トマト加工を中心としたさまざまな商品を通じて、長年人々の健康を支えてきたカゴメ株式会社。1899年の創業以来、「畑は第一の工場」として、農業をビジネスの中核に据えて成長を続けてきた。山口聡代表取締役社長は「農業をどのように持続させていくのかがカゴメの使命」と語る
オープンイノベーションでサステナブルな農業を目指して
トマト加工を中心としたさまざまな商品を通じて、長年人々の健康を支えてきたカゴメ株式会社。1899年の創業以来、「畑は第一の工場」として、農業をビジネスの中核に据えて成長を続けてきた。山口聡代表取締役社長は「農業をどのように持続させていくのかがカゴメの使命」と語る。
山口氏は農学部を卒業後、1983年に入社し、茨城の工場からキャリアをスタートさせ、品質管理や商品設計を担当したころトマト加工のみでは発展性が見込めないとして、商品の多角化で事業拡大に踏み切った。レトルトカレーや焼き肉のタレなど多様な商品を開発し、初めこそ売り上げを伸ばしたものの、次第に行き詰まり業績は低迷。そこで一旦、トマトを中心とする事業に軸足を戻すことになった。
山口氏は「開発者同士で何度も話し合いを重ねた結果、〝カゴメらしさ〟から離れるほど、商品が売れなくなることに気付きました」と振り返る。創業から一貫して農業を原点として商品を生み出し、人々の健康に貢献してきた〝カゴメらしさ〟を追求する方が、消費者にとっては受け入れやすいと考えた。
その後、2012年にトマトが健康に良いと話題になり、空前の〝トマトブーム〟が到来、創業以来の最高益を上げたが、すぐにブームは去り、反動で減益に転じた。トマト加工事業だけでも限界があると考え、将来の事業環境の変化について徹底的に話し合い、2025年のありたい姿を「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業」と定め、その実現のために、「トマトの会社から、野菜の会社に」という長期ビジョンを策定した。トマトに軸を置きながら、対象を野菜全般に範囲を広げ、再び事業拡大を目指した。山口氏は「幅広い商品を提供することで、結果的にみなさんの健康にもより貢献できると考えました」と語る。
カゴメは、「感謝」「自然」「開かれた企業」を企業理念としている。
「経営に当たり、最も大切にすべきものは企業理念です」と語る山口氏は、特に「開かれた企業」を重視し、「普遍的なメッセージは人の心を動かします。これらの言葉を目にする度に、これから先もつないでいかなければと身が引き締まる思いです」と力を込める。
2023年には、サステナビリティーの基本方針を策定した。山口氏は「我々は、環境を守ることを当然のこととして続けてきました。それを外部に表明していくことも重要だと考えました」といい、サステナビリティーの取り組みをより強化していく方針だ。
山口氏は社長就任以来、他社とも共同してアイデアを出し合いながら、オープンイノベーションを推進してきた。「今私が最も大切にしているのは、率直な意見や素朴な疑問を誰もが気兼ねなく発言できるような、〝心理的安全性〟の保たれた社内風土にすることです」とイノベーションを生み出すための土壌作りを重視している。「私のアイデアが、いつもベストであるとは限りません。だからこそ、みんなでディスカッションする中で、一番良いアイデアを選ぶべきだと思うんです」と語る。
リスクマネジメントの面でも、心理的安全性を保つことは重要だという。山口氏は「社員が自由に意見できるような素地は元々あったと思います。これがさらに浸透すれば、企業としてより良い成長を続けていける」と期待する。
山口氏は毎年夏、加工用のトマトを栽培する国内の契約農家へ激励に訪れるが、その度に地球温暖化の影響を肌で感じるという。「これまで収穫できていた地域でトマトが採れなくなったり、暑さでトマトが変色したりするなど、温暖化の影響は毎年深刻になっています」といい、
2023年に、農業領域の研究を担う「グローバル・アグリ・リサーチ&ビジネスセンター」を新設。地球環境の変動に対応した品種改良や栽培技術開発の強化を図っている。
山口氏は「健康や農業、地球環境の課題解決への貢献を目指しながら、共に成長していく姿勢を、今後も地道に続けていきたい。我々のビジネスの中核である農業を、どのように持続させていくのか方法を模索することも我々の使命です」と語り、2035年に向けての経営計画「2035プラン」を現在策定中とのことだ。