外資系コンサルティングファームにて、米国および日本の金融機関を対象に事業戦略や新規事業プロジェクトに従事。独自のCRM理論をもとに、米国で航空会社やIT企業などの CRM戦略にも貢献する。帰国後、2014 年に株式会社 Kort Valutaを設立。
2023年4月から「賃金のデジタル払い」が可能になった。賃金のデジタル払いは、「デジタルペイロール」とも呼ばれ、企業が銀行の口座を介さず、スマートフォン決済アプリや電子マネーを利用して給与を振り込む仕組みだ。送金の手間を減らし、支払いの柔軟性を高める点で注目されている。
そんな中、Kort Valutaは2023年11月に資金移動業者に登録された。2025年1月31日時点の資金移動業者登録数は日本でわずか82社、その内、厚生労働大臣の指定を受けた「賃金のデジタル払い」が認められる資金移動業者は日本国内に2社しかいなく、Kort Valutaは指定資金移動業者を目指して申請を準備している。「賃金支払い市場の1%を獲得するだけで、2.3兆円の市場規模となりますが、他の『賃金のデジタル払い』指定資金移動業者はグループ内に銀行があるため、業者間での連携が難しく、本当の意味で賃金のデジタル払いを生かせるのは独立したフィンテックベンチャーだけ。この状況を作るために、10年かけて各省庁に働きかけてきました」と力強く語る。
同社が提供するTwooCa Walletは、Visaのプリペイドカード機能に加え、社員証や学生証、そして会員証などとしても利用でき、今後はデジタルペイロールサービスに対応する予定だ。TwooCaのデジタルペイロールサービスは、ペイロールロイヤリティーとして大手飲食店で使えるクーポンや優待を毎月受け取ることができるなど、カフェチェーンやラグジュアリーブランドなど特典や優待が付与され、毎月の楽しみが増える仕組みとなっている。
さらに、TwooCa Walletでは、毎月の賃金に加え、従業員同士で感謝のメッセージや少額の報酬を送り合う「ピアボーナス」の仕組みも検討しており、従業員が互いに感謝の気持ちを報酬という形で表すと、追加で収入になる。TwooCa Walletは、カード決済手数料や登録料、ECモールの販売収益、広告収益などから利益を得ており、その一部を利用企業に還元することも検討している。
柴田代表は「企業が受け取った収益を社員に配分することで、賃金にプラスして収入を得られる仕組みを構築しています。社員は自分の頑張りに応じて、賃金とは別に収入を増やせる」と語る。
TwooCa Ringは、Visaのタッチ決済に対応した健康管理機能付きスマートリングだ。毎日の健康管理ができるだけでなく、一部地域では公共交通機関や自動販売機でVisaのタッチ決済に対応している。TwooCa Walletと連携することで、利用者の趣味・嗜好、関心のある業界、生活習慣、健康状態に関するデータを取得・管理できる。
これらの情報はAIコンシェルジュ機能によって学習され、自分よりも自分のことを理解した「デジタルセルフ」としてスマートフォン内に構築される。柴田代表は「このデータを企業に提供することで、利用者は自分に最適なサービスを受けられる可能性が高まります。一方、企業にとっても精度の高い顧客データとなり、利用者と企業の双方にメリットのある効果的なマーケティングが実現する」と期待する。
また、収集データを元にターゲティングを行い、TwooCa Walletのアプリ上で利用者のニーズに合った広告を表示することを検討している。さらに、企業はデジタルペイロールサービス利用者のデータを採用活動に活用することも可能になるという。
柴田代表は「人々が物々交換で相互扶助しながら暮らしていた江戸時代のような分散型社会に世の中を戻したいと思っています。その昔からある概念をテクノロジーで表現することで、人の価値とその対価は、権力者に決められるものではなく、個人が自由に決めることができる世界になるはず。多くの人が自分らしく、安心して楽しく暮らせる社会を作りたい」と熱く語る。
既に米国でミレニアル世代やデジタルネイティブと言われる世代へ向けて発信し、多くの共感を得ている。日本でも今後の普及を目指している。「分散型社会は、私たちの取り組みだけでは実現しません。多くの人に利用してもらうことはもちろん、利用者や企業にこの概念を知ってもらい、ポジティブなサイクルを生み出したい。より多くの人に魅力的に感じてもらえるよう力を尽くしたい」と意気込んだ。