有限会社さわだスポーツクラブ取締役社長。日本体育大学卒業後、幼児体育(子どものスポーツスクール事業)に20年以上従事。幼児体育、児童サッカー、体操、新体操、空手、チアダンス、キッズダンスの指導および企画に取り組む。2025年2月、第4回Sport in Lifeアワードにて【奨励賞】を受賞。現在、一般社団法人WSSA-JAPAN の理事長として、スポーツスタッキングの全国普及活動を推進している。
さわだスポーツクラブは、康徳氏の父、澤田幸男氏が1975年に創業した。1964年の東京オリンピック後、日本経済が高度成長を続けていた当時、機械体操が主流で競技志向が強かったが、幸男氏は恩師から「これからは社会体育の時代だ」との教えを受けた。その影響を受け、子どもたちの体力づくりと健全な成長を支えるため、幼稚園や保育園での体操指導を始めたが、当時それはまだ珍しい試みだったという。
澤田社長は当初、父の跡を継ぐ気はなく、プロサッカー選手を目指していた。だが、その夢はかなわず、日本体育大学時代、少年チームのコーチを経験したことが転機となった。「自分の言葉が子どもたちに伝わらない。上から目線で、大人の経験を押し付けていただけでした」と振り返る。子どもの視点に立った指導の重要性に気づき、父が築いた幼児教育と体操指導の意義を再認識し、幼児教育や児童教育へと進む道を決意した。
しかし、父が創業した当時と比べ、子どもたちを取り巻く環境は大きく変化していた。少子化やデジタル化の影響により、運動機会の減少や体力低下が課題となっていたのだ。
澤田社長は「赤ちゃんらしい動きが失われつつあります」と警鐘を鳴らす。環境の変化が子どもの自然な成長を阻んでいるというのだ。日本の家屋から畳が消え、フローリングが主流になったことで、ハイハイする動きが減り、歩行器の使って「早く立たせよう」とすることで、乳児期に必要な発達段階を飛ばしてしまうという。
また、自然の中で駆け回る機会が減り、整った公園の凸凹のない環境で過ごすことが増えた。「運動と脳の回路はつながっています。不整地や斜面を歩き、平衡感覚を養う経験を繰り返すことで脳が刺激され、運動能力が向上します」と、6歳までに成人の90%に達するとされる神経機能の発達に悪影響を及ぼすのではないかと懸念している。
例えば、自転車は5歳までに習得すれば、ブランクがあっても乗れるが、大人になってからの習得は難しい。また、スマホやゲームによる一方的な刺激や、経済格差による運動機会の二極化も問題だ。「習い事ができる富裕層とそうでない子どもたちの差が広がっています。誰もが楽しく運動できる環境づくりが必要」と訴える。
子どもたちが直面する課題に対し、独自のプログラムとして、「Action(行動)」「Brain(脳)」「Circuit(サーキット)」の3要素を組み合わせ、子どもの非認知能力と運動能力の向上を図る「ABCプログラム」を展開している。Actionでは身体と心を動かし、幼児期に必要な基本動作を習得。Brainは脳への刺激と神経系の発育を促進する。Circuitは野山を駆け回るような多様な運動経験と運動量の確保を目指す。「遊びながら学ぶことが大切。楽しみながら仲間と一緒に身につけることで、自然に運動能力が高まります。鉄棒や跳び箱を教えるだけでなく、体を動かす楽しさを伝えたいのです」
さらに、スポーツスタッキングの普及にも力を入れている。12個のプラスチック製カップを決められた形に積み上げたり、崩したりして、スピードを競うこの競技は、年齢や障がいの有無を問わず、誰でも楽しめる。「世界50カ国で楽しまれており、日本でも競技人口は約1万人に達しています。企業研修やチームビルディングにも活用され、スポーツを超えたコミュニケーションツールとしての可能性も広がっています」と語る。一般社団法人WSSA-JAPANの理事長として、さらなる普及と発展に意欲を燃やしている。
澤田社長が目指すのは、子どもの運動能力の向上だけではない。「社員が仕事を通じて成長し、人生を豊かにできる職場環境を実現したい」と語る彼は、業務のデジタル化を推進し、リモートワークやワーケーションの導入も検討している。
さらに、アジア諸国にも視野は広がる。「日本で築き上げたプログラムを、アジアの子どもたちにも提供したい。現地の遊びを取り入れることで、子どもたちが国境を越えて楽しめる共通の遊び場を作れるはずです」と展望する。
澤田社長が追い求めるのは、子どもの未来を創ることだ。「成長する子どもの姿を見守るのは、最高の喜びです。楽しめる運動プログラムを通じて、世界中の子どもたちの運動嫌いをなくしていきたい。理想の追求と利潤の追求のバランスを保ちながら、誰もが運動を楽しめる環境を整えていきます。習い事として利益を追求するだけではなく、社会課題の解決に貢献することが私たちの使命です」と熱く語った。