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株式会社からだ元気治療院 代表取締役

林秀一

https://www.karada-genki.com/
HIDEKAZU HAYASHI

1976年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、株式会社テレビマンユニオン、株式会社ベンチャー・リンク、ソフトバンク株式会社を経て独立。コンサル業や代理店業を経て、2006年沖縄で「琉球治療院」開業、1年半で県内最大手に。5年で全国200店舗のフランチャイズ展開に成功。

 「からだ元気治療院」の原点は、約18年前林代表が沖縄に移住してゼロから設立した琉球治療院にある。オープンから5年で売り上げを10倍に成長させ、そのノウハウを提供する形でフランチャイズ展開を推進した。5年後には、全国に200店舗を展開するまでに広がった。現在では、老人ホームやデイサービス、居宅介護支援事業所、障がい者向け施設など、介護福祉分野にも進出。さらにクリニック誘致を含めた医療・介護・福祉の複合施設の全国展開を目指している。

 「すべての基軸は、伝統医療です。伝統医療の役割は、終末期医療と未病への対応で、元々鍼灸やマッサージの訪問治療を始めたのも、疾病の末期や寝たきりの人、高齢者、自由に外出できない人を救済したいという気持ちからでした。高齢者や障がい者と関わるなかで、次に何をすべきかが見えてきた。その結果、介護福祉や未病という分野で事業を拡大していくこととなりました」

 7年前には、沖縄でオリジナルの和漢茶を提供するメディカルハーブカフェをオープンした。「バイオや薬の由来を突き詰めると天然の生物にたどり着く。開発コストをカットした業態として、日本商工会議所のビジネスプランコンテストで入賞したのがきっかけでした。どこの国でも手軽に摂取できる和漢茶を、個々の健康美容の悩みや健康診断の結果を基に、最適なオリジナルブレンドで提供するカフェです。昨今、西洋医療発祥国ドイツでも、医者はまず薬ではなくハーブティーを勧めています」と語る。

 カフェには、薬膳料理やスイーツの提供のほか、美容鍼を受けられる治療院も併設。健康と美容を総合的にサポートする施設となっている。林代表は「社会保障支出が増大する今、病気を予防するためには伝統療法の活用が不可欠ではないでしょうか。メディカルハーブや和漢茶を日常に取り入れる場所を日本全国に広めていきたい」と先を見据える。

 現在は、インドの伝承医学であるアーユルヴェーダにも関心を寄せる林代表だが、原点は鍼灸・マッサージ。鍼灸に興味を持ったのは、究極の社会貢献を目指した結果だった。

「伝統療法とは全く異なる業界から、27歳で起業し、コンサルタント業や通信キャリアの代理店などを始めました。思うように成功できず、20代後半になって周りに出遅れてしまったと思い、ここから挽回するには、世のため人のためになる社会性の高い事業、つまり〝究極の社会貢献〟こそ、次世代産業だと考えました」と振り返る。こうして、かつて治療院のコンサルティングを依頼されたことを思い出し、改めて治療院について学ぶ中で訪問治療に行き着いた。

 「治療院を構えるとなると施術スペースが必要になり、患者さんの人数も限られる。ですが、訪問治療であれば広いスペースもいらず、鍼灸師とあん摩マッサージ指圧師を雇用すればするほど、救える患者さんも増える。社会的弱者である高齢者や障がい者。歩いて治療院に通えない方々に特化できる。それこそが社会奉仕であり、社会貢献だと。思い立ったら吉日ではないですが、すぐにそれを形にしようと行動を始めました」

 老人ホームの運営もまた、社会貢献の理念から生まれた事業だった。「当初は訪問治療が必要な高齢者を介護事業者から当社の治療院に紹介してもらう立場でしたので、競争相手になることを懸念しました。しかし、他では受け入れが難しい高齢者を専門とする老人ホームなら、競合にならない。〝介護難民〟の受け皿を業界最安値で作ろうと決意しました」と力を込める。

 順調に事業を広げていった林代表だが、老人ホーム設立時には介護事業所からの紹介が激減するという壁に直面した。「ターゲットを変えて競争を避けたつもりでしたが、脅威と見られたのでしょう。紹介が減ったことで、患者を増やすための試行錯誤を重ねました。その結果、からだ元気治療院を全国に展開するにふさわしいノウハウがたくさん生まれました」と明かす。

 ピンチのときこそ、思いもよらぬ縁が救いとなったという。「その昔、宮古島で整形外科の先生にあいさつしたことがあったんですが、その先生は治療院にあまり良い印象がなかったようで、冷たくあしらわれました。ですが、お話をしていたら、その先生の生家が当社の老人ホームの近くにあり、恩人だという叔父さんにあたる方を過去に連れてこられていたのです。お互い入所相談の時の記憶がよみがえり、手厚いサポートをしてくれたと感謝してもらいました。宮古島では、その先生が味方になって、順調なスタートが切れました」と笑顔を見せる。

 からだ元気治療院の全国展開も、林代表が日本商工会議所青年部の役職を務めていたことが大きかったという。「全国を巡る中、出会った人から人への紹介など、初期の頃はその縁で加盟店が増えていきました。メディカルハーブカフェも那覇新都心という沖縄の基幹となる場所にオープンできましたが、それも知人の紹介物件。とんとん拍子で進むときには、人のご縁がやっぱりあるのかなと感じました」と語る。

 医療や介護の制度は国の政策に大きく左右されることも多く、林代表は、国会議員や官僚との連携を通じた制度改革にも積極的に取り組んでいる。「保険診療での鍼灸・マッサージ治療をなくせ、という声が上がったこともありました。そういったことは現場を見ていない人から出てくる。国と現場との声をつなぐ役割を今後も担っていきたいと考えています。日本の鍼灸・マッサージは世界に展開すべきものですから、日本が主導権を持ってエビデンスを取って、海外に価値を伝えていくべきだと思います。メディカルハーブカフェのような誰でも気軽に体験できる場所を世界中に増やし、伝統療法を価値あるものとして広めていきたい。我々の理念に共感してもらえる企業と一緒に展開していきたいという思いもあります」と展望する。

 鍼灸・マッサージをきっかけに、日本から世界へと伝統医療の価値を発信する。林代表の挑戦は、今後も広がり続ける。