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H.R.D HOLDINGS株式会社 代表取締役社長

原田宗一郎

https://hrd-holdings.com/
SOICHIRO HARADA

高校卒業後、酒問屋や飲食店などさまざまな職種を経験し、24歳でハラダ製茶に入社。工場での現場作業や配達業務に従事した後、営業部門へ異動し、新規開拓を行う総合職として活躍。42歳でハラダ製茶株式会社の代表取締役に就任し、M&Aなどを通じて事業拡大を推進。現在に至る。

 2023年に設立されたH.R.D HOLDINGS株式会社のルーツは、1917年に創業した事業体にさかのぼる。1948年に「ハラダ製茶」として再編され、静岡を拠点に国内緑茶市場の約1割を担うまでに成長。現在では葬祭事業など多角的な展開も行っている。

 4代目代表取締役を務める原田氏は、同社の革新に力を注ぐ。「社名から『茶』の文字を外さなければ変革は実現しない」との考えから、H.R.D HOLDINGS株式会社へと改称。また、事業の中心地を岡から東京・日本橋に移したことにも原田氏の意気込みがある。

 原田氏は、高校卒業後18歳で社会人としてのキャリアをスタート。さまざまな職種を経験した後、24歳でハラダ製茶に入社し、配達業務からスタートした。その後、工場現場や営業、総合職を経て42歳で4代目代表取締役に就任。「3代目の社長は早稲田大学を卒業したエリートでした。そうでない私は、周囲の優秀な社員の力を借りる必要がありました」

 彼のモットーは「迅速な対応」。思いついたアイデアは5分以内に担当者に伝え、現場で実現可能性を確認し、すぐさまフィードバックをもらう。「高速でPDCAを回し、変化し続けることが大切」と話す原田氏は、日本初の烏龍茶大量生産ラインの立ち上げを実現した。

 日本の緑茶市場は逆風にさらされている。国内消費量は年々減少し、縮小する市場を前にハラダ製茶も課題に直面していた。「緑茶は葬儀の引出物として一定のギフト需要がありますが、コロナ禍を経て参列者が減少し、緑茶ギフトの出荷量も減りました。一方で、家族葬の増加に伴い、葬祭事業の収益は向上しました。しかし、親会社がハラダ製茶であるがゆえに、お茶以外のギフトの選択肢が限定され、事業運営の柔軟性が制限されていました。その結果、競争力が弱まり、収益を上げているにもかかわらず『緑茶を売らねば』という縛りが足かせとなっていたのです」

 この状況を打破するため、ハラダ製茶は親会社と子会社の垂直的な関係を解消し、葬祭事業などを含む複数の事業を持株会社のもとで水平的に再編。グループ全体での成長を目指す体制を構築した。さらに、持株会社の社名から「茶」の文字を外すことで柔軟性を確保し、事業間のシナジーを強化することが今回の持株会社設立の背景にある。

 「10年後には緑茶の生産農家が半減するのではないでしょうか」と、農業生産法人も運営する原田氏は危機感を示す。日本の緑茶生産は転換点を迎えているという。最大の課題は、農業従事者の高齢化と後継者不足であり、技術継承には10年単位の時間が必要だが、猶予は少ない。また、農家を取り巻く環境は厳しさを増している。農産物価格が長年据え置かれる一方で、人件費や設備投資などのコストは上昇の一途をたどる。さらに、都市化により、騒音や除草に関して近隣住民とのトラブルも増加している。

 「草刈りは病害虫を防ぐために、農業に必要不可欠な作業です。しかし、エンジン音が騒音としてクレームになることもあります。仕方なくバッテリー式の草刈機を使いますが、パワーが不足でコストもかかります」と語る。

 農園周辺の宅地化が進む中、「農業のあたりまえ」が通用しなくなっている現状に、原田氏は

消費者との相互理解が鍵だと強調する。「農業の実態やその価値を知ってもらい、適正な価格転嫁を実現することで、持続可能な農業システムの構築を目指すべきです。そのためには、生産者側も積極的に情報発信を行う必要があります」

 アイデアを生み出しながら、緑茶生産と販売の変革を目指す原田氏。同氏は、次世代の農業の在り方を見据えながら、後継者の育成に注力している。後継者を育成するためには、生産者にとってもワークライフバランスを実現する環境が必要だと語る。現在、世の中の賃金が上昇する一方で、農産品の価格は据え置かれたままだ。

 「スーパーの店頭に並ぶ大根を思い浮かべてください。1本150円と、長年変わらない価格で販売されています。しかし、アルバイトの基本給は上昇しており、農業にかかる長時間の労働やコストが正当に反映されているとは言えません。さらに、気候変動によるリスクも増大しています。毎日の生活に欠かせない農産物の生産を継続させるためは、生産者が適切な対価を得られる仕組みが必要です。大多数の人が購入する商品を、同じく多くの人が続けられる仕事として成立させなければ業界そのものが成り立ちません」

 原田氏はこうした課題を踏まえ、緑茶産業の持続可能な未来を目指して変革に挑んでいる。