1989年大分県生まれ。大学在学中の2012年12月に起業。 決済・金融の簡易化を主軸にした事業を展開し、ネットショップ作成サービス「BASE」、購入者向けショッピングサービス「Pay ID」等を運営。2016年、経済誌フォーブスで「アジアを代表する30歳未満(小売り&Eコマース部門)」に選出。
個人が多様な豊かさを求められる世界を
ネットショップの開設・運営にかかる手間を一手に引き受け、個人や小規模事業者を中心に注目を集めるBASE株式会社のネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」。CMでもおなじみのサービスの成功の理由を鶴岡裕太CEOに聞いた。
創業の発端は「ネットショップを開きたい」という母親の言葉であったという。商売を営んでいた鶴岡氏の母はウェブ上で商売をしたいと願っていたものの、当時出回っていたECシステムは利用ハードルが高く、代行サービスといっても個人には手の届かない金額が掛かることが通例だったのだ。それが自身でサービスを作ろうと考えた最初のきっかけとなる。
「2012年当時、ネットショップは資金力のある法人、もしくはシステムに精通した事業者がターゲットで、私の母のような一個人ではお店を開くハードルが非常に高い状況でした。その後、私自身もエンジニアとしてアルバイトをする中、何かいいサービスを作れないか、と考えていたときに、母の『ネットショップを開きたい』という言葉を思い出し、同じような人は他にもいっぱいいるのではないかと考え、そこから事業の構想をスタートさせたのです」と語る。
鶴岡氏の母のような小規模事業者であれば、時間や資金、技術などが足かせとなり、手掛けたいビジネスができないケースも多かったことから、「難しいことを簡単にする」ことをポリシーに、プロダクトデザインと機能性、操作性には徹底的にこだわったという。「今まで人々は特定の技術を得るために時間を費やしてきましたが、テクノロジーで削減できることがあります。そうした思想とデザインを『BASE』には注ぎ込みました」
鶴岡氏は個にフォーカスすると同時に、その多様性も重視してきた。それは「BASE」を楽天、Amazonに代表されるモール形式にしなかった意図にもつながっている。「モールにしてしまうとその色が強すぎて個人ショップの独自性が埋もれ、サービス自体が同質性に貢献することになります。それはそれぞれのお店が持っている世界観やモノづくりの価値にも影響を与えるでしょうし。SNSの発達によってモール機能はインターネット全体が担う時代だと思いますし、多様性を保つためにもモールではない方がいいのかなと思っています」と説明する。
ウェブ上のプラットフォームなど世の中が同一化に向かう中、鶴岡氏は誰もが満足するプラットフォームであることを第一に考え、企業ミッション「Payment to the People, Power to the People.」を掲げている。
本格的に人工知能(AI)が活用される時代に突入し、多くの仕事がAIに奪われるという未来予測がされるが、鶴岡氏はAI技術の活用について、「ほとんどのことはAIが巻き取ってくれる世の中になると思います。とはいえ商売の核の部分、つまり商品を作ったり価値を創造するのは人間がやるべき役割であることに変わりはないと思っています。逆にAIを使うことで、100%の時間をその人にしかできないことに当てられると思う。そうなればアウトプットの質も上がり、より多様な社会につながっていく」と好意的にとらえている。
鶴岡氏は過去のテクノロジーに比べAIは群を抜いていると評価し、「BASE」のサービスでもAIを実装、ショップデザインや商品説明文の作成などに幅広く活用している。「世界をより豊かにする、個人をよりエンパワーメントしている未来をAI技術から想像しやすい。僕個人としても好きな技術ですし、小さなチームでも大きなアウトプットを創造できる。チームの規模がアウトプットに影響しなくなる世の中になると思う」と期待する。
鶴岡氏は、個人や小規模なチームの支援をBASE社の企業ミッションにしている理由について「僕がインターネットに触れた時代は、SNSを通じて大きなメディアの声と同じくらい個人の声が重要視され、個というものが強く、より主体的になってきた頃でした。その中で社会とは大企業ではなく、一人一人の個人が形成していると実感したんです。そうした時代からのインプットが多かったので、自ずと個というものに思想が寄っていったのかもしれません」と語る。
また、「社員一人一人がユーザーのことを考え、仕事ができる環境を用意したい」といい、経営者として「自分の仕事が社会をよくすることにつながっている、その実感を持てるようなプロダクトを作るべきだと考えています」と力を込める。
少子高齢化や経済の停滞、自然災害など明るい未来を描きづらい現代の日本ではあるが、鶴岡氏はまた違った未来を想像している。「もちろん人口減少などでマイナスな影響もあるでしょうが、それによって人は多様な生き方を模索し始めると思うんです。その結果、まだ見ぬ商品や付加価値、そういったものが流通するようになって経済規模の大小ではなく、多様な豊かさが求められる世界になる」と個々が自分の人生を生き、やりたいことがすぐに実行に移せる世界を望んでいるようだ。