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株式会社地圏環境テクノロジー 代表取締役社長

田原康博

YASUHIRO TAWARA

1981年生まれ。福井県出身。2006年、株式会社インクス入社。2007年、株式会社地圏環境テクノロジー入社。取締役を経て2018年より現職。

 同社のメイン事業は、流域水循環シミュレーションシステム「GETFLOWS(ゲットフローズ)」を使った、水問題のコンサルティングだ。ゲットフローズは同社が独自開発したシステムで、田原氏は「コンピューターの中に、もう一つ別の世界を作るイメージです。コンピューター内の大地に雨を降らせると川や湖ができる。そのように川や湖などの表流水と地下の水の流れをシミュレーションして水害や汚染、資源などの水問題への理解と対策につなげるツールです」と説明する。

 同社にはさまざまな依頼が寄せられるが、例えばトンネル工事で、山を削ると川の水が枯れてしまったり、川の生態系に影響を及ぼす恐れがあるので、リスクなどをゲットフローズで事前にシミュレーションし、予測された状況に応じて対策を立てる。「人間が自然に何らかのインパクトを与えると、少なからず水に対して変化が起こります。それらを適切に評価するのが仕事です」と話す。

 田原氏が社長になったのは、「業績が悪化しており、会社を立て直したいと思った」と前社長に事業計画書を提出したことがきっかけだった。計画書の内容が評価され、社長を任されたが、不安もあった。「つぶれたらどうしようと思いました。ただ、自然を理解したいという人間の本質的なニーズは、いつの時代もなくならない。そう思えたから、怖くても続けられた」と明かす。田原氏の言う通り、水問題へのニーズは普遍的なもので、社長就任後業績は順調に回復し、現在も会社の規模は大きくなっている。

 社長になってまず取り組んだのは、全社員に会社の方針や状況を見える化することだ。田原氏は「会社が船だとして、社員が船員だとすると、やはり目的地と今どこにいるかが分からないと進めない。これらを共有することが大事だと思った」と話す。

 また、自身の提案で会社を変えたとも言える田原氏は、社内に提案文化も構築した。「それまでは公共事業の仕事が中心でしたが、社長就任後は民間の依頼を増やしました。その分、こちらから提案できる余地が増えた。頂いた仕事の中から新たな課題を見つけ、小さなことでも良いので新しい要素を入れるよう呼びかけました」。こうした取り組みで新規顧客の獲得につながっているという。

 田原氏自身も「やっていることは真面目」と話すように、高度な知識や技術が必要なプロジェクトを引き受けている同社だが、社風は良い意味でフラットだ。「総務部の提案から、ウェルビーイング制度ができました。歯のホワイトニングや生花教室など、社員の人生が豊かになることに対して、会社が費用を補助しています」という。さらに社内の人間関係も良好で、「会社の飲み会の中で、若手社員が中心となって利きビール大会や利きワイン大会、利き水大会などのイベントを毎回やっています。費用は会社持ちですと笑顔を見せる。

 社員一人一人の裁量も大きく、のびのびと仕事ができる。田原氏は「やりたい人はやればいいというスタンス。突き詰めたい人はとことん突き詰められる職場でありたい。ルールさえ守れば、自分が成長するために働きたいように働いてもらって構いません」と胸を張る。成果を出した社員は正当に評価し、昇進や昇給できちんと還元する体制だ。

 そんな社員とともに田原氏が成し遂げたいのが、世界中の水の流れを解き明かすことだ。「ゲットフローズの範囲を、日本全国だけでなく、国外にも広げたい。全世界の水の流れをシミュレーションし、水に関するあらゆる情報が整備されたプラットフォームとして機能させて、お客様の幅広いニーズに応えたい」と力を込める。

 そのためにも優秀な人材を求めている。田原氏は「一人で突き詰めるのもいいですが、チームで力を合わせれば、できることはもっと多い。会社は1+1が2以上になる側面があると思います。研究とビジネスのいいとこ取りができるような環境です」と職場の魅力を語る。

 人材を獲得した先には、新技術の開発を見据える。田原氏は「新技術を開発して、新製品を生み、売り上げを伸ばす。その利益でまた新たな開発に投資する。このサイクルが理想ですし、それがさらに仕事を面白くしていくと思います」。人々が水と生き続ける限り、同社の挑戦も続いていく。