学生時代は野球に打ち込み、プロ野球選手を目指すが、大学では学業にシフトチェンジ。独自でプログラミングを勉強し、学生街の飲食店などを対象にスマホサイトの開発を実施する受託システムで初の起業を経験。大学卒業後は株式会社DeNAに入社。その後、電通アイソバー(現電通デジタル)、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでの勤務を経て、2022年に株式会社CS Technologiesを創業。
分散型コミュニティで新たな価値を創造する
次世代のマーケティングプラットフォーム「CSエリート」を使ったコンサルティング事業を展開する株式会社CS Technologies。田中一真代表は「GAFAMのような巨大プラットフォームが存在しない日本だからこそ、独自の分散型コミュニティを持つことが日本企業の勝ち筋になる」と言い切る。
田中代表は、マーケティングプラットフォーム「CSエリート」を「企業独自の価値を創出できる分散型コミュニティ」だという。「デジタル上のタッチポイントとなるアプリケーションやウェブサイト上に、いわゆるコミュニケーションツールのようなものを作り、動画やブログのような機能を盛り込んだ。解像度の高い顧客データを得られることが特徴」と語る。
開発のきっかけは、多くの日本企業で当たり前とされているデジタルコミュニケーション手法に違和感を覚えたことだったという。「より良い顧客体験を作っていくためには、顧客のことを理解し、状況に応じたソリューション、解決策を企画して実行するというプロセスがありますが、以前からこういったデジタルマーケティングなどのコンサルティングを担う際に、この顧客理解の部分にひずみやズレが生じているのではないかと感じていました」と明かす。
BtoCビジネスを行う企業の場合、多くがメールやSNSなどを使った一方通行の発信による〝押し売り〟のような形態をとってしまいがちだが、オンラインとオフラインの結合が浸透している現在は、状況ごとに高品質なタッチポイントを顧客が選ぶ。その考え方を企業側が持っていないと、企業と顧客をつなぐ〝タッチポイントでの体験〟の期待値に大きなズレが出てきてしまう。田中代表は「日本では多くの企業が顧客データをうまく活用できていない。つまり顧客が欲しい体験を理解できていないという事態に陥っています」と指摘する。
データを取得し、分析するツールが多く存在する中で、日本企業はなぜ自社の顧客を正しく理解できないのだろうか。田中代表は、その理由を二つ挙げる。「一つは、そもそもの考え方が間違っていること。これまでの顧客理解の考え方は顧客の属性データを使い、その心理を深掘りして因果関係をつけるというものでしたが、人間の意思決定には少なからず外的な状況が影響する」といい、これまでの分析では、それが全く考慮されていなかったという。もう一つはタッチポイントの問題で、「反応が見られるSNSでのタッチポイントでは、顧客の状況データをすべてGAFAMに中央集権的に集められてしまい、日本企業は属性データしか取得することができない」と語る。
その二つの課題を解決するソリューションとしてCSエリートを開発した。「分析への考え方が全く違うプロダクトで、タッチポイントとして自社のコミュニティが作れるので、企業独自の価値を創出できる。そのコミュニティの中であれば、動画の閲覧数や投稿への『いいね』などSNS的な動きをチェックすることも可能ですし、どの商品のどの言葉が響いているのかをデータで取ることができるため、顧客理解にズレが生じなくなる」と解説。分散型コミュニティによって、時系列や発言などから詳細な行動履歴が簡単に取得でき、「考え方とデータ、その両面からアプローチができる施策を企画できるのが従来のサービスとの大きな違い」と自信を見せる。
自社のコミュニティを容易に設定できるのが魅力のCSエリートには、そのコミュニティに属させるための施策機能も多種多様に用意されている。「業種によって異なりますが、例えばリアワード機能。いわゆるポイントプログラムをECや店舗購入と連動させることが可能です。定性的な部分で言うと、コミュニティのうまい作り方というのがノウハウとして存在するので、それをコンサルティングで回収して解決していきます」。
コミュニティづくりは、ファンづくりのプロセスとよく似ているという。「コアファンからミニファンまで、しっかりと熱意を波及させていく。一番いいのは、6人のキーマンを作ること。オタク型の物知り博士型、ビジョンに共感するインストール型、リア恋型のミーハーとガチ恋崇拝型。バディ型とあしながおじさん型。この6人を早めに見極めてコミュニティ運営に携わってもらう。ファンと一緒に作ることが、より良いコミュニティづくりの前提ではないでしょうか」と語る。
それを実践した成功事例として、田中代表はとあるコーヒーチェーンの施策を挙げる。「そのチェーン店は長居できることとフードサービスが充実しているのが特徴でした。さらに、それを浸透させるため、コミュニティ内でリアルな試食会や新商品の開発といった企画を実施しました。コミュニティに人も集まりましたし、コメントを投稿するとコーヒーが1杯無料になるといったリアル店舗と連動したサービスも提供。いい循環ができた例だと感じています」という。
田中代表は「中央集権型のコミュニティであるGAFAMが存在しない日本だからこそ、CSエリートを活用した分散型コミュニティを持つことが日本企業の勝ち筋になる」という。「1970年代は1回ヒット商品を出せば、商品寿命は平均5年。今はもって1~2年」だという。その理由は、技術の進化によって商品が模倣しやすくなったため、商品そのものは競合優位にはなりえない。そのためデータやUX、つまり使いやすさや体験といった企業独自のものが競合優位になるという。「日本企業がGAFAMに代わる自社独自のデータを取得できるコミュニティを作ることができれば、世界が変わっていくのではないでしょうか。コミュニティ構築による新たな価値の創造できる武器を提供したい」と力を込める。
将来、コミュニティづくりが企業間の提供競争になるといい、「商品のクオリティーではなく、顧客体験の提供競争。企業競争はUXの提供競争に変わっていく。そのためには日々分析で顧客の理解をすることが必要。日本企業はいいコミュニティを作り、生き残ってほしい」と熱く語る。