医学部卒業後、東京女子医科大学第一内科(呼吸器内科)に入局。2003年から2012年にかけて、済生会栗橋病院、日扇会第一病院在宅診療部長として勤務し、ぜんそくや難治性咳嗽の経験を積む。2013年に長引く咳の治療を得意としたいりたに内科クリニックを開院。2016年に勝榮会理事長に就任し、東京女子医科大学呼吸器内科の非常勤講師も務めながら、人材育成に注力した活動を続けている。
法人のミッションは「医療業界を学生たちが憧れる職業にする」こと。資格がなくても、人や社会に貢献できる舞台の一つが医療業界だと信念を持っている。ただし、活躍するためには確かな実力が求められるのも事実。そのため、法人では人材育成に特に力を入れている。
具体的には、スタッフ全員が勤務時間中に学びをシェアする時間を設けることがルール化されている。学ぶ内容は、割り当てられた業務に関連するものだけでなく、個々が関心を持つ分野にも広がる。例えば事務スタッフであれば、SNSマーケティング、マネジメントなど、業務に活かせるテーマならば自由に追求できるのだ。スタッフは誰もが個人もしくはグループでそのテーマを深く掘り下げし、業務に役立つレベルの知識やスキルを身に付けている。
「課業と興味関心のスキルの掛け算をし続けることで、誰もが独自性を磨けます。それにより、各人が日本一の人材となる可能性が広がる。そんなスタッフを育成することが、私に課せられた使命です」と強調する。
同法人はクリニック規模では珍しく、新卒採用に力を入れている。会社合同説明会に積極的に参加し、学生に医療業界の魅力を伝え、若手スタッフには早期に予算と裁量を与え、挑戦できる環境を提供している。例えば、入職後まもなくSNSプロジェクトを任されたスタッフは、1年程度でフォロワー数2万人を獲得した。フォロワー数は現在も着実に伸び続けているが、意識していることは、法人ならではの魅力を見つけ出して発信することだという。自社の魅力を語れ、さらなる高みを目指すことが、自分自身、所属組織、職業、サービスに対する四つの自信を築くことにつながっている。
このような取り組みは、毎月報告会形式のプレゼンテーションでも共有される。各月の活動内容、成果、新たな課題、今後の目標などが発表されるこの場には、スタッフだけでなく、法人の経営に関心を持つ外部見学者も参加する。「外部の先生方の参加は、当法人の医療コンサルティング事業とも関連しており、互いに刺激を与え合い、機能していると言えるでしょう」と語る。
今後、法人では医療コンサルティング事業に注力する計画だ。入谷氏は、自らのクリニックが生み出した成功事例を広く共有し、そのノウハウを惜しみなく提供する方針を掲げている。「医療業界全体を盛り上げたいと考える私たちは、自分たちだけの繁栄を目指しているわけではありません。1日に200~300人の患者さんが訪れるクリニックづくりとは何かを積極的に提示し、他のクリニックでも応用可能な仕組みなどを見つけ出していただければと思います」
一方で、AIが注目を集め、多くの業務が自動化される時代においても、入谷氏は「人」の重要性を強調している。医療とは、人がいなければ成立しない世界だ。そのため、「人」をひたすら磨き、患者の心の機微を読み取り、都度最適な対応ができるスタッフを育成することが、法人独自の付加価値を生むと考えている。また、単に「人を育てる」だけではなく、「人が育つ」風土づくりも重視。スタッフが能動的に学び、成長できる仕組みをこれからも積極的に取り入れていくという。
今の若い世代は社会貢献意識が高く、「誰かに喜んでもらうために働きたい」という声をよく耳にする。その点で、医療業界は特に魅力的だ。入谷氏は「患者さんとは長い付き合いになることが多く、感謝の言葉を直接受ける機会も少なくない。さらに、日々学び、自身の成長を実感できる環境が整っていれば、広範囲にわたる強い『自信』と『実力』が養われる。その結果、スタッフは『選択できる人生』や『人から必要とされる人生』を築くことができる」と語る。
「10年間、このスタイルでスタッフの満足と患者さんの安心を築いてきましたが、種まきと言える段階はおわりました」と振り返る。新たなステージに到達したと考え、今後はセミナー事業やコンサルティング事業を強化し、2025年には分院を開設する予定だ。新しいステージでは、医療業界が人生のやりがいを見つける選択肢の一つとして位置づけられるよう、これまで以上に工夫した取り組みを実施していく。