだったという。M&A事業でも、専門知識を生かせる不動産会社の案件を中心に扱うようになった。

廃業を検討する企業は経営に何らかの問題を抱えており、承継は無理だとあきらめている経営者も多い。鈴木氏は不動産業界を熟知しているため、経営者と話せば医師の問診のように的確に問題点を把握でき、「どんな企業に渡せば改善できるかすぐにイメージできますし、売り上げを伸ばす具体的な提案もできるのが強み」と説明する。

同社で独自に首都圏の中小規模の不動産会社1万社を調査したところ、2000人近い経営者が高齢で後継者もなく、廃業もしくは売却を検討していることが分かったという。大企業のようなサクセッションプラン(後継者育成計画)を持たない中小企業が多く、経営者が年を重ね、健康や体力に不安を感じるようになってようやく今後のことを考え始める。そのようなケースに出会う度に鈴木氏はもどかしさを感じるという。「黒字なのに畳んでしまう会社も珍しくなくて、率直にもったいないと思います。何十年もやってきた事業ですから、後継者さえいれば黒字のまま存続できるはずです」と指摘する。

経営者は事業の買い手が見つかればそれでいいというわけではない。長年育ててきた事業には思い入れがある。特に最後まで案じるのは従業員のことで、「待遇を下げないでやってほしい」「なるべく良い条件で残してあげたい」といった要望が多いという。売り手と買い手、双方の条件やニーズを照らし合わせながら100%満足のいく合意に至るのは簡単ではないが、「経営者の『これでようやく肩の荷が下りた』という声や、従業員の『これからも働き続けられる』という声を聞くと、サポートできて良かったと心から思います」と明かす。

同社は売り手と買い手をつなぐアドバイザリー事業のほか、自ら事業を買い取る事業承継型投資事業にも取り組んでいる。今後、毎年2~5社の事業承継や自主廃業を検討している企業を譲り受け、若く意欲的な経営者に委ねて事業の価値を高めたいと考えている。

「日本には経営に興味のある優秀な人材がたくさんいます。以前の私もそうでしたが、大企業で管理職を務めていたりすると、現状の安定を手放してまで起業するのには二の足を踏むものです。会社をゼロから立ち上げるのではなく、初めから事業も人材も用意された会社の経営者になれるなら、もう少しハードルは下がります。経営に興味があるけれど資金面であきらめている人、リスクを抱えることにためらっている人たちとマッチングできればと考えています」と力を込める。鈴木氏は今後、高い起業家精神と情熱のある若手経営者100人を集め、連携を図りながら競い合っていけるような活気のある企業グループを形成していくという。

トライアスロンを十数年続け、世界選手権でも完走を果たしているという鈴木氏は今も平日2時間、週末に3時間のトレーニングを欠かさない。「70代後半になるまでは若手経営者たちと一緒に全力で走り続けるつもりです。プロアスリートが試合に向けて準備をするように、私も心身ともにベストコンディションで仕事に臨む姿勢を持ち続けたい」と自信を見せる。国の大きな課題に挑む鈴木氏の強くしなやかなマインドセットは、スポーツで心身を鍛えることで醸成されているようだ。

中小企業が次々と廃業に向かっているのが現状だが、「自分の強みを最大限に生かした事業でこの課題に立ち向かうのは楽しいしやりがいがある。」と、鈴木氏は一人でも多くの経営者の事業と思いを次の世代へつなぎ続ける。