1962年、愛知県名古屋市生まれ。1987年に名古屋大学法学部を卒業後、大手資格予備校の講師・支店長を経て、1993年に難関資格受験予備校フォーサイトを創業。
「知る」は面白い エンタメを学びに
日本の衰退を不安視する声がある中、その原因の一つとして挙げられるのが教育だ。「学校嫌い」「勉強嫌い」という人も多いが、「本来、人間は知的欲求がある」と考え、ユニークな講義を行っているのが、難関資格受験予備校フォーサイトだ。代表取締役社長CEOの山田浩司氏が講師を始めた頃から重視してきたのは「面白さ」。その視線は講義だけではなく、会社経営に対しても注がれている。
難関資格の通信講座予備校フォーサイトの累計受講者数は、2023年11月時点で39万人を突破、高い合格率を誇る。。フォーサイトの特徴は、ユニーク性にある。VTuberのように、アニメキャラクターのバーチャル講師による授業を始めた。5、6年前に登場したキズナアイを見て、ノウハウを自ら教わりに行って始めたのだという。声優の採用から台本執筆まで、山田氏自らが行った。この試みは、当時の教育業界から批判もあったという。
「教育関係者からすると、ふざけたことをやっているように思えたのでしょう。ただ私は、勉強はすべて遊びにしたほうがいいと思っています。人は本来、知的好奇心があるもの。学ぶことは楽しいことなのに、義務化されるからつまらなくなり、勉強嫌いになってしまうのです」
山田氏は「私自身、勉強が好きな子どもではなかった。学校の先生に嫌われるタイプの子どもで、先生よりも自分のほうが賢いと思っている生徒でした。悪い意味で校内の有名人で、関わりのない先生からも知られていました」と明かす。
自身は塾に通ったことがないという山田氏。元々目指していたのは弁護士だった。当時、司法試験は30代でしか受からないような時代。そのため、周りに促されて就職活動を行い、大手商社を含むすべての企業から内定が出たという。そのうちの1社で内定者研修を受けたものの、会社が示す今後のキャリアに興味を持てず、離脱。そんな山田氏に、大手資格予備校から「働いてくれないか」という声がかかった。
「『アルバイトならいいよ』と言って講師を始めたところ、私の授業が受講生に受けたので、自分には教える才能があると気付きました。私が持っていない資格の講義をやるように上司から言われ、1年目は自分が勉強しながら講義をし、2年目でその資格を自分も取得するといった具合でした。資格を持っていない1年目から人気講座になるという繰り返しで、年収も上がり、アルバイトから最終的に支店長になりました」
当時から、面白い講義を重視していたという。業界の裏話や恋愛話など、若い受講生たちが関心を示す例え話が受講生の人気を呼び、高い合格率へとつながっていったのだ。高尚な話はすぐに飽きるが、笑えるものなら1時間でも見られる。これが山田氏の考えだ。
自分の理想とする講義を提供するために独立した山田氏は、会社について「レジャーランドであるべき」という持論を述べる。
「真面目な会社が多いので、私のやることはたいてい批判されます。お金をいただくわけですから、合格に導ける仕事はします。でも、社員たちが仕事をする理由は、お客様のためだけではなく、自身の生活や遊びのために働いているという側面は否定できないでしょう。生きていく原動力は『欲』です。下手に欲をオブラートに包むのではなく、『モテたいから、金持ちになりたいからがんばる』という根源的な欲を認めてしまったほうがいい。私も自分の欲を大切に生きてきましたし、今後もそうありたいと思っています」
今も、自身の「やってみたい」「こうしたらもっと学びを面白くできる」という思いから、ユニークな企画を複数動かしているという。「エンタメ教育と言ってしまうと、また教育業界からひんしゅくを買いそうですが、やっぱり教育にも面白さが大切だと思う」という山田氏。「叩かれることには慣れていますし、そのほうがうれしいですよ。一番手に革新的なことをやろうとしている表れですから」と笑みを見せた。
日本での予備校運営だけではなく、タイやベトナム、ラオスで累計11の小中高校の学校建設にも携わってきた。社会貢献につながる取り組みだが、山田氏自身は「日本では学校に対するイメージが悪いため、学校のない地域に学校を作ったらどうなるのかという好奇心から作っただけです」と説明する。文字の読み書きができない住民がいる地域に学校を作ったことで、「文字が分かると情報を得られるようになる。その結果、初めて『医者になりたい』『先生になりたい』といった夢を持てるようになる」ということを知ったという。
「学校を作ってみて、学校の必要性を理解できました。ただ、現状の学校のままでいいというわけではありません。国による改革を求める声がありますが、海外を見ていると、改革を進めるのは政府ではなく、民間なんです。日本の教育のあり方を変革するのは一筋縄ではいかないでしょう。しかし、これからの日本を支えていく次世代のためにも、良質な教育を残せるよう、できることを模索していきたい」と締めくくった。