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鈴興株式会社 代表取締役社長

鈴木博彦

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HIROHIKO SUZUKI

静岡県浜松市出身。96年に中学校を卒業後、プロサッカー選手を目指しブラジルへ。2年目に網膜剝離を発症し帰国、6度の手術を経験するものの、右目を失明。ショック症状から精神疾患を患い、1年以上の闘病生活を送った後、2000年に家業の鈴興株式会社へ入社。さまざまなポストを経て、2016年に代表取締役就任。同年、愛知県名古屋市の自動車用アルミホイール販売会社、株式会社共豊コーポレーションの監査役に就任。

 鈴木代表はかつて、経営の神様になると発言したことがあるという。一般的に経営の神と聞くと、国内外問わず大手企業の有名経営者を思い浮かべるが、鈴木代表はそのような有名経営者たちを目指しているわけではない。また、売り上げや利益ベースで会社の規模を拡大することも第一の考えではない。鈴木代表の考える神とは、まずは身近な人たちが豊かになるよう尽力する存在。そのためには、人間性や人間力を鍛える必要があるという。

 「プロサッカー選手を目指してブラジルに行った際に言われたのは、プロになりたければ人間力を鍛える必要があるということ。私は当時、理解できていなかったのが正直なところです」と振り返る。そして30年近く経った今、鈴木代表は自分なりの答えを得た。「サッカーのプロ選手は多くいますが、なぜ彼らが神として称えられているのか。それは一定のファンや周囲の人々を満足させ、心を豊かにさせているからです」

 経営について鈴木代表は「経済を自分自身が回している意識が理解できないと、経営という仕事をするのは難しいと感じます」と語る。「金額が100円でも100万円でも経済は回っている。ですが、売買している人の中で経済を回していると意識する人は少ないと感じます。例えば、900円と1000円で同じ価値のあるものが売っていたら、ほとんどの人は900円のものを選ぶでしょう。しかし、その100円の差に景気は左右されます。もし100円高いものを買えば、お店の人の給料が上がるかもしれません。その考え方が結果、間接的に世の中に貢献することになります」といい、「国内、もしくは世界全体でお金や経済が回れば、賃金が上がって給料が上がる。全体が豊かに幸せになり、平和に向かっていく。楽観的かつシンプルな思考ですが、そのようなささやかな希望を込めたのが『経営の神様』という発言です」と真意を明かす。

 実際、鈴木代表は鈴興株式会社の企業理念を体現する取り組みを行い、周囲の人々の幸福に貢献している。同社の企業理念は「人間尊重、相互信頼、共存共栄」だ。人を尊重しなければ相互信頼は生まれない。そして、その二つが成り立った時にこそ、共存共栄が生まれるという。

 鈴木代表は「当社は仕入れメーカーとお客様の間に入る商社。そのため、信用信頼関係の基で事業が成り立っています」と話す。同社の最重要事項は仕入れメーカーと顧客の間に入り、円滑にビジネスを進めていくことだ。そのためには、仕入れメーカーや顧客と輪を作ることが重要と考え、滞りなく事業を行うために、社の行動指針や理念を日々、従業員に徹底周知しているという。

 SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する考えが普及し、各企業が取り組みを行っている。同社も環境への配慮や社会貢献を重視しており、持続可能なビジネスモデルを構築していくことを目標に掲げている。また、小規模ならではの小回りの良さを生かし、即実行を心がけ、地域社会と協力していくという。

 時代の流れを眺め続けてきた鈴木代表は、特に発展していく技術の影に隠れた環境問題に関心を寄せる。「アインシュタインが尊敬していた哲学者は、神様のことを、存在するとしたらそれは自然現象だと発言していたそうです。つまり、太陽や雨や雪などの自然現象こそ、神といわれてもおかしくないということです」とし、現在、地球の環境を損ねているのは人間だと指摘する。「人間と自然が表裏一体だとすれば、人間が全員神の視点を持てば地球環境を大事にするはずです。これからは視点を切り替え、実行していくことが重要です。そうすれば、今ほど悲惨な状況は減っていくでしょう」と力を込める。

 人類は今や地球のみならず宇宙開発にも着手し、夢がとどまることはない。視点を切り替えていくのと同時に、「上ばかりを見すぎていると、足元をすくわれる可能性もあります。進化や発展もいいことですが、足元にある仕事の重要性にも気づかなくてはいけません」と堅実さの重要性を語る。

 言葉は非常に強い力を持つ。特定の領域で「神になる」と発言することは、相当の勇気が必要だ。そのような中、鈴木代表は確たる覚悟を持って自らの思いを積極的に発信している。ひたすら謙虚に、周囲の人々の幸福の輪が広がることを願い、信念を貫いている。「自分の発信力、伝達、動きによって、誰でも誰かにとっての神になれるはずです」と鼓舞する言葉は力強い。