神戸大学を卒業後、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社。2005年にバイエルメディカル、2007年に武田薬品、2018年に参天製薬に入社し、執行役員人事本部長などを歴任。2020年に積水ハウスに入社し、執行役員人財開発部長などを歴任。2023年 株式会社HR&Bを創業。2024年に立命館大学大学院経営学研究科客員教授着任。
藤間代表は、国内外の製薬会社等の人事領域で活躍し、責任者として人事を統括し、改革を担ってきた。その経験を経て独立し、経営幹部層や管理職と数多く向き合ってきたからこそ、見えてきた課題がある。
「企業の上層部の方々は、良い戦略を立てればそれで勝てると思いがちです。だが、立てた戦略を部下にうまく伝えることができておらず、部下自身もやる意味がよく分からないまま、言われたからやろうと進んでしまいがちです。当然、やる気も起きず成果も変わってきます。戦略を立てた方自身が翻訳者となって、それぞれの部下に応じて理解できるように伝えなければなりませんが、なかなかうまくいっていない」と指摘する。
エリートコースを歩いてきた社員が管理職となった場合、その部下が潰れてしまう原因もここに大きく起因する。「『上司は話をしてくれない、嫌われている』と思い詰めてしまう人もいます。上司は、『言わなくても分かるだろう』と部下を信じていたので、一言部下に声をかけるだけで良かったのです。それだけで違う結果となったはずです」と分析する。
藤間代表は「日本の経営層や管理職が、戦略実行や人材育成のためのコミュニケーションに注力をすれば、一気に会社が成長するチャンスにもなる」と断言する。
藤間代表自身、多くの優秀なグローバルリーダーと仕事をしてきて、部下のモチベーションを高める人たちと出会ってきた。厳しく指導をしても、毎日帰り際に藤間代表のところにやってきて「また明日ね」とニコッと笑ってくれる上司や、激しい会議の中で秘書が「スマイル」と言うと、はっと我に返って厳しい表情からにこやかに変わる経営者など、彼らの笑顔や表情が会社への安心感をもたらしたという。
藤間代表がバイエルメディカルで働いていた当時のルイス・デ・ルズリアーガ社長は、藤間代表によく「君はどう思う?」と問いかけてきた。「そう聞かれるので、それまでの社長の発言を暗記していたのですが、その発言について『私はどう思うのか』を考えるようになり、シミュレーションをするようになりました。そうすると、理解度が非常に上がり、メンバーに自分の言葉で伝えられるようになりました。『君はどう思う?』は魔法の言葉だと思いました」と述懐する。
上意下達となりがちな日本企業では、もし意見を上司に言っても、否定される恐怖や自身の考えが足りないのではないかという恐れから意見を言えないことがほとんどだ。そこで、「君はどう思う?」と必ずワンセットの言葉があるという。
「ニコッと笑って、『ありがとう』と言うのです。部下の意見が間違っていても、そのときに『間違っている』と指摘したら何も言ってくれなくなりますから、『面白いこと言うね』『その発想はなかったな』など言って、最後には必ず笑って『ありがとう』と締めてください」と笑顔を見せる。
この効果は絶大で、ある顧客は「初めて見るぐらい部下の目が輝いて、すごくうれしそうな顔した。これは忘れられない」と藤間代表に伝え、「君はどう思う?」「ありがとう」をセットにした「サンキューキャンペーン」を社内でスタートしたという。
部下が意見を言える環境ができれば、部下からの多角的な意見が加わって、戦略に強い推進力をもたらす。例え社長から「これをやれ」というお達しがきても、これまでとは状況も変わってくる。「上司と部下の間でそれについて意見が交わせるようになります。『社長はああいう風に言っている、私はこういうふうに思っている。君はどう思う?』『ああ、そうなんですか。 私はこう思っています』『なるほど、じゃあこういう事かな』と一緒になって相談して、正解かどうかは別としても、自分なりの腹落ちができればそれが行動力につながります」
重要なのは「何をするか」「誰とするか」だという。そこに価値が生まれたら社員が企業に対して思い入れを持つエンゲージメントと、モチベーションを高められる。藤間代表は「言われたことを粛々とやらされるよりも、意見を聞いてくれる上司と、納得感を持って仕事したいものです」と語る。
「君はどう思う?」と笑顔の「ありがとう」。藤間代表は、その魔法の言葉で自律的な人が増えて、組織は活性化すれば、幸せな日本をもたらすと確信している。
海外での駐在歴が長い藤間代表は、日本人の優れている特性とその生かし方について、「integrity(インテグリティー=誠実さ)」がポイントだという。「この言葉は、単なる誠実さ以上に、人の人格を褒める最上級の言葉です。integrityは鍛えるものではなく、規律を持って育てられた日本人がほぼ持っています。例えば災害時の被災者が配給を並んで待つ映像は、海外では『とても信じられない』と言われます。でもこれが日本では当たり前の規律なのです。そして日本人は非常に根性がある。これは逆に良くないところでもありますが、やれといわれたらとことんやることができます。だからこそ、クオリティーの高い従業員をただただオペレーションに従事させてしまうことにもなります」と語る。
良い特性を持っている日本人だからこそ、リーダーによって能力が生かされたら、大きな結果を生み出すという。「上司が明確に指示して、物事の優先順位をつけてあげることも必要です。その中で、優先順位が低くてやり残したことも、結果的に大して影響がない仕事だと学び、トライアンドエラーでどんどん無駄な仕事を省いて新しいことに挑戦する時間を生み出すのです。そこで『君はどう思う?』、笑顔の『ありがとう』で新たなアイデアを引き出すのです。社員のやる気の引き出し方を日本の経営陣やリーダーが習得すれば、日本の企業はもっとイノベーションを起こして発展していくでしょう」。藤間代表は日本企業の可能性を引き出していくのだ。