1965年12月22日生まれ、法政大学社会学部卒。茨城県教育財団埋蔵文化財部の調査研究員を経て、2010年に独立(関東文化財振興会株式会社)。主に公共事業案件の遺跡発掘調査及び報告書作成業務を行う傍ら、ボランティア活動の一環として学校や各種団体へ赴き、郷土史や考古学に関する授業を行っている。
文化財を経済の中心に
日本は発掘調査の水準が高く、文化財に対して真摯な国の一つと言われている。近年の発掘調査は、文系に属する考古学と化学や物理学、生物学など理系分野との融合が進んでいる。民間の発掘会社には主に3種類あり、考古学出身者、測量会社、大手ゼネコンや土建会社に分類できるという。なお、関東文化財振興会株式会社は考古学の見地に基づいて事業を展開している。
世界の国々に目を向けると、日本とは発掘調査に対する動機が異なるという。宮田代表は「世界の国々は学術調査がメイン。発掘調査を主に行うのは大学か国です。また、日本以外の国では、主に予算などの理由で十分な発掘調査が行われていないのが現状です」と説明する。
文化財の発掘調査および保存には莫大な費用を必要とする。わずか一部の遺跡では観光地化することで収益を図っていたが、やはり不十分であるのが実情だ。宮田代表はこの現状を打破するため、文化財自体が「生きたお金」を創出することが欠かせないと指摘。そのためには、経済を回す動機づけをしなければならない。そこで宮田代表が思い至ったのがメタバース技術を活用した経済特区の構築だった。メタバース空間であらゆる経済活動を行い、利益を 文化財を有する国や地域に還元し、発掘調査に費用を捻出した企業にも利になるという発想だ。
「例えば、エジプトは未開な部分もあり、修復しないといけないものも多くあります。メタバース空間でピラミッドを復元しながら現実世界で発掘を行い、費用は経済特区に賛同する民間企業から募ります。そして、費用を捻出した企業には恩恵を与えます。具体的には、メタバース内でビジネスを行う権利を与えること。そうすることで特区内で経済活動も活性化しますし、文化財の発掘調査や保全も費用の面で可能になるサイクルが構築されるでしょう」と民間企業の協力の必要性を訴える。
メタバース技術の光と影
文化財への強い思いから具体的な構想を抱える宮田代表だが、理想を実現するまでの道のりには壁が立ちはだかるという。「具体的には通貨、そして法整備の問題が挙げられます。仮想通貨を導入しようにもさまざまな種類があるので、通貨の兼ね合いと安全対策は必要になるでしょう。加えて、世界から多くの人々がメタバースに来ることになるので、万人に共通の法律を整備しなければなりません」という。
日本は法整備の速度が遅いとしばしばいわれる。それは、民間企業によって立法や法整備の提案が行われる文化が根付いていないためだ。「例えばアメリカでは、法律に特化した企業があります。新たなビジネスを行うため、法整備を提案することは一般的ですが、日本ではほぼ見受けられません。現在発展がすさまじいAI(人工知能)についても、国が主導で法整備を行うと時間がかかる。世界を見ると、特にアメリカのように、大企業が新たな法制を提案する時代になってきていると思います」と宮田代表は指摘する。
さらに、バーチャル技術についても「メタバース空間における人間の感覚についても研究が行われています。具体的には五感。例えば、ものを噛むという行為は、脳に電気信号を送ることで追体験が可能ではないかという理論もあります。しかし、食事をしているわけではないため、実際は空腹のままなのです。その状態で人間が満足感を得られるとしたら、生命活動の面で非常に危険です。そのため、法的に認可すべきかという議論が必要になってくるのです」とし、疑似体験の光の部分だけではなく、影の部分にも焦点を当てる必要性を強調する。
世界を舞台に多くの人々に恩恵を
技術の急速な発展に法整備が伴わないことは往々にしてある。そのような中、宮田代表は自身の構想が実現すると、文化財だけでなく世界中の人々にとっても利益があると語る。「国によって経済的な貧富の格差が存在しますが、世界中にこの構想が広がれば、現地経済に貢献することができます。実際、貧困が深刻な国では文化財へ国家予算を回すことが難しかったのです。そのため、文化財の発掘調査が進まなかった経緯があります」と説明。文化財のメタバース化は現地の人々の雇用など経済活動を促し、利益をさらなる文化財の発掘調査に充てることも不可能ではないという。
また、身体の障がいや、国々の距離を克服する可能性も秘めていると補足する。「メタバース空間さえあれば体が不自由な方も利用可能ですし、雇用につながることもあるでしょう。また、サービス業ではあらゆる国の人々を雇い、母国語が共通な方に接客することもできます。現在まで存在していた数々の制約を克服する一歩となるはずです」と未来を見据える。
文化財の発掘調査を行う傍ら、宮田代表は市民講座の講師や小中学校での授業を通して文化財にまつわる啓蒙普及活動も行っている。「地図上で遺跡がある場所を丸をつけて見せることがあります。生徒たちは身近に遺跡があることを知ると、喜びの表情を見せるのです。さらに、教科書に書いてある歴史の偉人が生徒たちの身近な道を通っていただろうと説明すると、びっくりされることもあります」と笑顔を見せる。
宮田代表は「過去から未来につながっているという実感は大切」と総括する。その一言には、文化財への前向きでひたむきな想い、そして素朴な本音が表れていると感じさせられた。